【金J特集】横浜F・マリノスよ、「神奈川の雄は俺たちだ」。川崎フロンターレが“圧倒的な攻撃”で粉砕する ｜ Jリーグ

もはや遠い存在ではなくなった

遠かった背中も、もう手の届くところまで来ている。

1999年にJ2リーグへの参入を果たしてから、川崎フロンターレは今年で23年目のシーズンを迎える。シルバーコレクターと揶揄された時代もあったが、2017年にリーグ初制覇を成し遂げると、ここ4年で3度のリーグ制覇を経験。Jリーグの長い歴史において、優勝回数では3位タイにまで上がってきた。

そして今年、4度目の優勝を手にすることができれば、2位のチームに並ぶことができる。その2位のチームこそが神奈川のライバルであり、2021シーズンの開幕戦の相手となる横浜F・マリノスだ。

2017年まではまだまだ遠い存在だった。歴史や伝統に加え、何より成績で大きく差をつけられていた。当時すでに国内三大大会で5度の優勝を飾っていた横浜FMに比べ、川崎Fはゼロ。どんなにいいサッカーを披露していたとしても、「結果は残していない」と言われれば返す言葉もなかった。

ただ、悲願の初タイトルを手にしてから、川崎Fの勢いは一気に加速した。2018年にリーグ連覇を達成すると、2019年にはJリーグYBCルヴァンカップを制し、昨年はリーグと天皇杯の2冠を獲得。胸の星の数は5つに増え、横浜FMはもはや遠い存在ではなくなった。今年、複数タイトルを獲得すれば、肩を並べるどころか、一気に追い抜くことだって可能。と、声高々に言える日も近づいてきていると言っていい。

1-4の完敗。それが最多連勝、最多勝点、最多得点の原点

忘れてはならない記憶がある。それは2019年のJ1リーグ。近年で唯一、リーグ優勝を逃した年に、リーグの頂点に立ったのは何を隠そう横浜FMだった。特に11月30日に行われたホームでの神奈川ダービー。優勝を目指す横浜FMと対峙した川崎Fは、力の差を見せつけられる形で為す術なく1-4の完敗を喫した。

それでも、ライバルに喫した一つの完敗が、川崎Fをより強力なチームへと変貌させた。

「ホーム最終戦で横浜FMに敗れたことが決定打だったかもしれません。それより前から自分の中で『もっと出来るよな』という思いはずっとあったんですけど、どこかで安全に行こうとしていたのかなと。『このまま行っても先は見えている』という自分の思いがあって、何かを変えなくてはいけないと思いました」（鬼木達監督）

指揮官は翌年、システムを「4-3-3」に変更し、「1試合3点」というノルマを課して破壊的な攻撃力を備えたチームを作り上げた。最多連勝記録、最多勝点、最多得点数など、数々の記録を打ち立ててリーグを席巻。横浜FMとのホーム&アウェイは前年の悔しさを晴らす形でシーズンダブルを達成し、借りを返すことになった。

迎える2021年。川崎Fはリーグ連覇とAFCチャンピオンズリーグのW制覇を目標に掲げている。すなわち、リーグを制すことができれば横浜FMの優勝回数に並び、ACLを獲ればアジアの舞台では一歩前に出ることになる。今シーズン次第では、神奈川の勢力図を変えることになるかもしれない。

そんなシーズンのスタートに横浜FMと相対するのは、今年を占う意味でも大きな価値を持つ。相手は昨季のリベンジを果たそうと躍起になってくるだろう。だが、負けて出鼻を挫かれる用意はしていない。勝って勢いに乗るだけだ。

「昨季のリーグ王者」という呼び名にあぐらをかくつもりはない。神奈川のライバルに対して、川崎Fは普段と変わらずチャレンジャーとして挑むのみ。金曜開幕のJ1リーグ。攻撃的なサッカーを志向する相手を“圧倒的な攻撃”で粉砕することで、横浜FMだけでなく、今季対戦する全チームに“川崎強し”を印象付けにいく。

文・林遼平

埼玉県出身の1987年生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている。