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ベルギーリーグ

【第4回】日本人選手の海外移籍事情 | シント=トロイデンCEOが語る海外移籍の最新事情

【第4回】日本人選手の海外移籍事情 | シント=トロイデンCEOが語る海外移籍の最新事情(C)STVV
【連載インタビュー】昨今、若くして海外挑戦する日本人選手が増えている。現在の海外移籍のトレンドや注目すべきポイントを、日本人選手の主要受け入れ先になっているシント=トロイデン(ベルギー)の立石敬之CEOに聞いた。

――日本では欧州5大リーグ以外、例えばポルトガルやベルギーなどの中堅国や各国2部リーグの価値が軽視されている傾向があると感じています。立石さんは日本人選手の海外移籍の際の行き先の傾向についてどのように見ていますか?

選手たちの中に価値基準があると思います。選手としてのブランドであったり、自分の見られ方だったりには、その国の文化や国民性が反映されますよね。例えば韓国人選手は、現役のA代表でも中東であろうがどこにでも移籍します。なぜなら給料が現状の何倍にもなるからです。

一方で日本人はほとんど中東に移籍しません。むしろ給料を下げて欧州に行くわけです。日本の選手としてのブランドや、自分の見え方というのは、文化や国民性が出ると思います。日韓両国を見るだけでも、あまりにも左右両端にいるような移籍に対する思考です。ある意味で韓国人選手たちのほうがより南米の選手に近いような図太いメンタリティですが、「僕がプレーすべきはこういうところじゃない」「そんなところに行ったらカッコ悪い」「自分の価値が…見られ方が…」というのをすごく気にするのが日本人です。

セレッソ大阪からドルトムントに移籍したMF香川真司や、シャルケに移籍したDF内田篤人選手、あるいはFW武藤嘉紀選手やFW岡崎慎司選手のような移籍が理想だとは思いますけど、それは本当に一握りです。ご存知のようにMF本田圭佑選手は当時オランダ1部のVVVフェンロからスタートしましたし、DF長友佑都選手もセリエAに昇格したばかりのチェゼーナから。ドイツ2部の1860ミュンヘンへ移籍したFW大迫勇也選手など、2部リーグや1部リーグの下位クラブからのステップアップ組が日本代表の主力になって数多く生き残っています。

なので、必ずしも欧州での最初の移籍先がドイツやフランス、イタリアなどの1部リーグでなくてもいいのではないかと思います。決してそれだけが成功の道ではないし、むしろそれは少数派です。最近ではベルギーやオランダからステップアップした選手も多いですし、日本人にとってはそっちのほうがいいのかなと思います。

――近年の日本人選手の欧州移籍におけるパターンの1つとして、一度ビッグクラブに籍を移し、そこから他国のクラブに期限付き移籍してプレーするという流れがあります。

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アーセナルに移籍したMF稲本潤一選手から始まり、FW宮市亮選手やFW浅野拓磨選手などが続きましたね。最近ではマンチェスター・シティが保有権を持つDF板倉滉選手も当てはまりますが、私はこの形にあまり賛成ではありません。

もちろん移籍金を受け取ることができるので、日本のクラブにとってはいいかもしれません。ただ、期限付き移籍でたらい回しにされて、トップチームにたどり着けない結末が多いですよね。選手個々の考え方もあるので決して否定はしませんが、これまでの傾向を見ると、日本人にはあまり向いていないのではないかと思います。なぜかというと、日本には「転職」の文化がないからです。

やはり日本人に関しては、成功例がほとんどないので、ビッグクラブを経由した期限付き移籍はあまりおすすめできません。クラブに大事にしてもらえないんですよ。長谷部誠選手のように、1つのクラブにしっかり信頼されるようなキャリアが日本人選手にとって成功しやすい形なのではないでしょうか。

――Jリーグからビッグクラブに引き抜かれた場合、ほとんどの選手が実戦経験を積むためにレンタルに出されます。そうすると試合に出る経験は得られるかもしれませんが、移籍元のトップチームの選手だけでなく、同様に期限付き移籍している若手選手たちとの競争も強いられます。多い場合50~60人の選手たちと比較されて、落ち着く場所がないまま所属先を変えなければなりません。本当に選手のためになっているのか、という点で疑問は残ります。

まさにそれが欧州で問題になっています。一部のメガクラブ青田買いで有望な選手をかき集めて、50~60人の規模で毎年若手をレンタルに出しています。その中から3人くらいトップチームに残ればいい、というような状況です。もちろんそうは思っていないでしょうが、現実問題そうなっているので、UEFAは1シーズンに1クラブあたり7人までしかレンタル移籍できないなどの新しいルールを作ろうとしています。とはいえ、急に変えることはできないので、シティ・フットボール・グループ(CFG)のように複数のクラブを保有して、その輪の中で選手を動かすような方法を採るようになるのではないかと思います。

――欧州で複数クラブによるアライアンス化が進んでいるのは、レンタル選手を減らそうという流れの一環ということでしょうか?

