すっかりお馴染みとなった元イタリア代表DFが『カルチョS級講座』に再登壇。57歳となった現在は、主にテレビ中継の解説者として活躍するジュゼッペ・ベルゴミ氏だ。
今回のテーマはイタリア代表。今夏のEURO2020で53年ぶり二度目の戴冠を果たしたアッズーリだが、カタール・ワールドカップ欧州予選では今月2日のブルガリア戦(1-1)、5日のスイス戦(0-0)で白星を挙げられなかった。
8日のリトアニア戦は5-0で勝利し、連続無敗記録を39試合まで伸ばしたが、低調なパフォーマンスもあり批判は大きくなっている。
はたして欧州王者に何が起こっているのか。2大会ぶりのW杯出場権は手にできるのか。代表キャップ81を誇るレジェンドが、アッズーリの現状に迫る。
マンチーニの方針はブレず
イタリア代表に何が起こっているかって? 巷で渦巻いている悲観論に、私が同調することはない。少しつまずいただけで、論調がネガティブになる。これは我々イタリア人の悪い癖だ。
EUROを制したチームのコンセプトは何も変わっていない。ブルガリア戦、スイス戦のドローにしても、個人的にはちょっとした事故だったと捉えている。
そもそも9月というのは、コンディション調整が難しい時期だ。シーズン開幕直後で、選手の状態にばらつきがある。
しかもEUROに出場したアッズーリのメンバーは、バカンスの時期が遅くなったことで、所属チームへの合流が遅れた。まだトップコンディションにない選手が多かったのは、試合を観ても明らかだった。
今回巻き起こった批判は多々あるが、私はしっかりとした根拠に基づいて"論破"してみたいと思う。
まずは「EUROの成功が勢いと運だけでつかみ取った偶然の産物だった」という、実力に対しての懐疑的な意見。これはEUROでの試合内容を考えれば、まったくの見当外れ。そう言い切れる。
息の合った連携、ベンチも含めた抜群のチームワーク。EUROでのイタリア代表は、まさに真のチームだった。
他国はどこも寄せ集めの即席チームという印象が拭えなかったが、アッズーリだけは違った。その完成度は、まるで毎日トレーニングを積んでいるクラブチームのように洗練されたものだった。
監督のロベルト・マンチーニも、手腕において他の指揮官との違いを見せた。比較対象として、フランス代表のディディエ・デシャン監督を例に挙げてみよう。
知っての通り、フランスは優勝候補筆頭と目されながら、スイスにPK戦で屈しベスト16で姿を消した。
デシャンは2018年のロシア・ワールドカップで母国に二度目の賜杯をもたらした智将だ。だが今回のEUROに関しては、招集メンバーの段階から首をかしげてしまったね。
その最たる例が、左サイドバックの起用法。EUROでは、攻撃的MFのアドリアン・ラビオを左サイドバックでプレーさせるシーンを度々目にした。おそらく苦肉の策だったのだろうが、それならなぜ、ミランで急成長を遂げた左サイドのスペシャリスト、テオ・エルナンデスを招集しなかったのか。
私からすれば、デシャンは当初の采配で自らのミスを周知してしまった。それに比べマンチーニは、すべてにおいて一貫していたと言える。
若手を積極的に起用し、経験豊富なベテランと組ませてチーム全体を成熟させる。その方針は、2018年5月の就任時からまったくブレていない。そして見事にチームを完成させ、欧州の頂点へと上り詰めたわけだからね。
ストライカーは試合ごとの使い分けを
続いて、得点力に関して。ブルガリア、スイスとの2試合でわずか1得点に終わり、攻撃陣がやり玉に挙がっている。その批判も的外れだ。
決定力を欠いたことは確か。ただ築いたチャンスの数で言えば、決して少ないわけではなかった。
そもそも現アッズーリは大量得点で成功を収めてきたチームではない。EUROでもそうだった。グループステージ初戦のトルコ戦、続くオーストリア戦で各3ゴールを奪ったが、残りの5試合では2点が最多だった。
