【コラム】昨季最終節から約7ヶ月。FC東京は王者を破って勝利の凱歌を響かせる

勝利に沸くサポーターとの特別な時間

青赤の歌唄いたちとの特別な時間が、昨シーズンから新たに誕生した。

昨季の明治安田生命J1リーグ第12節・北海道コンサドーレ札幌戦の試合後、FC東京の勝利に沸く味スタは『You’ll Never Walk Alone』の大合唱に包まれた。選手たちはゴール裏の前に整列し、肩を組んでサポーターたちと一緒になってそれを口ずさんだ。

その試合を機に、勝利の凱歌としても“ユルネバ”が定着していった。チーム最古参のDF森重真人は、それを「特別な歌だ」と言い、こう語る。

「これまでは試合前に歌い継がれてきたけど、昨年からは勝利した試合の後に歌われるようになった。勝った後にみんなとゴール裏で歌うのは、本当に気持ちいい。ユルネバっていいなって思える瞬間だし、あれは何度でも味わいたいよね」

また、昨季から主将を務めるMF東慶悟には、ひそかな“タクラミ”が生まれていた。

「優勝したときは、オレが絶対に（監督の長谷川）健太さんをあの場に引っ張っていく。『オレはいいよ』って言われちゃうんだろうな･･････（苦笑）。でも、それがキャプテンの仕事だと思うので」

だが、そのタクラミを果たすことはできなかった。

昨季のJ1最終節、悲願の初優勝のために4点差以上での勝利が条件のなか日産スタジアムへと乗り込んだが、0-3と大敗。悲願のリーグ制覇を逃し、目の前で横浜F・マリノスの選手たちが歓喜に沸く姿を見せつけられた。

長いシーズンを終えた選手たちと長谷川監督は、試合終了と同時にサポーターに挨拶をしようと、アウェーのゴール裏へと足を進めた。すると、東京サポーターは『You’ll Never Walk Alone』で迎えた。

それを聞き終えると、選手たちは両手を挙げ、深々と頭を下げた。その日のことを、指揮官はこう言葉にしている。

「奮い立つというか、昨シーズンも間近で聞いてすごいと思った。J1のタイトルを取って彼らと喜びたいと心から思っているし、昨季最終節は悔しいユルネバになってしまったけど、今度は勝って喜びを分かち合えるユルネバを彼らと歌いたい」

昨季王者とのリベンジマッチは最高の瞬間を味わうために

そして、12日、その横浜FMと昨季最終節以来の対戦を迎える。前節・川崎フロンターレとの多摩川クラシコに大敗（0-4●）し、リバウンドメンタリティーが試されるなかでの昨季王者とのリベンジマッチ。その試合を直前に控え、森重は意気込みを語った。

「DAZNで最後まで見てくれたファン、サポーターに申し訳ない試合をした。そういう人たちのためにも次の試合に必ず勝って、多摩川クラシコの鬱憤を晴らしたいし、良い試合を届けたい」

サッカーがある日常は、少しずつ取り戻しつつある。この試合から上限5000人の有観客試合となるが、アウェー側の応援席は7月末まで解放されない。そのため、東京サポーターは、この一戦に来場することができない。応援歌や手拍子なども禁止され、本来の熱がJリーグに戻る日はまだ先だろう。森重は「残念だけど」と言って、こう続ける。

「サポーターのみんなともう一度、あの歌を歌える時がきた時に、また大きな喜びを味わえると思っている。その時、『やっぱりユルネバっていいよね』と、再認識できたり、あの瞬間を共有できたりすれば最高だと思う。そこで、みんなにも頑張った甲斐があったなと、きっと思ってもらえるので、その瞬間を楽しみに待ちたい」

新型コロナウイルスの感染拡大によって、それまであった日常は姿を変えた。「普通に戻りたい」という言葉がずしりと重みを持つようになり、東京都ではいまだ感染者数は伸び続けている。それでも思いを乗せたボールが日本中で転がり始めた今、画面越しであの歌を口ずさむ人たちがいる。You’ll Never Walk Alone――。最高の瞬間をもう一度味わうために、完全アウェーの王者の庭で、選手たちはあの日耳にした歌声に奮い立ちプレーするはずだ。

文・馬場康平

1981年10月18日、香川県出身。地域新聞の編集部勤務を経て、2006年からフリーに。現在、東京中日スポーツ等でFC東京担当記者として取材活動を行う。2019年に『素直 石川直宏』を上梓した。

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