2年前は6チームがグループステージで全滅
「ドイツサッカーの競争力が低下しているのでは?」
春の陽光が差し込むヴォルフスブルクのクラブハウスで、ピエール・リトバルスキーにこの疑問をぶつけたのは2018年4月。バイエルン・ミュンヘンを除くドイツ勢6チームが、チャンピオンズリーグ(CL)とヨーロッパリーグ(EL)のグループステージで全滅したからだ。
なにより敗退の仕方が散々だった。それぞれCLに参戦したドルトムントは6戦未勝利、ライプツィヒはビッグクラブ不在のグループで2位以内に入れなかった。相手(リヴァプール)が悪いというツキのなさはあったにせよ、ホッフェンハイムはプレーオフ敗退で本選にさえ辿り着けなかった。
そのホッフェンハイムはELに回ったものの、ヘルタ・ベルリンとともにグループステージ最下位という失態を演じた。古豪ケルンはアーセナルを破る番狂わせを起こすも、しかし2位以内には入れずに敗退。フライブルクに至っては予選3回戦で無名クラブに敗れていた。
元ドイツ代表の“リティ”は「それぞれに敗れた事情がある」と答えをはぐらかしたが、ドイツ勢が結果を残せなかったのは事実。バイエルンとドルトムントが聖地ウェンブリーでCL決勝を戦った日から5年近くが過ぎ、隔世の感を禁じえなかった。
その数ヶ月後、ドイツサッカー界にさらなる衝撃が走った。ドイツ代表がロシアワールドカップで早期敗退したのだ。前回大会で開催国のブラジルを木っ端みじんにした世界王者が、メキシコ、スウェーデン、韓国と同居したグループリーグを勝ち抜けない。受け入れがたい現実に直面し、メディアやファンはストレスのはけ口を“戦犯探し”に求めた。
2010年代におけるドイツサッカーのバブルは弾けた…。
バイエルンの不安は油断や慢心くらい
ところが状況がガラリと変わった。あれから2年後の2019-20シーズンのCLで、バイエルンとライプツィヒが準決勝まで駒を進めたのだ。戦前の予想をくつがえす弩級のサプライズだ。
とはいえフロックなどではない。2チームともに説得力のある勝利を重ねてきた。
バイエルンはグループステージでトッテナムに2戦2勝(合計10-3)、ラウンド16でチェルシーに2戦2勝(合計7-1)、準々決勝でバルセロナに衝撃の8-2。いつしか優勝候補の最右翼と称されるようになり、2012-13シーズン以来2度目となる3冠への視界は開けている。
ライプツィヒはラウンド16でトッテナムに2戦2勝(合計4-0)、準々決勝で優勝候補の一角と目されたアトレティコ・マドリードに2-1の勝利を収めた。いずれも相手を攻守に凌駕した末での金星であり、喝采を浴びながらセミファイナルに進出している。
ここまでくれば、両チームの決勝進出は夢でも何でもない。バイエルンがリヨン、ライプツィヒがパリ・サンジェルマン(PSG)との準決勝“一発勝負”をモノにすれば、2012-13シーズン以来2度目となるドイツ勢同士によるCLファイナルが実現する。
優勝候補だったユヴェントス、マンチェスター・シティを敗退に追いやったリヨンは不気味な存在だが、現在のバイエルンが番狂わせを許すとは考えにくい。タレント力、チームの完成度、経験のすべてで上回っているのは周知の事実である。
今のバイエルンにはクラブ史上稀に見る圧倒的な強さが備わっている。得点源のロベルト・レヴァンドフスキから守護神マヌエル・ノイアーまで勝負を決められるビッグタレントを複数擁し、それら強烈な個性が協調し合って、1+1を3にも4にもしているのだ。
7シーズンぶりの欧州制覇に向けた不安は油断や慢心くらいだろう。
有能な自国人監督たちが一時代を築くか
問題はライプツィヒ。アトレティコ戦で出色の出来栄えだったCBダヨ・ウパメカノ、MFダニ・オルモら将来性豊かな逸材が多い点や、攻守にアグレッシブに振る舞うスタイルなど、12-13シーズンのドルトムントに通ずる魅力を持つチームはとにかく経験値が低い。
アトレティコ戦より押し込まれる時間が長くなりそうなPSG戦では、ネイマールやキリアン・ムバッペ級のアタッカーに、ライプツィヒ守備陣がどこまで太刀打ちできるかがポイントだろう。相手の攻撃を耐え、得意のポジティブトランジションからカウンターを繰り出したい。
もちろん、CL準決勝まで辿り着いた史上最年少監督であるユリアン・ナーゲルスマンの戦略、采配もファイナル進出を大きく左右しそうだ。
その青年監督が現役時代に師事したトーマス・トゥヘルが、PSGを率いているのは運命のいたずらだろう。トゥヘル本人も「まさかチャンピオンズリーグ準決勝の舞台で、再び運命が交錯することになるとは」と、かつての教え子との再会に驚いている。
さて、バイエルンを率いるハンジ・フリックを含め、準決勝進出4チームのうち、実に3チームの指揮官がドイツ人。付け加えるなら、昨季の優勝監督(ユルゲン・クロップ)も。リヨン以外のチームが頂点に立てば、ドイツ人監督によるCL2連覇の達成となる。
1990年代終盤から2000年代半ばにかけて地に落ちたドイツサッカーは、ヤングタレントの育成改革という取り組みなどによって栄光と大国としての威厳を取り戻した。今度は「有能な自国人監督」というキーワードで、一時代を築き上げることになるのか。
いずれにせよ、すでに「ドイツサッカーの競争力が低くなったのか」なんて疑問はだれの頭にも浮かんでいないはずだ。
文・遠藤孝輔
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