この連載ではこれまでチームの戦術面や選手個人に焦点を当てることが多かったですね。今回は少し視点を変えて、ピッチ外で起きた最近のトピックスについて掘り下げていきます。
セリエAではここ約1ヶ月の間に、ピッチ外で問題が立て続けに起こっていることをご存知でしょうか。
まずは、アタランタで起こった監督のジャンピエロ・ガスペリーニとFWアレハンドロ・ゴメスの確執を考えてみましょう。
結論から言えば、この確執でゴメスは指揮官から戦力外扱いを受け、1月の移籍マーケットでスペインのセビージャに放出されました。
ゴメスと言えば、近年目覚ましい躍進を遂げたアタランタの象徴的なプレーヤーでした。
32歳のこのアルゼンチン人が、スモールクラブに加入したのは2014-2015シーズン。それ以降、約6年間に渡りチームをけん引し、今季は主将も任されていました。
そんな大事な選手をいとも簡単に放出したということは、よっぽどのことがあったのではと推測しますよね。聞くところによれば、ガスペリーニがゴメスにプレースタイルの変更を求めたことがきっかけだったようです。
ゴメスはスタイル変更を拒否
ガスペリーニもゴメス同様、アタランタを上位チームへと押し上げた立役者のひとり。
チームは今季勢いに陰りが見え始めていたので、ガスペリーニは何かしらの変化を求めていたのでしょう。
まず主将であるゴメスに「対戦相手はわれわれを研究し尽くしている。プレースタイルを変えないといけない」と同意を求めたようです。
チーム戦術が変更となれば、選手個々の役割にも変化が加わるのは当然のこと。ゴメスもご多分に漏れず、ガスペリーニからポジション変更を告げられたようです。
ただ、ゴメスはこれを頑なに拒否し、自らのプレースタイルを貫こうとしたと聞きました。
その結末は想像に難くないですね。ガスペリーニも強い自我の持ち主。ゴメスの態度に腹を立て「決まり切ったプレーを何度もするのはやめてくれ」と言い放ったそうです。
こうして生じた2人の溝。ゴメスがチームを去ることで一連の問題は決着を見ましたが、結局のところ誰も得はしませんでした。
チームは攻撃の軸をひとり失い、結果として、同等の戦力を新たに創出するか、大枚を叩いてゴメス級の後釜を獲得する必要性に迫られました。
私は長く監督業を務めてきた身ですから、すべての見解は監督目線となります。
その監督の立場として言うなれば、若い選手ならまだしも、ゴメスのようなベテランの扱いは本当に難しいです。すでに自らの地位を確立させている選手や、サポーターのアイドル的な存在ともなればなおさらのこと。
過去、私もポジション変更のため、選手とどれほどの言い争いを繰り広げてきたことか。だからこういった確執については正直、コメントしづらい部分があったりします。
重要なのは言葉のトーン
セリエAではこういうケースは決して珍しくありません。過去にも同様のことが何度も起こっており、歴史は繰り返されています。
現に、ローマでも同じようなことが続いて起こりました。監督であるパウロ・フォンセカとFWエディン・ジェコの不協和音です。
このケースに関してはおそらく、ガスペリーニとゴメスのようなプレースタイル云々の話ではないでしょう。
ジェコは190cmを超える長身FW。ローマには2015―2016シーズンに加入し、これまで114得点を決めています。
34歳のこのストライカーに対し、フォンセカがトップ以外でのプレーを求めたとは思えません。問題は他にあったと考えるのが普通でしょう。
内情を把握していませんが、最終的にはクラブが介入し、ジェコはどうにか戦列に戻れました。ただキャプテンマーク剥奪という代償を払わされる結果に。
主将ではいられなくなったという事実を考えると、チームメイトに対して何かリスペクトを欠くこと行為がジェコにはあったのではないでしょうか。
監督と選手が議論を繰り広げることはそもそも悪いことではありません。ですが、重要なのはお互いの言葉のトーンです。
ときに度を超えて言葉が強くなってしまい、バチンと弾けてしまうこともあるんですね。監督にとっては、その相手が若手なのか、ベテランなのかで状況は大きく変わります。
いずれにせよ、監督と選手の間で揉め事が起きた場合、クラブは概ね選手の味方をするもの。なぜならクラブにとって選手という存在は、事業で言うところの資本なのです。
会長が他の指揮官と接触
最後はナポリで今まさに勃発している(ジェンナーロ)ガットゥーゾ監督の去就問題を取り上げましょう。
セリエAでは監督の解任が噂されることなど日常茶飯事。特段、珍しいことはありません。
ではなぜ今回のガットゥーゾがこれほどまでの騒ぎになっているか。それはデ・ラウレンティス会長が起こした一連の行動が発端でした。
解任騒動が持ち上がったのが、実はガットゥーゾとの契約を2年延長した直後。成績が落ち込んだことで、解任を見据えた会長が他の指揮官と接触を図り、それが最悪なことに、報道によって公になったのです。
今シーズン、ナポリに対する期待は想像以上に大きく、優勝争いを期待されています。
その過大な期待値からすれば、12勝1分け7敗の6位という現在の成績は失望でしかないでしょう。
しかし私に言わせれば、そもそもそれは誤った期待です。
分かりやすく、例を出して解説しましょう。まずユヴェントスと激しい優勝争いを演じた、2015-2016シーズンのナポリの布陣を思い出してください。
前線には絶対エースのゴンサロ・イグアインがいました。
現在MLSのインテル・マイアミでプレーするこの元アルゼンチン代表FWはあのシーズン、ものすごい勢いで得点を量産、最終的に35試合で36ゴールというとてつもない記録を打ち立てました。
当時のナポリにはイグアインの他にもFWホセ・カジェホン、MFマレク・ハムシクら素晴らしい役者が揃っていました。
それに比べ今のチームはどうでしょうか。明らかにレベルは落ちますよね。
ナポリには何かが決定的に…
確かに今のナポリも良いサッカーをしています。ただ、それだけでは周囲を納得させることはできません。
良いサッカーを展開できていても、結果が付いてこないと、チームは徐々に自信を失っていくもの。周囲には懐疑的な意見も噴出してくるものです。
おそらくデ・ラウレンティス会長も急に「このままで良いのか?」という疑念に駆られたのでしょう。
たった1試合で状況ががらりと変わることなんてざらです。
監督としてのキャリアをようやく確立しつつあったガットゥーゾだけに気の毒でなりません。ですが、問題の本質はガットゥーゾの手腕云々だけではないと私は考えます。
今のナポリには何かが決定的に足りない。
クラブが今季補強の目玉として獲得したのは、ナイジェリア代表FWヴィクター・オシムヘン。もしかしたら彼は近い将来、シーズン20得点を挙げられる選手になるかもしれません。
ただ、今のプレーからは正直、そういった能力の片鱗さえも感じられません。
FWロレンツォ・インシーニェも良い選手ですが、それほど多くのゴールを量産するタイプではありませんね。逆サイドの右のアタッカー、マッテオ・ポリターノもしかり。
得点力に欠けるチームが、スクデットを獲得できる可能性がそもそもあったのか。はなはだ疑問です。
現在、セリエA最強のFW陣を誇るのはインテル。現在2位ですが、その意味では優勝を十分に狙えるポテンシャルがあります。
首位を走っているミランにもチャンスはありますよ。素晴らしいアタッカーを多く揃えていますから。
ピッチ外の動きも、優勝争いが過熱するに比例して、激しくなることは断言できるでしょう。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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