結局、レンタルに出しても移籍先で使ってもらえないこともありますよね。なので保有する、あるいは提携するクラブを増やして、複数のクラブを同一オーナーの下に置き、その関係性のなかで有望な選手を使ってもらって引き上げるわけです。例えばベルギーではFW三笘薫選手の加入したロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズをプレミアリーグのブライトンのオーナーが所有しています。

他にもベールスホットとシェフィールド・ユナイテッド、セルクル・ブルッヘとモナコ、ルーヴェンとレスター・シティ、コルトライクとスウォンジー、ロンメルSKとCFGなど、共通のオーナーが経営するクラブが数多くあります。今季昇格組のセランもフランスのFCメスが保有していますし、ベルギー1部リーグでは半数近くが他国のクラブの傘下に入っています。

――こうした欧州サッカー界の変化の中で、日本人選手の「売り方」についても聞かせてください。DF冨安健洋選手やMF遠藤航選手などは、どのようにSTVVから旅立っていったのでしょうか?

正直に言うと、黙っていてもオファーは来ません。「あそこで日本人がすごいらしいぞ」と宣伝します。それを聞きつけてスカウトが集まるわけです。この最初の種まきは、GMや強化部長の手腕にかかっています。ドイツやイタリアなど、マスコミなどに各国のキーマンのような人間がいて、そこに情報を流すと、その国のクラブの強化部長にまで流れていきます。こうした手法を使って選手の情報を広めると、スカウトが来ます。

もちろんスカウトが見ている試合でのパフォーマンスが最も重要ですが、もしそこで「いい選手だ」となると、今度は「このクラブは獲得リストに含めた」「あちらのクラブは選手の調査に入った」と競争を作り出します。欧州中のメディアは横のつながりがあるので、例えばベルギーなら『スポルザ』、ドイツだったら『キッカー』、イタリアなら『ガゼッタ・デッロ・スポルト』など各国の主要メディアを巻き込んで協力体制を敷き、「ドイツの〇〇から興味」「イタリアの〇〇から打診」など、獲得競争が生まれている雰囲気を出していくわけです。それをコントロールするのが我々の仕事です。現在欧州でプレーしている日本人選手たち全員に、移籍のための「宣伝」は必要だと思います。冨安選手でさえも例外ではありません。

――実際に試合を見にくるスカウトの数や所属先などは、クラブとしてどれくらい把握しているものなのでしょうか?

ホームゲームであれば全試合、運営担当から試合前にスカウトのリストがメールで送られてきます。もちろん対戦相手の選手を見に来ている可能性もありますが、クラブ名を見て、どちらの選手を視察しにきているか、誰を目的に来ているかはある程度わかります。

――出場機会の少ない選手の移籍はどうなっているのでしょうか。日本に戻るのではなく、欧州でプレーを続けたいという意思を持っている場合、クラブが動いて売却先やレンタル先を探すのは極めて難しいと思います。

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当然、試合に出ていないと見てもらえていないことになります。特に日本から来た選手は試合に出なければ評価されません。また、それなりの給料を受け取っている選手は動くのが難しいと思います。そういったことを考えると、日本人選手が一度欧州で出場機会を失うと、欧州の中で移籍先を探すのは難しいというのを実感しています。まず移籍金が発生する形での売却は難しいです。

そして、Jリーグでいくら試合に出ていても、日本での実績は、欧州での移籍につながるものにはなりません。やはり欧州のどこで何試合出ているかは非常に重要で、もし最初で躓いてしまうと、その先がすごく難しいです。というのも、欧州サッカー界は決断が非常に早いので、1年目でうまくいかないと「この選手は欧州のレベルにない」と見られてしまいます。2シーズンくらいかけてブレークする選手もたくさんいるので、こちらがもう少し我慢したいと思っても待ってくれません。

