王者に何が起こっているのか? セリエA10連覇を目指すユヴェントスに今、多くのファンが抱いている疑問ではないでしょうか。
それも当然でしょう。ユーヴェはこの2週間という短い間で、先行きが危ぶまれる大失態を立て続けに演じてしまったのです。
まずはCL(チャンピオンズリーグ)敗退です。
ポルトと対戦したラウンド16。3月10日にホームで行われたセカンドレグでは、後半9分に相手が退場者を出すという有利な展開になりました。にもかかわらず、延長戦の末に3-2で勝つのがやっとでした。
結果、2戦合計4-4、アウェーゴール数で下回り、早々と舞台から姿を消すことになりました。
追い打ちをかけたのが3月21日の28節ベネヴェント戦。今季セリエAに昇格したばかりの相手に不覚を取りました。しかも、ホームで0-1。まさかの敗戦です。
これにはもともと辛辣なイタリアメディアも容赦なかったですね。ベネヴェント戦の黒星で、ユーヴェへの風当たりは強まりました。状況がさらに悪化したことは言うまでもありません。
ただ状況を鑑みると、それも当然の結果だと言わざるを得ません。チームはシーズン当初から今にいたるまで"支離滅裂"な状態です。
今季のユーヴェのベスト布陣は? その答えにさえ窮する人がほとんどではないでしょうか。
不動のレギュラーと言えば、クリスティアーノ・ロナウドだけ。その他のメンバーは固定できていないのが現状です。
ピルロに同情の余地はある
監督のアンドレア・ピルロはフォーメーションをあまりにもいじりすぎています。この期に及んで、ポジションが定まってすらいない選手もいるほど。
その最たる例が、フェデリコ・ベルナルデスキ。27歳のこのイタリア代表は、鋭いドリブルを武器に数多くのアシストを放つ攻撃的なミッドフィルダー。強烈なミドルシュートも持ち味です。
そんな彼ですが、今のポジションはなんと左サイドバック……。なぜピルロは得点に絡める位置で起用しないのか? 私には正直、理解不能です。
采配に疑問符が付くピルロですが、同情の余地はあります。チームを託されるにあたり、ユーヴェのフロントから何の恩恵を受けなかったのですから。
クラブはチームを若返らせる方針を打ち出しておきながら、それに見合った補強はほとんどなし。ピルロはそれこそ丸投げされた形です。
ピルロがユース年代の指導経験さえもない新米監督だということも忘れてはいけませんね。
いくら稀代の名ミッドフィルダーだったピルロとはいえ、これでは厳しいでしょう。生来の指揮官など、この世に存在しません。
名将の誉れ高いあのペップ・グアルディオラ、ファビオ・カペッロでさえ、キャリアのスタートはプリマヴェーラ(ユース)の監督でした。
もしユーヴェのフロントがピルロのことを育てていくべき大切な存在、と捉えていたのなら…。U-23の指揮を任せていたと私は思います。
そもそも当初の予定としては、U-23の監督就任でしたからね。
当然ですが、監督という職業はピッチに立ってプレーすることではありません。選手を選択する立場です。
仮にピルロがU-23から指揮官のキャリアをスタートしていたら、選手起用についてもじっくりと学べたはず。しかも失敗を恐れずに。
ピルロの今後のキャリアに悲観的なイメージは抱いているわけではありません。
彼の言動から察するに、とても頭の良い、バランスの取れた人物であることは明らか。サッカーの知識は豊富なはずですから、経験さえ積み上げればきっと良い監督になるはず。
ただ物事には順序というものがありますよね。中学、高校も卒業していないのに、大学に入学できますか? できません。それと一緒。
創造性あふれるプレーが消えた
話題をチームに移しましょう。軸はクリスティアーノ。異論を挟む人はそうはいないでしょう。
クリスティアーノは偉大なる点取り屋です。今季もここまで24試合に出場して25得点。この数字だけを見ても、彼は自身の仕事をきっちり、いや、見事までにこなしています。
問題はクリスティアーノと前線でコンビを組むパートナー。シーズン始めは、アルバロ・モラタ(写真)が理想だと誰もが予感しました。
アトレティコ・マドリードから復帰したこのスペイン人ストライカーは序盤からゴールを重ね、最高のスタートを切りました。ただ長続きはしませんでした。シーズンが進むにつれ、どんどん存在感が薄れています。
そのモラタの気になる点が1つ。交代を告げられたときの彼の表情です。もちろんテレビの画面越しですが、その顔からは悔しさがまったく伝わってこない。
結果を残せずに交代を命じられ、不満そうな表情一つ覗かせないのは、今彼しか思い当たりません。モラタの性格は分かりませんが、どこか腑に落ちないですね。
チームはこのように今、多くの問題を抱えながらシーズンを送っています。
ポジションで言えば、とくに中盤。相手にこれほど苦戦するユーヴェのミッドフィルダー陣は過去を思い返して珍しいですよ。
昨季までのユーヴェと言えば、中盤で洗練された連携を駆使し、相手にとって予測不能なプレーを次々に繰り出していたもの。観るものを魅了するサッカーを見せてくれていました。
今季のユーヴェは? 創造性あふれるプレーは完全に消えてなくなりました。
理由は単純明快。ビルドアップのスピードがあまりにも遅いからです。もっと言えば、縦パスを入れるタイミングも悪すぎる。
その原因の一端が、ボランチでプレーメーカー役を担っているアルトゥール。
開幕前にバルセロナから鳴り物入りでやってきた24歳のブラジル人ですが、私には彼が"ちんたら"プレーしているようにしか映りません。
巷ではパスミスのほとんどない優れたプレーヤーと認識されていますが、アルトゥールのパスはほとんどが横パス。しかもすべて2~3メートル以内のショートパスです。ミスのしようがありませんよ。
問題を一つひとつ解決していくしかない
私からすれば、彼に対する評価は的外れ。ベネヴェント戦での失態の原因にもなりました。なにしろ69分の失点は、アルトゥールの約15メートルの横パスがかっさらわれたことが発端でした。
攻撃をスピードアップできない大きな要因は、誰の目に見ても明らか。にもかかわらず、それが指摘されない現状。私には驚きでしかありません。
他にも問題は山積しています。試合を観ればすぐに気づくと思いますが、チーム全体が適正な距離でプレーできていません。
常に縦に間延びした状態で、コンパクトさをまるで欠いている。これでは苦戦するのも当然でしょう。
そして、リーグ最少失点を誇り、得点ランク1位の選手を抱えていながらのこの惨状。
データだけ見ると不思議に思えますが、その答えも明快です。ゴールを決められる選手が、クリスティアーノ以外にいないからです。
このことが何を意味するのか。得点パターンがあまりにも少ないということ。攻撃陣が上手く機能していない何よりの証拠です。
有識者からは、ピルロの去就を含め「一からチームを作り直すべきだ」などといった評価も聞かれます。
私はその意見には賛成しません。ただ今のユーヴェには屋台骨さえない。それが現状です。
問題を一つひとつ、時間をかけてでも解決していく。復活にはそれ以外に手立てはありません。
骨の折れる作業でしょうが、将来性のあるピルロにはこのシーズンをなんとか踏ん張ってもらい、今後につなげて欲しいですね。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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