「すでに終わっている」が答だった
厄介なチームになってきた。メガクラブでも一筋縄ではいかない相手というべきか、少しの油断が大きな禍を招くケースもあるほど、ウェストハムは強くなっている。
創設125年を誇る古豪を率いるのは、あのデイヴィッド・モイーズだ。エヴァートンでそこそこの成績を収めた後、2013年にアレックス・ファーガソンの後任として、マンチェスター・ユナイテッドの監督に就任している。
しかし、第一候補ではなかった。当時フリーだったペップ・グアルディオラはバイエルン・ミュンヘンに先を越され、ファーガソンはインテルの監督を務めていたジョゼ・モウリーニョを推薦したものの、「言動にモラルを欠く」との理由で役員会に拒否されている。
さらにカルロ・アンチェロッティ、ユルゲン・クロップといった優れた監督に打診したが契約には至らなかったことを、後にファーガソンが証言している。
要するに、モイーズは妥協の産物だったのだ。
いい加減が過ぎる人選は歓迎されなかった。「言うことがコロコロ変わる」と、一貫性の欠如をDFリーダーだったリオ・ファーディナンドに暴露され、モイーズはわずか7ヶ月で解任の憂き目に遭った。
その後もレアル・ソシエダやサンダーランドで明確なゲームプランを示せず、スラヴェン・ビリッチの後任として2017年11月に着任したウェストハムでも、陣形そのものが上下動するだけの前時代的な方法論で、シーズン終了後に監督の座を追われている。
「すでに終わっている」がモイーズに対するフットボール全体の答であり、ウェストハムが20年1月に過去完了形の監督を呼び戻したとき、だれもがその人選を疑い、失笑した。
案の定、残留が精いっぱい。守備偏重のスタイルは、サポーターの反感を買うだけだった。
連動性豊かな守備戦術を会得
しかし、昨シーズンはリーグ最多の16ゴールを記録したセットプレーを軸に、前シーズンの16位から6位にジャンプアップ。アーロン・クレスウェルが左足で、ジャロッド・ボーウェンが右足で配する正確なクロスを、アンジェロ・オグボンナとトマーシュ・ソーチェクが得意のヘディングで合わせるスタイルは、単純だがそれぞれの個性に適している。
また、デクラン・ライスが2CBの間に降りて後方からビルドアップする際、二列目の選手が必ず空いたスペースをカバーしたり、前からはめる場合はチーム全体がスライドを怠らなかったり、ある程度の規則性も垣間見られるようになった。
今シーズン第5節、マンチェスター・ユナイテッドに1-2の敗北を喫した一戦でも、試合内容ではるかに上回っていた。第11節、リヴァプールには小細工を弄さずに渡り合い、見事3-2で勝ってみせた。
したがって今週末、本拠エティハドにウェストハムを迎撃するマンチェスター・シティも、高を括っていると大けがをする。2-1の勝利を収めた昨シーズン26節の一戦でも、アレクサンドル・ジンチェンコが攻め上がった背後のスペースを徹底して利用され、なかなかの苦戦を強いられた。
当然、ウェストハムは今回もシティ対策を練り上げているに違いない。後方からのビルドアップを阻止するため前線でパスコースを限定し、中盤、あるいはDFラインがインターセプトを狙う。5+4のブロックで守り続けるのではなく、ボールを奪ったらカウンター。これが基本戦略か!?
仮にファーストプレスをかわされても、近ごろのウェストハムはチーム全体の連携がスムーズで、瞬時に数的優位を作れる。
一時は失格の烙印を押されたモイーズが、みずからの名誉を取り戻そうとしている。中盤のライスとソーチェクに加え、驚異的な運動能力を誇るFWミカイル・アントニオ、名GKルカシュ・ファビアンスキ、ワンタッチプレーがキラリと光るMFパブロ・フォルナルスなど、要所要所に優れたタレントも擁している。
15-16シーズンにエティハドで2-1の勝利を収めた後、公式戦は3分10敗(PK決着のリーグカップはドロー換算)。ウェストハムはシティに一度も勝っていない。0-4、0-5の大敗が二度ずつ……。過去のデータをチェックすると切なくなる。
しかし、明確なゲームプランを、とくに連動性豊かな守備戦術を会得したウェストハムなら、王者の牙城を崩せるのではないだろうか。
今週末、何かが起きる!?
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
配信情報
プレミアリーグ第13節
マンチェスター・C対ウェストハム
- 配信: DAZN
- 配信開始:11月28日(日)23:00
- 解説:粕谷秀樹 実況:下田恒幸
- 会場:エティハド・スタジアム
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