補強に巨費を投じて顰蹙を買うケースも
所詮はカネで創ったクラブだろうが──。
チェルシーを批判する際、頻繁に用いられる文言だ。ロマン・アブラモヴィッチがオーナーに就任した2003年以降、補強に巨額を費やしている。市場相場をぶち壊す移籍金を投入し、世間の顰蹙を買うケースもしばしばあった。
17年夏はアルバロ・モラタを6750万ポンド(約104億円)、18年夏にはケパ・アリサバラガにGKとして史上最高額の7100万ポンド(約109億円)、そして昨夏はロメル・ルカクの獲得に9750万ポンド(約150億円)も使っている。
モラタはなにもできず、わずか2年でユヴェントスへ去り、ケパはエドゥアール・メンディにポジションを奪われた。右足首負傷と新型コロナウイルス感染により、ルカクは期待に応えていない。
また、アドリアン・ムトゥは首脳陣に対する批判とコカインの陽性反応で契約解除に至り、ファン・セバスティアン・ベロンとファン・クアドラードは大都会ロンドンのリズムに馴染めなかった。
さらに、フェルナンド・トーレスはディディエ・ドログバとニコラ・アネルカの牙城を崩せず、ユーリ・ジルコフはアシュリー・コールの刺激にもならなかった。彼ら8選手の移籍金は総額544億円。嗚呼、なんたる無駄遣いだ。
そら見たことか、チェルシーなんかその程度さ──。
経済的に恵まれたクラブを忌み嫌う声が聞こえてくる。
いやいや、ちょっと待ってくれ。先入観が強すぎはしないか。近ごろのチェルシーは、下部組織出身の選手が躍動している。
メイソン・マウントとリース・ジェイムズは、イングランド代表でも主力だ。アンドレアス・クリステンセンはデンマーク代表でも確固たる地位を築くDFであり、カラム・ハドソン=オドイとルーベン・ロフタス=チーク、トレヴォー・チャロバーは、チェルシーのトーマス・トゥヘル監督も高く評価するタレントだ。
下部組織出身の選手が7人もトップチームで活躍するメガクラブは希少価値がある。ポール・ポグバやスコット・マクトミネイ、マーカス・ラッシュフォードをはじめ、マンチェスター・ユナイテッドにも下部組織出身の者が5~6名ほどトップチームに名を連ねるが、機能しているとは言い難い。
しかもチェルシーは、MFコナー・ギャラガーがクリスタルパレスに、FWアルマンド・ブロヤがサウサンプトンに、そしてMFビリー・ギルモアがノリッジにローン移籍し、来シーズン以降の主力になるべく研鑽を積んでいる。
彼らだけではない。マンチェスター・シティが興味津々と伝えられるDFヴァレンティノ・リヴラメント(サウサンプトン)、イングランド代表入りが間近に迫ったDFマーク・グエーイ(クリスタルパレス)には、買い戻しオプションという条件を付けていた。
現状ではトップチームの戦力になれないものの、彼らが飛躍を遂げた際には優先的に再契約できる。このあたりの準備にも怠りはない。
音楽界やバレエ界の養成機関を視察
さて、チェルシーが若手育成に本腰を入れたのは04年。アブラモヴィッチがオーナーに就任した翌年のことだった。下部組織専用の練習施設を新築するとともに、多くの有能なタレントを輩出する国内外のクラブを参考にした。
スカウティングで重視すべきポイントを、身体の大きなタイプではなく、スピード、テクニックに光るものを持った少年に変更していったという。
なるほど、ドミニク・ソランケやフィカヨ・トモリ、ナサニエル・チャロバー、タミー・エイブラハムなど、イングランドのアンダー世代で活躍した選手たちは、だれひとりとして巨漢ではない。
また、有望な若手を発掘するために音楽界やバレエ界の養成機関を視察。ー般教育の強化にも尽力した結果、ソランケは義務教育レベルの修了試験で好成績を残していた。大切な息子を預ける保護者にとっては、このうえない安心材料といえるだろう。
プロは生き馬の目を抜く厳しい世界だ。ここに挙げたすべての若者の将来が保証されているわけではない。ソランケはリヴァプール移籍後も鳴かず飛ばずでボーンマスに追われ、トモリはミラン、チャロバーはワトフォードからフラム、エイブラハムもローマに活躍の場を求めている。彼らの場合は、チェルシーに復帰する公算は小さい。
しかし、ウェストロンドンの強豪が、充実した下部組織から数多のスター候補生を輩出していることは紛れもない事実だ。総額544億円も出費して獲得した前記の8選手が働かず、ケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)やモハメド・サラー(リヴァプール)の才能も見抜けなかったが、決してカネに飽かせるだけのクラブではない。
いまやヨーロッパ中のメガクラブが欲し、市場価格が推定1億5000万ポンド(約210億円)に達したデクラン・ライス(ウェストハム)、プレミアリーグ屈指の右アウトサイドといわれるタリク・ランプティ(ブライトン)も、チェルシーユース出身だ。
われわれは、チェルシーのデータをアップデートしなくてはならない。無駄遣いは多いものの、若手の育成にも力を入れているクラブである、と──。
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
チェルシーユース出身の主な選手
ポジション 名前 | 所属クラブ | 推定市場価格 |
---|---|---|
MF メイソン・マウント | チェルシー | 7500万ユーロ |
MF デクラン・ライス | ウェストハム | 7500万ユーロ |
MF リース・ジェイムズ | チェルシー | 5500万ユーロ |
MF ジャマル・ムシアラ|写真 | バイエルン | 5500万ユーロ |
DF フィカヨ・トモリ | ミラン | 4500万ユーロ |
FW タミー・エイブラハム | ローマ | 3800万ユーロ |
DF アンドレアス・クリステンセン | チェルシー | 3500万ユーロ |
FW カラム・ハドソン=オドイ | チェルシー | 3200万ユーロ |
DF ナタン・アケ | マンチェスター・C | 2800万ユーロ |
DF マーク・グエーイ | クリスタルパレス | 2200万ユーロ |
MF コナー・ギャラガー | クリスタルパレス | 2200万ユーロ |
MF ルーベン・ロフタス=チーク | チェルシー | 2000万ユーロ |
DF トレヴォー・チャロバー | チェルシー | 1800万ユーロ |
DF ヴァレンティノ・リヴラメント | サウサンプトン | 1800万ユーロ |
DF タリク・ランプティ | ブライトン | 1800万ユーロ |
MF ビリー・ギルモア | ノリッジ | 1500万ユーロ |
MF ドミニク・ソランケ | ボーンマス | 1400万ユーロ |
FW アルマンド・ブロヤ | サウサンプトン | 900万ユーロ |
配信情報
FAカップ4回戦
チェルシー対プリマス
- 配信: DAZN
- 配信開始:2月5日(土)21時30分
- 解説:ベン・メイブリー 実況:永田実
- 会場:スタンフォード・ブリッジ
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