ピックフォードのタックルは再検証すべき
10月17日のマージーサイド・ダービーで、 リヴァプール は フィルジル・ファン・ダイク を失った。
エヴァートン のGK ジョナサン・ピックフォード の無謀すぎるタックルにより、右膝十字靭帯損傷。全治7~8ヶ月の重傷だ。
リヴァプールにすれば、言いたいことは山ほどある。
「なぜピックフォードは厳罰に科されないのか!? レフェリーはなにも見ていなかったのか!?」
「試合終了直前に危険なタックルで一発レッドになったリシャーリソンよりも無謀なプレーだ」
「あのGKは正気の沙汰ではない」
ダービー終了後、FA(イングランドサッカー協会)は「ピックフォードにペナルティは科さない」と発表したが、この先も危険なプレーを助長しないだろうか。
いまからでも遅くはない。ピックフォードがファン・ダイクに仕掛けたタックルを、あらゆる角度から再検証すべきである。
ファン・ダイク健在でも厳しいスケジュール
さて、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は、どのような手段でファン・ダイク不在をカバーするのだろうか。
世界最高のCBが7~8ヶ月も欠けるのだ。完全に補てんするような “魔法” は、ハリー・ポッターも会得していない。シャーロック・ホームズでも解決できない。
だが、スケジュールは待ってくれず、21日にアヤックスとのUEFAチャンピオンズリーグを消化し(1-0の勝利)、週末にはシェフィールド・ユナイテッドとのプレミアリーグ第6節が控えている。
また、日本時間11月9日にはアウェーのマンチェスター・シティ戦があり、プレミアリーグが多忙を極める12月は、UCLを含めて8試合もこなさなくてはならない。
ファン・ダイクが健在でも厳しいスケジュールだというのに、大黒柱の彼を使えないとは、心温まるユーモアで記者会見の雰囲気を和ませるクロップも、表情が強張ってしまう。
当面、 ジョー・ゴメス と ファビーニョ 、復帰間もないジョエル・マティップをローテーションするしか策はない。若手のナサニエル・フィリップス、リース・ウィリアムズでは、ファン・ダイクの代役は荷が重すぎる。
ただ、ゴメスとマティプがラインを整えられるだろうか。細身のファビーニョでは、エアバトラーの餌食になる。
お家の一大事にはベテランの力が必要
また、緩慢なプレーには容赦なく檄を飛ばし、チーム全体を締めてもいたファン・ダイクの長期欠場によって、ロッカールームの雰囲気が多少なりとも緩む恐れも浮上してきた。
やはり、あの男に頼るしかない。
困ったときはジェイムズ・ミルナーである。ゴメスとマティプ、ファビーニョでまわすローテーションに、34歳のマルチプレーヤーを加えてはどうだろうか。
お家の一大事にはベテランの力が絶対に必要だ。
そして4バックにこだわらず、ミルナーとゴメス、マティプの3バックも考えられる。
この布陣の場合はトレント=アレクサンダー・アーノルドを右アウトサイド、アンドリュー・ロバートソンを左アウトサイドに配置し、中盤センターは守備力重視でファビーニョとジョーダン・ヘンダーソン。前線は改めていうまでもない。プレスの強度を上げたいのなら、ロベルト・フィルミーノに代わって南野拓実という選択肢が浮上する。
左サイドバック、中盤インサイド、アンカーと、数多くのポジションをこなせるミルナーこそが、緊急事態の対応策としてうってつけの存在だ。フィリップスとウィリアムズが有望株だとしても、プレミアリーグとUCLの荒波を乗りこなせるとは思えない。
リヴァプールは今シーズンの選手登録からファン・ダイクを除外した。無理をさせず、万全のコンディションで来シーズンに備えなさい、という配慮だ。
クロップは自らに言い聞かせるように…
したがって移籍市場が再開する来年1月、CBの獲得に動く公算が非常に大きくなってきた。コロナ禍による緊縮財政だとしても、背に腹は代えられない。
しかし、 カリドゥ・クリバリ ( ナポリ )、 マルキーニョス ( パリ・サンジェルマン )、 ラファエル・ヴァラン ( レアル・マドリード )など、世界のトップランクといわれる実力者たちを所属クラブが手放すはずがなかったり、ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長のような面倒臭い男がいたり……。
迅速、かつ的確な動きに定評のあるリヴァプール強化委員会でさえも、交渉成立は至難の業だ。
もちろん、クロップが興味津々と伝えられたオザン・カバク(シャルケ)、ビッグクラブのレーダーに捉えられた ダヨ・ウパメカノ (ライプツィヒ)を来年1月の市場で獲得する可能性はある。
とはいえ、彼らもプレミアリーグで通じるかは未知数だ。
「今日はファン・ダイクの復帰に向けた記念すべき初日だ。フットボールも人生も多くの困難に直面する。われわれは持てるものを最大限に使うしかない」
ダービーの翌日、クロップは自らに言い聞かせるようにコメントした。
すでに覚悟は決まっているのか。プレミアリーグ連覇に、ビッグイヤー奪還に向け、リヴァプールの行く道に突如として大きな穴が開いた。
息苦しい日々が続く……。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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