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アストンヴィラ

【コラム】監督としては一見さん。ジェラードは馬鹿高い席料を覚悟しておいた方がいい | 粕谷秀樹のNOT忖度 | プレミアリーグ

【コラム】監督としては一見さん。ジェラードは馬鹿高い席料を覚悟しておいた方がいい | 粕谷秀樹のNOT忖度 | プレミアリーグ(C)Getty Images
【欧州・海外サッカー コラム】リヴァプールで一時代を築いたスティーヴン・ジェラード。アストンヴィラの新監督として、プレミアリーグに戻って来たレジェンドに待ち受ける未来は──。

帰還を歓迎する声と反対意見

「イングランド・フットボールにおいて、アストンヴィラは豊かな歴史と伝統を持つクラブだ。経営陣や理事会と話し合ううちに、並々ならぬ野心がストレートに伝わってきた。監督に就任できたことを誇りに思う」

11月11日、ヴィラの新監督に就任したスティーヴン・ジェラードは力強く語った。

2016年11月に現役生活を終えた後、リヴァプールのアカデミコーチを務め、18-19シーズンからレンジャーズを指揮。昨シーズンに無敗でスコットランドリーグの優勝に導くなど、ジェラードは指揮官としての才能も発揮していた。

ちなみに今世紀、38試合制の国内リーグで無敗優勝を成し遂げたのは、他に03-04シーズンのアーセナル、11-12シーズンのユヴェントス、16-17シーズンのセルティック、昨シーズンのツルヴェナ・ズヴェズダ(セルビアリーグ)しかない。この4チームと並ぶ快挙である。

「スコットランドリーグはレベルが低いから」との陰口も聞こえてくるが、32勝6分(92得点13失点)と素晴らしい成績を収めた。2位セルティックに25ポイントもの大差をつける圧勝だった。

「スティーヴンはいつかプレミアリーグに帰ってくる、と信じていた」

ブラックバーンやチェルシーでストライカーとして活躍し、引退後は解説者を務めるクリス・サットンはジェラードのヴィラ着任を歓迎した。

「いずれリヴァプールの監督に就任するに違いないが、メガクラブで成功するための準備として、ヴィラの環境は申し分ない」とも語っていた。

一方、反対意見もある。スコットランド代表やレンジャーズで活躍した往年の名FWで、現在は的確、かつ冷静な分析が業界内で高く評価されるアリー・マッコイストは、ジェラードの近未来に懐疑的だ。

「もう少しレンジャーズに留まるべきだった。プレミアリーグの監督にかかるプレッシャーはきつく、ヴィラで失敗すると、最終目標であるリヴァプールの監督にたどり着けないかもしれない。非常にリスキーな挑戦だ」

2021-11-11 Gerrard Aston Villa

人とボールがよく動くフットボール

どちらの意見も一理ある。

レンジャーズからいきなりリヴァプールより、ミドルクラスのクラブで経験を積んだ方がいい。プレミアリーグは首位から最下位まで、程度は違うがプレッシャーに苛まれる毎日だ。ジェラードはまだ41歳。「もう少しレンジャーズで」というマッコイストの考え方も分からないではない。

ただ、物事はタイミングである。この夏、ヴィラは移籍市場に1億ポンド(約150億円)もの巨額を投入。ダニー・イングス、エミリアーノ・ブエンディーア、リオン・ベイリーといった数多くの即戦力を獲得しながら、プレミアリーグ第7節から5連敗。11節終了時点で降格圏とわずか2ポイント差の16位に沈んでいる。

「1億ポンドも使っておいて5連敗、16位とは何事だ!!」が、経営側の論理である。ディーン・スミス前監督の解雇は避けようがなかった。

スミスの解雇を決めたとき、ヴィラ上層部の新監督候補リストに、ロングボールを基本戦略とするベテラン監督は含まれていなかったという。ジェラードとともに候補に挙がっていたのが、ブライトンのグレアム・ポッター監督とサウサンプトンのラルフ・ハーゼンヒュットル監督だった。3人とも、人とボールがよく動くフットボールが好みだ。

そして彼らと交渉に当たった人物が、CEOのクリスティアン・パースロウである。ラファエル・ベニテス(現エヴァートン監督)体制下のリヴァプールでマネージング・ディレクターを務め、ジェラードとは旧知の間柄だ。

ポッターとハーゼンヒュットルが現職を強く希望した結果、ヴィラはジェラードに方向転換したとの説はあるものの、パースロウとの関係を踏まえると、最初からジェラードが第一候補だったのかもしれない。

2021-08-07-Rangers manager Steven Gerrard

カップファイナルのような闘いが続く

  • 11月20日 ブライトン(H)
  • 11月27日 クリスタルパレス(A)
  • 12月1日 マンチェスター・シティ(H)
  • 12月5日 レスター(H)
  • 12月11日 リヴァプール(A)
  • 12月14日 ノリッジ(A)

今週末以降、ジェラード体制のヴィラは難敵・強敵との対戦が組まれている。

シティ戦はレベルの違いを実感するだろう。

レスターのブレンダン・ロジャーズ監督は、12年6月から15年10月までリヴァプールを指揮している。14年4月のチェルシー戦でジェラードがスリップ。デンバ・バにゴールを許していなかったら、いまごろロジャーズはプレミアリーグの優勝監督として歴史に名を刻んでいたに違いない。

続くリヴァプール戦はアンフィールドが舞台だ。はたしてリヴァプールのサポーターは、レジェンドの帰還にどのような反応を示すだろうか。暖かい歓迎は、試合開始のホイッスルが鳴るまでだ。

そしてノリッジの新しいボスはスミスである。そう、ジェラードが着任するまで、およそ3年にわたりヴィラの監督を務めていた、あの男である。

毎試合がカップファイナルのような闘いだ。今シーズン、ジェラードが率いてきたレンジャーズは、平均ポゼッション63.8%を記録しているとはいえ、シティやレスター、リヴァプールを相手に無謀な闘いは避けるべきだ。自陣にブロックを築き、戦略の基軸にカウンターを据えなくてはならない。

また、一日も早く戦略・戦術を落とし込まなければならないが、途中就任では選手の個性も分からず、チームの骨子を創るまでに時間がかかる。それでも、サポーターやメディアは待ってくれず、上層部は「早く答えを出せ」とせっついてくる。

17シーズンを過ごしたリヴァプールで公式戦504試合・120ゴール。ジェラードはプレミアリーグのクラブで輝かしいキャリアを紡いだ。しかし、監督としては一見さんだ。馬鹿高い席料を覚悟しておいた方がいいだろう

Welcome to f***ing hell.

ようこそ、魅力あふれる地獄へ──。

文・ 粕谷秀樹

1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。

配信情報

プレミアリーグ第12節
アストンヴィラ対ブライトン

  • 配信: DAZN
  • 配信開始:日本時間11月21日(日)0:00
  • 会場:ヴィラ・パーク

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