あわよくばの夢など見るべきではない
バルセロナ はチャンピオンズリーグで優勝できるのか。どんなに熱狂的で信心深いサポーターでも、「Si(イエス)」に大金をベットするのは、命綱なしでバンジージャンプを跳ぶくらいに勇気が要るはずだ。
いや、むしろ熱心なサポーターであればなおさら、あわよくばの夢など見るべきではない。この消化不良のシーズンの最後に、万が一にでも特大の歓喜がもたらされるようなことがあれば、バルセロナは来シーズン以降もまた、 リオネル・メッシ にすがりつくフットボールを惰性のように続けるに違いないからだ。
6月で33歳になったメッシには、もはやシーズンを通してすべての問題を解決できるほどの力はない。今シーズンもラ・リーガの得点王に輝いたとはいえ、故障で出遅れたこともあって4年ぶりに30ゴールの大台には届かなかった。
なにより、チャンピオンズリーグ(CL)の舞台ではここまでわずか3ゴールに止まっている。
ただし、ピンポイントでそのパワーを結集すれば、いまだメッシは世界の最高峰だ。ラ・リーガ終了後の短いオフで心身ともにリフレッシュしたのだろう。それはナポリを退けたラウンド16の第2レグでも証明されている。
輪の外でただ目を泳がせる指揮官
とはいえ、この大エースのパフォーマンスの良し悪しに大きく結果が左右されるフットボールでは、やはり限界がある。
ラ・リーガ2連覇に導いたエルネスト・バルベルデをシーズン途中に解任し、キケ・セティエンを後任に据えた監督人事も、メッシ依存からの脱却を図る一手であったはずだ。
だが、フロントの強引なやり方も気に食わなかったのだろう。ピッチの内外に強い影響力を持つメッシに歓迎されなかったセティエンは、就任当初こそ原点回帰を掲げ、3バックなど様々なシステムを駆使しながらポゼッションフットボールの再興を目指したが、次第にその存在感は希薄になっていった。
新型コロナウイルスによる中断期間も好転の材料とはならず、リーグ再開後のゲームでは、クーリングブレイク中も選手に声を掛けることなく、輪の外でただ目を泳がせる指揮官の姿が印象的だった。それは、メッシが取り仕切るこのチームでは、自分の声など届かないと悟っているようにも映った。
誰一人として特別扱いはせず、スター選手たちに全員攻撃・全員守備を徹底させたジネディーヌ・ジダン監督の レアル・マドリード に、逆転でラ・リーガの覇権を奪われたのも、ある意味、当然の帰結だったのかもしれない。
ベスト4に名乗りを上げるには――
CLの準々決勝で倒すべき相手は、ドイツの絶対王者であり、今大会の優勝候補筆頭でもある バイエルン だ。警戒すべきはここまで13ゴールのエース、 ロベルト・レヴァンドフスキ だけではない。
その攻め手の多彩さはヨーロッパ屈指で、こちらも途中就任ながら見事にチームを掌握したハンス=ディーター・フリック監督のもと、組織としても一枚岩の安定感を誇っている。
バルセロナにとって数少ない明るい材料は、今シーズン絶望と言われていた得点源の ルイス・スアレス が中断期間を利用して戦列に戻り、その後好調を維持していることだろう。
ただし、メッシとスアレス、さらにはメッシと左SB ジョルディ・アルバ のホットライン頼みの攻撃では的が絞りやすく、ゲーゲンプレスの餌食になるのは目に見えている。
誰もがメッシの顔色を窺い、パスの出しどころがメッシ一択のアタックが、バイエルン相手に通用するとは思えない。
本来ならば、 アントワーヌ・グリーズマン がメッシ、スアレスに続く3本目の矢となるべきだが、このナーバスな転校生は、クラス一の権力者の軍門に降るべきか、あるいはフリスト・ストイチコフとバチバチにやり合った、かつてのロマーリオのように一匹狼として生きるべきか、今もなお迷い続けているようだ。
ウスマン・デンベレが故障離脱を繰り返し、中央に偏りがちな攻撃に縦の推進力をもたらすようなジョーカーも見当たらない。選手層の厚みでもバイエルンに大きく見劣りするだけに、ベスト4に名乗りを上げるには、現状ではメッシと守護神 マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン に、それこそ神が宿るしかないようにも思える。
惨敗を喫したあのシーズンの再現も
だとすれば、未来を見据えた戦い方を選択してもいいはずだ。
左サイドにはグリーズマンではなく アンス・ファティ を、インテリオールにはアルトゥーロ・ビダルではなくリキ・プッチを。メッシに遠慮をしない若いカンテラーノたちの勢いと活力に賭けてもいい。
一昨シーズンは準々決勝でローマに、昨シーズンは準決勝でリバプールに、2年連続で歴史的な逆転負けを喫した。その悔しさを晴らすべくチーム一丸となって戦えば、もしかすると活路も開けるかもしれない。
だが、バルサイズムの継承者とも言われたアルトゥールを、資金繰りのために ユヴェントス へ放出した一件も暗い影を落とし、今のチームにバイエルン撃破のポジティブなファクターを見出すのは難しい。それどころか、2試合トータル0-7で惨敗を喫した、あの12-13シーズンの再現もあり得るだろう。
番狂わせが起こりやすい一発勝負のレギュレーションを味方につけ、仮に今回もまた、鬼神のごときメッシが1人であらゆる問題を解決してくれたとしても──。
その先、準決勝で待ち受けるのは、おそらく マンチェスター・シティ 。現在に至るメッシ・システムの基盤を築いたペップ・グアルディオラに、その最後を見届けてもらうのもいいだろう。
今のバルセロナでは優勝できない、いや優勝すべきではない。
熱心なバルサ・ファンの1人として、そう思う。
文・吉田治良
1967年、京都府生まれ。法政大卒。『サッカーダイジェスト』などの編集者を経て、94年創刊『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーに。2000年から約10年間、同誌の編集長を務めた。その後『サッカーダイジェスト』『ダンクシュート』の編集長を歴任。17年の独立以降はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動する。
放送・配信予定
UEFAチャンピオンズリーグ準々決勝
バルセロナ対バイエルン
- 配信:DAZN
- キックオフ:2020年8月15日(土)04:00
- 解説:川勝良一 実況:下田恒幸
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