素晴らしい、の一語に尽きる──。
今シーズンのルーク・ショーは攻守ともハイパフォーマンスを継続。プレミアリーグ屈指の……いやいや、世界でもトップランクの左サイドバックであることを、改めて証明した。
サウサンプトンからマンチェスター・ユナイテッドに移籍し、早くも7年目を迎えた。これまで、期待に応えたとは言い難い。ハムストリングを痛め、長期の戦線離脱を余儀なくされるケースもしばしばあった。
しかも、すぐに太る。臀部が大きくなり、腰まわりにたっぷりと肉がつく。ハムストリングが悲鳴を上げるのは、至極当然のからだつきだった。
なにしろ、シーズンを通してユナイテッドに貢献できたのは、公式戦40試合に出場し、1ゴール・5アシストを記録した18-19シーズンだけといって差し支えない。昨シーズンは、ハムストリングの負傷で3か月近くも戦列を離れている。17-18シーズンはリーグ戦11試合、チャンピオンズリーグで重傷を負った15-16シーズンは、同5試合の出場に終わっている。
完璧なボディを手に入れた
大食漢ではなく、パーティーボーイでもないが、ショーはベストコンディションを維持する期間がつねに短く、ケガに付きまとわれていた。戦線離脱を繰り返す選手は計算しづらい。当然、首脳陣の信頼を完全には得るまでには至らなかった。ところが……
「おっ、随分とスッキリしたな」
今シーズンの第一印象である。シーズン開幕直前の練習風景を動画でチェックしたとき、ショーのスリム化は新鮮な驚きだった。シーズンオフに丸くなり、およそアスリートらしからぬ体型(大相撲の新弟子か!?)を多くのメディアに批判されてきた男が、今シーズンはまったくの別人になっていた。
食生活に人一倍気を遣うようになったのか、オフの間に入念なトレーニングに励んだのか、ショーはコンディションに関して一切発言していない。しかし、体調管理すらままならないコロナ禍にあって、シェイプされた体型を維持しているからこそ、今シーズンのハイパフォーマンスが可能になった、と推察できる。
やや遅きに失したものの、ショーはプレミアリーグで闘う完璧なボディを手に入れた。2月14日時点で公式戦28試合、2121分に出場。首脳陣の信頼を証明するデータである。
また、尻にも火がついたのだろう。ポルトガルのFCポルトからやって来たアレックス・テレスは、前評判がやたらと高かった。
「左足のキックは精度、破壊力とも天下一品」
「ユナイテッドの左サイドバックはテレスだ」
「アシストランキングでも上位に入るだろう」
ショーにすれば屈辱である。たしかにテレスは昨シーズンのポルトで18ゴールに関与し、8本のPKを含むとはいえ11ゴールを奪った。左サイドバックとしては傑出したデータだ。
ロバートソンと遜色ない
「ふざけるなよ」
闘わないうちから判定負けを宣告されたような報道に、ショーのプライドが刺激された。アシュリー・ヤング(現インテル)やブランドン・ウィリアムズなど、昨シーズンまで左サイドの定位置を争ったライバルより、テレスが強敵だと分かっていても、おいそれと引き下がるわけにはいかない。
「アレックスとは日々の練習でも切磋琢磨している。ポジション争いは個人を、チームを高めるうえで欠かせない要素だと思う。アレックスが素晴らしいプレーを見せればもちろん嬉しいし、俺も負けないぞって反骨心に火がつく」
テレスがいい刺激になっていることを、ショー本人も認めていた。
最高のコンディションとライバルの出現……。肉体と精神が刺激されたショーは本来の能力をようやく発揮し、左サイドで異彩を放っている。攻撃参加のタイミングは的確で、ハーフレーンに進入する頻度も増してきた。ブルーノ・フェルナンデス、マーカス・ラッシュフォードとの小気味よい連携は、ユナイテッドの新たなストロングポイントだ。
もちろん、守りも安定しており、一対一であっさり抜かれたシーンはほとんどない。高速ウイングにもパワーファイターにも対応し、左サイドに堅陣を築く。
いま、プレミアリーグの左サイドバックは、リヴァプールのアンドリュー・ロバートソンが最も高く評価されている。推定市場価格も6750万ポンド(約94億5000万円)だ。ちなみにショーは1980万ポンド(約27億7200万円)……。
ちょっと待ってくれ。ロバートソンの三分の一以下とは何事だ!? 復活のシーズンとはいえ、今シーズンのショーはロバートソンと遜色ない。
この評価、近いうちに覆してやろうじゃないか。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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