4失点大敗の屈辱から中三日で
一度、大恥をかいた方がいい。
マンチェスター・ユナイテッドは仮に5位に終わっても、チャンピオンズリーグ（CL）出場権を獲得できるかもしれない。なぜなら、チェルシーにポイント剥奪やボトム10への降格など、なんらかペナルティーが科される公算が大きいからだ。トーマス・トゥヘル監督や選手に罪はないものの、ロマン・アブラモヴィッチ前オーナーの資金がロシア政府をサポートしていたことは周知の事実である。
だが、CLにしろEL（ヨーロッパリーグ）にしろ、ユナイテッドが欧州カップ戦の参加資格を失わないかぎり、オーナーのグレイザー・ファミリーはなんの危機感も抱かずにクラブを所有しつづける。
真正面からフットボールに向き合わない姿勢をギャリー・ネヴィル、リオ・ファーディナンド、ロイ・キーンといったレジェンドが声高に批判しても “暖簾に腕押し” だが、参加できるコンペティションがイングランド国内オンリーになれば、グレイザーの尻にも火がつくに違いない。
さて、リヴァプールに0－4の屈辱を喫してから中三日、ユナイテッドはアーセナルの本拠エミレーツに乗り込む。23日12時30分（日本時間20時30分）試合開始。いわゆるランチタイム・キックオフだ。通常とは異なるスケジュールのため、コンディションの調整が難しい。
負傷でリヴァプール戦を欠場したフレッジ、ルーク・ショー、エディンソン・カバーニは間に合うだろうか。クリスティアーノ・ロナウドは、ご家族の不幸から立ち直れるだろうか。
また、リヴァプール戦でふくらはぎを痛め、10分足らずでピッチを後にしたポール・ポグバは、「今シーズン中の復帰は難しい」（ラルフ・ラングニック暫定監督）ほどの重傷だった。要するにユナイテッドは、リヴァプール戦に続いてアーセナル戦も、ベストメンバーでは闘えない。
冨安健洋の完全復活なるか
(C)Getty Images
一方、アーセナルは20日のチェルシー戦で4－2の快勝。連敗を3で止めた。同じロンドンを本拠とする強豪を破り、失いかけていた自信を取り戻したのではないだろうか。チーム状況は、ユナイテッドをはるかに上まわっている、と判断して差し支えない。
さらに、プランが根付かず、ブルーノ・フェルナンデスとC・ロナウドに頼るしかないユナイテッドに対し、アーセナルはミケル・アルテタ監督の戦略・戦術が浸透。見ていて楽しいアタッキング・フットボールが繰り広げられている。
ガブリエウ・マルティネッリ、マーティン・ウーデゴール、ブカヨ・サカといった逸材の技量をもってすれば、脆弱なユナイテッドDF陣を翻弄することは容易い。チェルシー戦に続く大量点も十分に考えられる。
そしてこの試合が、冨安健洋の復帰戦になる可能性が高まりつつある。ふくらはぎの故障も癒えたいま、アルテタ監督が日本代表DFを先発リストに書き記したとしても不思議ではない。右サイドに流れてきたC・ロナウドを一発で仕留める。ジェイドン・サンチョのドリブルを完封する。冨安、完全復活なるか──も注目ポイントだ。
いまから15年ほど前まで、アーセナル対ユナイテッドはプレミアリーグが世界に提供する最良のコンテンツだった。毎シーズンのように覇権を争い、魂を揺さぶられるシーンの連続だった。
アーセナルがティエリ・アンリとロベール・ピレス、パトリック・ヴィエラといったフレンチコネクションを軸に据えれば、ユナイテッドではデイヴィッド・ベッカム、ライアン・ギグス、ポール・スコールズなど、いわゆるファギーズ・フレッジリングス（アレックス・ファーガソン監督のひな鳥たち）が躍動する。両チームの対戦は世界のトレンドでもあった。
その後、時代の流れについていけず、ともに試練のときを迎えているが、両チームがプレミアリーグの今日を築き、いまをときめくマンチェスター・シティとリヴァプールでさえ、「ユナイテッドとアーセナルに追いつけ、追い越せ」を念頭に強化してきた。
優勝争いにはなんら影響を及ぼさない一戦とはいえ、そのユニフォームに袖を通したからには、伝統を正しく受け継ぐ責務がある。名門の矜持……。まだ、燃え尽きてはいないはずだ。
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
粕谷秀樹のNOT忖度
配信情報
プレミアリーグ第34節
アーセナル対マンチェスター・U
- 配信： DAZN
- 配信開始：4月23日（土）20時30分
- 解説：戸田和幸 実況：下田恒幸
- 会場：エミレーツ・スタジアム
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