まさしく “コンプリート・プレーヤー”
ベストコンディションにはほど遠い。新型コロナウイルスに感染した後、心肺機能に不安を抱くようになった。
「スプリントを2、3回繰り返しただけで呼吸が苦しくなる」
本人も体調の異変を口にした。
しかし、ピッチに立てばベンチの期待に応え、サポーターを満足させるのがプロの務めだ。
ケヴィン・デ・ブライネはやはり凄い。
現地時間1月15日に行われたチェルシーとの大一番でも間合いの測り方で守備陣を欺き、鮮やかなミドルを決めた。コンマ何秒でも速かったり、あるいは遅かったりしていれば、チェルシーDF陣に寄せられ、あのシュートはブロックされていたに違いない。
しかもデ・ブライネは、つねにモチベーションを維持している。チェルシーやリヴァプール、チャンピオンズリーグ(CL)の強豪と闘うときはもちろん、対戦相手がプレミアリーグのボトム10だろうがヨーロッパの片隅のチームだろうが、集中してプレーできることも強みのひとつだ。
モチベーションを維持できず、集中力を欠いた場合はケガにもつながる。マンチェスター・ユナイテッドのポール・ポグバは、デ・ブライネの姿勢を見習わなければならない。
デ・ブライネのベストポジションは中盤3センターのインサイド。左右は問わない。ボールコントロール、パスセンス、決定力、戦術的インテリジェンスのいずれもが世界水準で、非の打ち所がない。さらにプレスバックやタックルなど、身体を張った守備でも貢献する。まさしく “コンプリート・プレーヤー” だ。
この表現は1960年代後期に、ジョージ・ベストがボビー・チャールトンを表す際に用いていた。今から半世紀以上も前、彼らはユナイテッドの主力としてヨーロッパを席巻していた。
ただ、当時のフットボールは分業制であり、攻撃的なポジションの選手に守備力は求められず、現在ほどの運動量も全体的には必要とされていなかった。そして2000年代中期から世界のトップに君臨しつづけるリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドも、守備力と運動量は免除されてきた。
彼らふたりが特筆されるのは実績を踏まえれば当然であり、もちろん、リスペクトもしているが、総合力ではデ・ブライネが上回る。マンチェスター・シティの一員としてCLを、ベルギー代表としてワールドカップを手に入れさえすれば、世界的な格も一気にランクアップするのではないだろうか。
グアルディオラとの出会いで変わった
チェルシーではジョゼ・モウリーニョとそりが合わず、ヴォルフスブルクで大活躍した後に移籍したシティでも、マヌエル・ペレグリーニのもとではうまくいかなかった。主戦場は右ウイング。プレーエリアがサイドの狭いスペースに限定され、窮屈そうに映った。
しかし、ペップ・グアルディオラとの出会いにより、デ・ブライネは変わった。ポジションを右ウイングから中盤インサイドに移し、ダビド・シルバとのコンビでシティの攻撃を操ることになった。
ともに展開力にすぐれ、グアルディオラが志向するポジショナルプレーの理解度も高かったため、シティの攻撃はより華麗に、破壊力も増していく。また、練習中にシルバ、セルヒオ・アグエロといったラテン系の動きを目の当たりしていたため、プレーに柔軟性と狡猾さが加えられた。前述した間合いの測り方は、ラテンのエッセンスといって差し支えない。
グアルディオラが着任した16-17シーズン以降、デ・ブライネは輝きを増していった。右膝を負傷した2018-19シーズンは19試合・2ゴールに終わったものの、その1年を除くシティでの6シーズンは数多くの決定機を創出している。とくに19-20シーズンには13ゴールを決めただけでは満足せず、20アシストを記録。ティエリ・アンリの最多記録に肩を並べた。
コロナ感染に伴う体調不良で、今シーズンは出遅れた感が否めない。しかし、デ・ブライネの調子は上昇カーブを描きつつあり、リーグ連覇を狙うシティにとって心強い限りだ。
トップスピードに乗ったドリブルから、味方の足もとにピタリとパスを合わせる。絶妙のタイミングでゴール前に飛び込み、貴重なゴールを決める。凄まじいスプリントで相手のボールホルダーを追いかけ、エグい角度のタックル……。守るも攻めるも、デ・ブライネは自由自在だ。
さて、現地時間3月5日にはシティの本拠エティハドでマンチェスター・ダービーが予定されている。
「なぁケヴィン、休んでくれてもいいんだぜ」
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
配信情報
プレミアリーグ第23節
サウサンプトン対マンチェスター・シティ
- 配信: DAZN
- 配信開始:1月23日(日)2時30分
- 解説:川勝良一 実況:西岡明彦
- 会場:セント・メリーズ・スタジアム
粕谷秀樹のNOT忖度
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