でも、選手は試合に出たいので、移籍したい。そういったことを考えれば、私は日本に戻ることも決して恥ずかしくはないと思っています。一度Jリーグでしっかり試合に出るのも大事ではないでしょうか。冒頭でもお話しましたが、日本人選手の移籍に対する価値観や美学みたいなものが、海外移籍を少し邪魔してしまっているのではないかとも思います。もっとフレキシブルでいいんです。

――海外へ移籍した選手が短期間でJリーグに戻ると、「失敗した」と見られがちです。

海外に行っても、現地の環境にフィットできないことは当然あるわけで、やり直す勇気も必要だと思います。これは海外ですごく活躍していた外国籍選手が日本に来てうまくいかないことがあるのと一緒です。つまり決して選手自身がダメなのではなく、日本のサッカーに合わない、チームや監督のやり方に合わないことが原因の可能性もあるということです。日本でうまくいかなかった選手が欧州に戻って大活躍することも多々ありますし、大陸をまたいで移籍する、あるいは母国に戻ってくることに対して、そんなにナーバスになる必要はないと思っています。

――ただ、現実問題として世界的に見ると、Jリーグの地位が決して高くないことも「出戻り」に対する障壁になっているのではないかと感じます。

欧州に来てみると、日本でどれだけ活躍しようが、やはり「遠い国」ですよね。よほど日本人選手を受け入れるのが好きな監督やGMでない限り、日本のリーグは見ていないでしょうし、本当のマイノリティです。それを忘れてはいけないと思います。

だからこそ優秀な外国籍選手を獲得することだけでなく、欧州でプレーしていた日本人選手が戻ってくること、あるいは海外との選手の行き来をもっと活発にすることも重要です。

――MFアンドレス・イニエスタ選手のような外国籍のスター選手を獲得するだけでなく、現役の日本代表クラスの欧州組が戻ってくることでJリーグの価値を上げられる。そして、その先には、さらに優秀な選手が集まるリーグになれる未来もあるということですね。

30歳を超えた知名度のある外国籍選手を呼ぶことは、マーケティング的に非常に重要で、イニエスタ選手が日本にいることは欧州でもよく知られています。ただ、欧州サッカー界の視点では、イニエスタ選手も中東へ移籍した選手も同様に「彼らはもう引退間近の選手で、アジアに行ったんだ」としか思われないんです。「日本に行った」という特別な感覚はありません。

なので、Jリーグの次のステップは若くて優秀な外国籍選手を育て、かつてのFWフッキ選手のように世界の市場に乗せることだと思います。欧州から直接、Jリーグでプレーしている外国籍選手に注目が集まるような流れを作れれば面白いですよね。

日本人選手だけでなく外国籍選手も育って、どんどん旅立っていくようなリーグになったら、より注目されると思います。日本人だけでなく、南米人も、アフリカ人も、あるいは欧州のパスポートを持った選手もいて、彼らが23歳や24歳だったら、間違いなく欧州のクラブが5億円以上支払ってでも買いにきます。その流れに日本人選手も乗っていければ、欧州との行き来も活発になるはずです。欧州にもスカウトの取りこぼしはあって、日本にもまだまだ可能性はあると思っています。

――最後になりますが、これまで多くの日本代表選手を輩出し、彼らのステップアップにも貢献してきたSTVVは、今後どのような形で日本サッカー界の発展に貢献していきたいとお考えですか?

私がSTVVに来てから冨安健洋選手や遠藤航選手、MF鎌田大地選手、GKシュミット・ダニエル選手といった日本代表選手を見てきました。そのなかで自分たちが蓄積してきた経験は、日本サッカー協会にもどんどん情報として提供していきたいと思っています。

また、日本の基準を壊し、日本代表に足りないと言われるようなポジションで、これまでの規格を覆すような選手を育てていきたいと思っています。例えばストライカーで言えば、自分で前を向いて仕掛けて点も取って…という選手をSTVVから輩出したい。まだまだやることはたくさんあると思いますけど、STVVを日本人選手たちにとっても日本サッカー界にとっても、欧州での最初のステップとして重要なクラブにしていきたいと思います。

立石敬之 シント=トロイデンVV CEO

高校時代に国体で優勝、海外留学の後、ECノロエスチ、ベルマーレ平塚、東京ガスFC、大分FC/トリニータなどで選手として活躍。その後、エラス・ヴェローナや大分トリニータ、FC東京にてコーチ、強化部長などを歴任し、2015年からFC東京GMとしてチームの強化に尽力。 2018年よりベルギー1部のシント=トロイデンVVのCEOに就任。

取材・文   舩木渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、国内を中心に海外まで幅広くカバーする。

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