EURO2020のスペイン代表を高く評価できるのは、見事に世代交代をやり遂げながら、なおかつベスト4という好結果を掴んだからだ。
弱冠18歳のペドリ(バルセロナ)を筆頭に、GKウナイ・シモン(アトレティック・クルブ)、MFダニ・オルモ(RBライプツィヒ)、FWフェラン・トーレス(マンチェスター・シティ)ら若手逸材が大会を通して大きく成長。さらにペドリやU・シモンなど6選手は、直後の東京五輪にも参戦して貴重な経験を積み、銀メダルというかけがえのない財産も手に入れている。
EURO前はなかなかスタメンを固定できず、先行きを不安視されていたルイス・エンリケ監督のチームだが、来年に迫ったカタール・ワールドカップ(W杯)に向けて、急ピッチで土台を固めてしまった印象だ。
戦術のベースとなるのは、ボールを握る伝統のポゼッションスタイル。とはいえ、そこに拘泥するのではなく、例えばCBアイメリク・ラポルト(マンC)からのロングフィードや、フェラン、そしてEUROでは本領発揮とはならなかったが、今季もアトレティコ・マドリードで好調を維持するマルコス・ジョレンテらの推進力を活かした、直線的な仕掛けも随所で見られるようになった。
積極的な前からのプレスでボールを奪うと、巧みにライン間へと潜り込むペドリやダニ・オルモにパスを通し、手数をかけず相手ゴールに迫るショートカウンターも、今ではひとつの武器となっている。
最大の懸念はブスケツの代役
純粋なCFとして計算できるのが、依然としてアルバロ・モラタ(ユヴェントス)ただ一人で、課題である決定力不足が解消されたわけではない。ただフェラン、ダニ・オルモ、さらにはEUROでラッキーボーイとなったパブロ・サラビア(スポルティング・リスボン)などのサイドアタッカーは、フィニッシュの局面でも十分に違いを作り出せるタレントで、さほど心配する必要はない。
イタリアとのEURO準決勝では“偽9番”として使われたダニ・オルモが機能したが、同じような役割はマンCでCF起用が増えているフェランにも、そして東京五輪で3ゴールを挙げたミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)にも務まる。
むしろW杯に向けての最大の懸念は、4-3-3システムの心臓部を担うアンカー、セルヒオ・ブスケツ(バルサ)の信頼に足る代役が見当たらない点だろう。現状の2番手は、守備能力はブスケツ以上のロドリ(マンC)だが、無難なパスを選択しがちな彼が中盤の底に入ると、どうしてもベクトルが縦方向に向きにくい。実際、EUROでもスペインの攻撃に躍動感とスピード感が生まれるのは、ブスケツが新型コロナ感染から復帰したグループステージ最終戦以降だった。
アトレティコではアンカーが主戦場となりつつあるコケを使う手もあるが、本来はいわゆる「8番」の選手で、そのダイナミズムは1列前でこそより活きる。いまだ不動の存在とはいえ、ブスケツもW杯開幕時には34歳だ。アンカーは世代交代が遅れている数少ないポジションだけに、今後は東京五輪で主力を担ったマルティン・スビメンディ(R・ソシエダ|99年2月生まれ)など、若手の発掘を急ぎたい。
「若返りを急ぎ過ぎている」との声も
さて、現地時間10月6日に控えるUEFAネーションズリーグ準決勝のイタリア戦だが、国内では招集メンバーの顔ぶれについて、こんな否定的な声も聞かれる。
「あまりにも若返りを急ぎ過ぎている。ルイス・エンリケは戦う前から勝負を捨てたのか?」
確かに18歳のFWジェレミ・ピノ、17歳のMFガビの初招集は、性急に過ぎるかもしれない。ビジャレアルで定位置を掴みつつあるピノはまだしも、今季バルサのトップチームに引き上げられたばかりのガビ(写真)は、ペドリと同様、“イニエスタ的な雰囲気”を纏う逸材とはいえ、いかにも実績に乏しいからだ。ならば好調ベティスの司令塔、セルヒオ・カナーレス(30歳)を優先すべきだったのではないかという意見にも頷ける。
さらにフィード能力は非凡ながら、肝心の守備が心もとない20歳のCBエリック・ガルシア(バルサ)の重用も疑問で、ダニエル・カルバハル(マドリー)やジョルディ・アルバ(バルサ)などSBにケガ人が少なくない現状を踏まえても、例えばCBとSBをこなせるユーテリティなナチョ(マドリー|31歳)をリストに加えても良かっただろう。
ただ、あくまでも来年のW杯を見据えた指揮官のチャレンジングな姿勢を、個人的にはポジティブに評価している。今回は招集外となったが、前述のスビメンディに、マルコ・アセンシオ、ダニ・セバージョス(ともにマドリー)、ラファ・ミル(セビージャ)など東京五輪組の有望株もまだまだ控えており、チームとしてのポテンシャルは無限大だ。
スペインは正しい道を歩んでいる
野心的なL・エンリケ監督のもと、スペイン代表は正しい道を歩んでいる。もっとも、メジャートーナメント3連覇(EURO2008、10年W杯、EURO2012)を成し遂げた当時のような栄華を取り戻せるかどうか、その確信はまだない。
事実EURO2020でも、ラウンド16のクロアチア戦、準々決勝のスイス戦はいずれもリードを守り切れず延長戦に持ち込まれたし、イタリアとの準決勝も圧倒的にゲームを支配しながらPK戦の末に屈している。さらに9月のW杯予選では、グループ内最大のライバルであるスウェーデンに、ミスからの失点もあって1-2で競り負けた(その後、ジョージアとコソボに連勝し、暫定ながらグループ首位をキープ)。
要するに、未熟で未完成なのだ。
思春期の少年のような脆さを克服し、ここから真に大人の階段を登っていけるかどうか。その岐路で迎えるのが、今回のUEFAネーションズリーグ・ファイナルラウンドであり、37戦無敗の世界記録を樹立したイタリアとのリベンジマッチは、若いスペイン代表にとって大きな試金石となる。
ペドリやダニ・オルモなど主力数名が負傷でメンバー外となったのは残念だが、このUEFAネーションズリーグ準決勝で無敵の欧州王者イタリアに土を付け、一気に頂点へと駆け上がることができれば──。EUROで手にした自信は、間違いなく確信に変わるだろう。
文・吉田治良
1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。
配信情報
UEFAネーションズリーグ準決勝
イタリア対スペイン
- 配信: DAZN
- 配信開始:10月7日3時45分(日本時間)
- 解説:小澤一郎 実況:桑原学
- 会場:サン・シーロ
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