熱心なロマニスタなら、イスマイル・フマイダトを覚えているかもしれない。2015-16シーズン冬の移籍市場で、ローマがブレッシャから保有権を獲得した元有望株だ。
オランダのエンスヘーデに生まれたフマイダトは、13歳まで地元の強豪トゥウェンテでプレー。その後、隣国ベルギーのクラブを転々とし、18歳のときにクリスタルパレスのユースに引き抜かれる。英国生活は半年で終わったものの、14年1月にはベルギー最大の名門アンデルレヒトに加入。そして半年後にはブレッシャの一員となり、19歳でセリエBデビューを飾った。
左足の繊細なボールタッチや華麗な足技を武器に、フマイダトは1年目からレギュラーに定着すると、翌シーズンに転機を迎える。16年1月にローマへの移籍が決まったのだ。しかし、その名門では一度もプレーする機会に恵まれなかった。
ローマ加入直後にアスコーリへの武者修行を告げられ、その後もヴィチェンツァ、オリャネンセ(ポルトガル)と半年スパンでレンタル先が変更。17年夏にはウェステルロへのローンが決まり、再びベルギーの地を踏むことになった。
その慣れ親しんだ国で、フマイダトは大きな試練を迎える。ブレッシャ時代の輝きを失い、練習を無断欠席するなど素行が悪化。18年1月にウェステルロから絶縁状を突き付けられた。一大騒動になったのはその2ヶ月後で、なんと強盗容疑で収監され、約10ヶ月の刑務所生活を余儀なくされたのだ。
当然、ローマとの契約は解消。その後に強盗の嫌疑(自家用車を貸した友人が盗みを働いたのが真相)は晴れたものの、18-19シーズンは無所属でピッチから遠ざかり、プロサッカー選手としてのキャリアは終焉かと思われた。
フマイダト自身ものちに「人生最悪の時だった。思い出したくもない。釈放された後はサッカーのことは頭になかった」と振り返っている。
「サッカーに不可能はないよ」
そんな"元"有望株にいわば救いの手を差し伸べたのが、114年の歴史を持つイタリアの古豪コモだった。18-19シーズンにセリエD優勝を果たしたコモは、しかし翌シーズンのセリエC開幕を1ヶ月後に控えた時点で危機に瀕していた。選手が5人しかいなかったのだ。
18年2月にクラブを買収したばかりのアメリカ人オーナー兼会長、マイケル・ガングラーは焦らずにはいられなかった。そしてSDに厳命する。「2週間で18人まで増やしてくれ」と。この難題を突き付けられたSDが見つけてきたのが、そうフマイダトだった。
なぜ、曰くつきの選手を獲得したのか。ガングラー会長はDAZNで配信中の『COMO 1907 カルチョに挑んだアメリカ人CEO』でこう語っている。
「我々が目指すのは勝利だけでなく、誰もが誇れる勝利です。もし誰かが間違いを犯せば、社会に対して償うべきですが、その後チャンスが必要です。それにチャーリー(SD)が力のない選手を連れてきたりしないでしょう」
こうしてコモの一員となったフマイダトは背番号10をつけ、1年目にリーグ戦16試合に出場。2020-21シーズンは29試合に出場と主力に定着した。今年6月で26歳とまだまだ働き盛りであり、キャリアを再浮上させる時間は残っている。
「サッカーに不可能はないよ。1シーズンで人生が変わる。転落する場合もあるけどね(笑)」
サッカーへの情熱、そして笑顔も取り戻した元ローマの有望株が、アメリカ人オーナーの下で奮闘する古豪を高みに導く。
COMO 1907 カルチョに挑んだアメリカ人CEO
配信:DAZN
視聴期限:2022年5月23日
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