私が言わんとしていることがわかるだろうか。重要なことは、ゴールをどれだけ決めるか、ではない。マンチーニが就任時から積み上げている攻撃的なプレースタイルの継続だ。
今回のW杯予選3試合を見ても、そこにまったくのブレは感じなかった。私がさほど心配していないのもそのためだ。
選手のコンディションさえ整えば、EUROで見せつけたフォーマンスのレベルに戻る。そう確信しているよ。
個々に目を向けたら、チーロ・インモービレ(ラツィオ)が批判の集中砲火を浴びているね。1トップで先発したブルガリア戦、スイス戦で、引いた相手に苦しんだのは事実だ。ボールがほとんど収まらず、苦し紛れにシュートを打つ場面もあったほど。いずれも無得点に終わった。
彼は元々ディフェンスラインの背後に抜け出すタイプのアタッカー。引かれた相手には、その特徴がなかなか発揮しにくい。狭いスペースでボールを受けるのは、お世辞にも上手いとは言えないからね。
マンチーニの標榜するサッカーは、ボールをつなぎ、相手を押し込んで崩すスタイル。と考えると、最前線は足元の技術に優れたタイプが最適だろう。
その点で言えば、もしかしたらインモービレはベストマッチでないかもしれない。ただ現時点では、彼ほど嗅覚の優れたストライカーは他に見当たらない。それも疑いようのない事実だ。
それに対戦相手によっては、インモービレのようなタイプも必ず必要になってくる。積極的に攻撃を仕掛けてくるチームなら、裏にスペ―スが生まれ、彼の特徴が存分に発揮されるチャンスが生じるからだ。
ならば、試合によってストライカーを使い分ければいい。ただそれだけのこと。
ラスパドーリは将来を担う存在
幸い、今のアッズーリにはそういった選択肢がある。インモービレに次ぐ存在として、すでに代表メンバーにも名を連ねている若いアタッカー陣の存在だ。
その筆頭株が、リトアニア戦で1トップに起用されたジャコモ・ラスパドーリ。サッスオーロでプレーするこの21歳は、イタリアが世界に誇ったストライカー、あのパウロ・ロッシと比較されるほどの逸材だ。
何よりまず戦術理解度が高い。空いたスペースを見つけるのが上手く、ボールもしっかり収められる。引いた相手などに対しては、かなり有効なオプションだ。
まだ経験不足は否めないが、今後アッズーリの将来を担っていく存在だと期待しているよ。
あとは強靱なフィジカルを誇る21歳のモイーズ・キーン(ユヴェントス | 写真)、サッスオーロでラスパドーリとコンビを組む22歳のジャンルカ・スカマッカもいる。
マンチーニもきっと心強く思っているはずだ。悲観する状況では決してない。
私は声を大にして言いたい。「落ち着け」と。イタリア人はせっかちだ。何事においても、すぐにファイナルアンサーを求めたがる。一喜一憂せず、ときには忍耐強く見守ることも大切。アッズーリは近いうちにきっと復調した姿を見せるはずだよ。
インモービレのプレーにしたって、もうちょっと長い目で見てあげて欲しいね。そもそもリトアニア戦に出場していたら、それこそ5ゴールくらい決めていたんじゃないか。
過去を振り返ると、イタリア代表はロシアW杯欧州予選のプレーオフで敗れ、60年ぶりに本大会出場を逃した。
今回巻き起こった批判や不安は、その記憶に起因したものも大きいだろう。あの悲劇は、トラウマとして我々の脳裏に深く刻まれているからね。
ただ今予選に限っては、心配無用。日本の皆さんも見ていてほしい、アッズーリは間違いなく予選を突破するから(編集部・注/イタリアはグループCの8試合中6試合を消化。2試合消化が少ない2位スイスに勝点6差の首位に立つ)。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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