序盤から首位を走るなど、久しぶりのスクデット争いを演じてきた今シーズンのミランが、ここに来て一転、苦境に立たされていますね。
2月13日に行われた22節スペツィア戦の黒星(0-2)で首位から陥落すると、続く23節インテルとのミラノダービーは0-3の完敗。トップの座を明け渡した宿敵に、さらなる屈辱を味わわされました。
今季初の連敗を喫しましたが、1月6日の16節ユヴェントス戦(1-3)、同23日の19節アタランタ戦(0-3)の敗戦を含めると、2021年はリーグ戦9試合で4度も敗れています。
振り返れば、ミランはユーヴェ戦まで無敗でした。年が変わってからのこの失速ぶりに、サポーターも気が気ではないでしょう。
4つの敗戦を分析すると、インテル戦を除き、ある共通点が浮かび上がってきます。
それは優勝争いのライバルであるユーヴェをはじめ、アタランタもスペツィアも、ミランの良さを潰したことが勝利につながったという点です。
裏を返せば、ミランは自分たちの長所を消しにかかる相手に対し、苦戦を強いられているということ。
そういった相手をどう攻略するのか。優勝争いに踏みとどまるために、今後の課題となるでしょう。
一方、インテル戦での敗因はまったく違います。
試合の入り方が非常に悪かったですね。絶対に負けられないダービー特有の重圧があったのでしょう。選手はみな怯んでいました。そこをインテルに見事なまでにつけ込まれた印象です。
私なら真っ先にメンタル面の修正を
首位陥落によって、早くも巷では「優勝は厳しくなったのでは?」という声もあがっています。
ただ、私自身はそれほど悲観していませんよ。
戦局が攻撃へ転じたなら、人数を割いて一気に敵陣へと攻め込んでいく。そういったミランのプレースタイルに好感を抱いているからです。
選手同士がとても良い距離間でプレーしており、チーム全体のポジションも常にコンパクトに保たれています。選手お互いの良さが引き出されていますよね。
他の上位チームと比べ、戦力は決して潤沢とまでは言えませんが、選択肢は決して少なくない。そこはミランの強みでもあります。
とはいえ、監督であるステファノ・ピオリに、現状の立て直しが求められていることも事実です。
私が監督なら、真っ先にメンタル面の修正を図るでしょう。まずはチーム全体でじっくり会話をし、選手全員を落ち着かせるように心がけるでしょうね。
具体的にどのような声をかけるか、と問われたらこう答えます。
「まずは自分たちのできることをしよう! われわれは1年の間(2020年)、首位の座を守り続けてきた。しかもまだ上位にいる」と。
さらにこう続けます。
「ここまで素晴らしいチームを作り上げてきた。これからも継続していこう! 忘れてはならないのは、われわれはまだ2位。今一度、一丸となることが大事だ。インテルに対してまだまだ嫌な存在でいられるはずだ」
こういった状況で一番避けるべきは、選手個々のミスを責め立てること。若い選手が多いチームならなおさらことです。何気ないちょっとした一言で、一気に自信を失ってしまう。私もこれまでそういったシーンを何度も見てきました。
インテルがこのまま他を圧倒するとは…
そもそもミランは、首位インテルとは置かれている立場がまったく異なります。
オフに大枚をはたいて補強したインテルにとって、スクデット獲得はいわば至上命題。
一方のミランは、まだまだ若いこれからのチームです。監督はその違いをきっちり選手に伝え、プレッシャーを和らげてあげることも必要でしょうね。
しかも首位に立ったインテルが絶対的な力を誇っているかと言えば、決してそうではありません。
試合を見る限り、監督であるアントニオ・コンテは、しっかりとした攻守のバランスをまだチームに植え付けきれていない印象です。
それこそゲーム中にバランスを崩して攻め込まれるシーンが散見されますし、ビルドアップにもそれほどスピード感はありません。迫力に欠けます。
私には想像できません、インテルがこのまま他を圧倒して優勝する姿は。ミランがまだまだつけ入る隙はあるはずです。
インテル攻略法としては、まずはFWロメル・ルカクへの縦パスを遮断すること。彼らにとっての一番の得点パターン、生命線を潰すということです。
あとは右ウイングバックのアクラフ・ハキミ、そして司令塔のMFニコロ・バレッラへの対処。ルカクとともに攻撃の軸となっているこの2人に自由を与えない。
この2つがきっちり実践できれば、きっと勝機は訪れるはずです。
ミランがスクデットを手にするチャンスはまだありますが、ピッチ外での悩ましい問題が足を引っ張っているのも事実。
チームが苦境のなか、3月に開催されるサンレモ音楽祭(伊リグーリア州のサンレモで開催される音楽祭)に、特別ゲストとしてFWズラタン・イブラヒモヴィッチが出席すると発表された件です。
この件の是非はヒートアップして報じられています。それもそのはず。3月3日に25節ウディネーゼ戦、7日に26節ヴェローナ戦を控えていますからね。どちらも音楽祭の開催期間内のゲームです。
元会長のシルヴィオ・ベルルスコーニ(現セリエBのモンツァ会長)をはじめ、アリゴ・サッキ、ファビオ・カペッロ、カルロ・アンチェロッティなどの重鎮OBはみな、出席に対して批判的な態度をとっています。
イブラヒモヴィッチ本人に対してというよりかは、参加を許したクラブ首脳陣に対してです。
私がもしミランの監督であったなら、イブラヒモヴィッチにはこうはっきりと言うでしょう。
「サンレモに行くなら、試合には使わない」と。
仮に音楽祭に招待されたのが、DFシモン・ケア、MFサム・カスティジェホといった中堅選手だったら、クラブの対応は厳しいものになっていたに違いありません。
プレースタイルを継続することが重要
スター選手の扱いには、私も頭を悩ませました。インテルの指揮官を務めていたときのことです。
当時エースとして君臨していたアドリアーノは、遅刻癖が酷く、練習に遅れてくる常習犯でした。
すでに現役を退いたこの元ブラジル代表FWは、強靱なフィジカルと卓越した技術でゴールを量産し、チームを何度も勝たせてくれもした大切な存在でした。
ただ、練習に遅刻したりしたときなどは、私は容赦しませんでしたよ。練習には参加させず、そのまま家に帰らせたものです。
イブラヒモヴィッチ問題の一番の懸念点。それは、チームにとって言い訳材料とならないかということです。
結果が出ないとき、選手は往々にして外に言い訳を探すもの。まず自身を顧みて改めることはなかなか難しいことです。簡単にできることではありません。
今回のイブラヒモヴィッチのケースも彼自身の、そしてチームの言い訳材料となるのではないか。私はそこを危惧します。
とにかく、この混乱状況でも、ミランは決して優勝を諦めるべきではない。
ここまで積み上げてきたプレースタイルを継続することが重要です。1ヶ月、2ヶ月そこらで作り上げたものでは決してないのですから。自信を持ち、決して悲観的になる必要はないです。
顔を上げて、この現状にしっかりと立ち向かう。この苦境をそうやって乗り越えられたなら、きっと明るい未来が開けてくるはずです。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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