【コラム】「規格外」はフィジカルだけじゃない！実は理系の文武両道、柏レイソルFWオルンガの凄みと進化

「木にぶつかったみたい」。対戦相手も衝撃を受けるパワー

もしかしたら今頃、FWマイケル・オルンガはサッカー界ではなくハンドボール界で知れ渡った存在になっていたかもしれない。オルンガ少年は小さい頃から並外れた身体能力と運動神経に恵まれ、多彩な才能を発揮していた。

「サッカーと並行してハンドボールもやっていてU-17のナショナルチームに選ばれていた。その時は高校生でサッカーとハンドボールの両方の代表から声を掛けられていたけど、スケジュールが重なってしまってどちらかを選ばないといけなくなってしまったんだ」

学生時代は足と手の“二刀流”。足でボールを扱い手で触れることが反則なサッカーと、手でボールを扱い足で蹴ることが反則なハンドボール。正反対な競技ながら2つのスポーツでケニアを代表して戦った経験を持つオルンガは、そこで「メジャーなスポーツ」であるサッカーを選択した。

いまから2年前の夏、異国の地・日本にやってきた長身FWの“柏デビュー”は鮮烈であった。合流初日、チームはオフ明けということで負荷の軽いメニューを消化。その中にはリラックス要素を含んだミニゲームがあった。そこでオルンガはひと際キレのある動きを見せて得点を量産。ボールを持てば、まずはどんな体勢でもシュートを狙い、誰よりもどん欲な姿勢でゴールを目指していた。

練習後、一緒にプレーした選手からはフィジカルやパワーについて驚きの声が多く飛び、後に練習試合の相手から「ぶつかった時の衝撃が木にぶつかったみたいだった」という言葉も聞こえてきたほどだ。

2018年は半年のプレー期間で10試合3ゴールに終わり、チームもJ2に降格してしまった。そのため、それほどのインパクトは残っていないが、ゴールシーンを振り返ると、すでに現在の活躍を予感させるようなプレーを披露していた。

完全アウェイの埼玉スタジアムで決めた先制点にアクロバティックなゴールパフォーマンス、翌節のサンフレッチェ広島戦で突き刺した低弾道でパワフルな左足のシュート。来日当初から優れたゴール感覚を見せつけていたのだ。

オルンガの成長を加速させたネルシーニョ監督

2019年、ネルシーニョ監督との出会いがオルンガのプレーにさらに磨きをかけた。守備意識と競争意識を植え付けられ、チームのために走ることを覚えると、それに比例するかのように高い決定力でゴールを陥れていった。自慢のスピードを武器にスペースに走り続けてゴールを決めたかと思えば、両サイドから上がってくるクロスに対しては頭2つ分ほど抜き出た高さからボールを叩き、低いボールにはDFの死角からするりと長い足を伸ばして押し込む。相手だけでなく味方の予想も上回る形でゴールを重ね、30試合27ゴールの数字を残した。

ともにプレーして今季で3年目となるMF大谷秀和は、オルンガを「規格外」と評しながら凄さを明かす。

「ボックス内で決定力を発揮してくれる頼もしい選手。来た時から戦術的には賢い選手でしっかりプレーしてくれる印象は持っていたし、実際、2018年も試合に出た時にはゴールに関わっていたので、長い時間試合に出て日本の環境や文化に慣れればもっとやってくれると感じていた。去年、ネルシーニョ監督の下で守備もかなり細かく言われ、しっかりと攻撃と守備のバランスを考えながら1年間戦ってくれたことで、ミカ（オルンガ）の持っている能力が最大限発揮されるようになったと思う」

年月の積み重ねや新たな出会いによってオルンガは進化を続けているのだ。

また、オルンガがこのようにゴールを量産できている理由の1つはフィジカルやパワー、スピードといった“武器”に頼り切ったプレーをしていないところにある。

ケニアの大学でサテライトやGPSといった宇宙関係について学んでいた経歴を持つ25歳は、頭脳明晰で来日当初からすぐにチームメイトやスタッフの名前を覚え、試合前には対戦相手の顔と背番号を一致させて臨むなど頭の回転が速い。

そんなオルンガは誰よりも自分の特徴や生かし方を理解し、その能力を最大限に発揮するために普段からチームメイトとのコミュニケーションを怠らない。

昨季からオルンガをチームの中心に据え、エースの責務を託すネルシーニョ監督は「ミカはスピードと身体能力を生かす準備を普段のトレーニングからやってくれている。いま彼が得点を量産できている最大の要因は、本人が自分の特徴を上手く活用できていること。それと同時に周りの選手がミカの特徴を上手く引き出せている。他の選手たちが彼の特徴やクオリティーをしっかり理解して生かすことができているときは、得点に結びつく信頼関係をお互いが作れている」と躍動の要因を説明する。

そして、「結果が出ている分、彼に対する信頼はチーム内でも増してきている。これからもまだまだ得点を量産できるだけの機会はあると思う」とケニア人ストライカーのさらなる爆発を予言した。

点取り屋として「ペナルティーエリア内での集中力」を大切にしているオルンガは今季、初めて開幕からプレーするJ1の舞台でもすでにゴールを量産。7試合で8ゴールと驚異的なペースでネットを揺らしている。

日本の生活や文化にも慣れ、ピッチ内外で伸び伸びと過ごしているいま、マイケル・オルンガというサッカー選手はいくつもの伝説を築くかもしれない。

文・須賀大輔

1991年生まれ、埼玉県出身。学生時代にサッカー専門新聞『ELGOLAZO』でアルバイトとして経験を積み、2016年からフリーライターとして活動。現在、ELGOLAZOでは柏レイソルと横浜FCの担当記者を務めている。

柏レイソル 試合日程

※AFCチャンピオンズリーグ2020において出場クラブが準々決勝に進出した場合、11月18日（水）に変更となる可能性があります

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