ジダンが「フォア・ザ・チームの精神」を
コロナ禍に見舞われたイレギュラーなシーズンだったからこそ、なおさら問われたのが、チームとしての総合力だった。
純粋な戦力値だけでなく、いやむしろそれ以上に、フロントワークや監督のマネジメント能力が大きく成否を左右したシーズンだったと言えるかもしれない。
3シーズンぶりにラ・リーガの覇権奪回に成功したレアル・マドリードと、3連覇の夢を絶たれたバルセロナ。2強の明暗を分けたのも、まさしくその部分だった。
故障者続出の影響もあり、序盤戦は波に乗り切れなかったレアル・マドリードだが、そこでジネディーヌ・ジダン監督がチームに説いたのが、「フォア・ザ・チームのスピリット」だった。どんなスター選手であろうと、誰ひとり例外なくハードワークを要求。高い守備意識を植え付け、ここ数年にはなかった実にソリッドなチームを作り上げた。事実、総失点は25で、昨シーズン(46)からほぼ半減している。
サモーラ賞(最少失点率GK)に輝いた守護神ティボー・クルトワ、重鎮CBセルヒオ・ラモス、替えの利かないアンカーのカゼミーロ、そして21ゴールを挙げてエースの仕事を全うしたカリム・ベンゼマと並ぶ不動のセンターラインを最大の強みに、その安定感は際立っていた。さらに、攻守にダイナミズムをもたらした“前半戦のMVP”フェデリコ・バルベルデや、前線ではロドリゴ、ヴィニシウス・ジュニオールといった若手の台頭も目を引いた。
圧巻だったのは、中断期間明けからの無双ぶり。第27節のエイバル戦から怒涛の10連勝で一気にバルセロナを突き放し、最終節を残して優勝を決めている。これは長い中断期間中も選手の体調管理を怠らず、モチベーションを持続させた、ジダン監督を筆頭とするコーチングスタッフの勝利とも言えるだろう。序盤戦の不調で一時は限界説も囁かれたルカ・モドリッチもリーグ再開後、急激に調子を上げていった。
主力にと期待したマルコ・アセンシオがプレシーズンに大怪我を負い、補強の目玉だったエデン・アザールも故障と復帰を繰り返すなど、誤算は少なくなかったはずだ。そしてベンチには、ギャレス・ベイルやハメス・ロドリゲスといった不満分子も抱えていた。そんななかでも選手に信頼を寄せ、チームに一体感をもたらしたジダン監督のマネジメント術は、見事というほかない。
優勝を決めた後、S・ラモスはこう語っている。
「僕たちはジダン監督に守られていると、常に感じていた。唯一無二の監督だ」
対照的に、ロッカールームをひとつにまとめきれなかったのがバルセロナだ。
1月に前任のエルネスト・バルベルデを解任し、キケ・セティエンを後任に据えた監督人事は、一時的に「ポゼッションフットボールへの回帰」を期待させたが、結果から判断すれば、やはり失敗だったと言わざるを得ない。アンス・ファティやリキ・プッチといったカンテラ育ちの若手が頭角を現したとはいえ、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ジェラール・ピケらベテランに大きく依存する体質は変わらず、彼らの時代が長期化した弊害で、もはや並大抵の監督ではチームを制御できなくなってしまった。
25ゴールで得点王に輝き、21アシストはリーグ新記録。衰えを知らないメッシの影響力と発言力は、年々大きくなる一方だ。新戦力のアントワーヌ・グリーズマンも、“ボス“との共存に最後まで腐心した。
バルセロナが変革を必要としているのは間違いない。だが、メッシという巨大な存在を活かしながらそれを成し遂げるには、OBであるシャビのようなカリスマが監督の座に就かなくては、おそらく難しいだろう。
リーグ中断前はかろうじて首位に立っていたバルセロナだが、再開後は第32節のセルタ戦(2-2)など取りこぼしが目立ち、最後は第37節のオサスナ戦に敗れて終戦。その試合後にメッシが口にした言葉は、S・ラモスのそれとは対照的だった。
「シーズンを通して安定感に欠けた。それについてはまず選手が反省すべきだが、クラブとしての反省も必要だ」
アトレティコを上昇気流に乗せた闘将の采配
2強に次いでチャンピオンズリーグ(CL)の出場権を手に入れたのが、アトレティコ・マドリードとセビージャだ。リーグ再開後はともに無敗。彼らの“勝因”もまた、指揮官のマネジメント能力とフロントワークにあった。
セビージャの場合は、とりわけ敏腕スポーツディレクター、モンチの功績が大きい。チーム最多の14ゴールを挙げたルーカス・オカンポスを筆頭に、アンカーのフェルナンド、CBのジエゴ・カルロスなど、新戦力がことごとく当たっている。
アトレティコで光ったのは、ディエゴ・シメオネ監督の巧みな采配だ。昨夏の陣容大刷新の影響で前半戦は不安定な戦いが続いたが、中断期間明けはターンオーバーを上手く活用しながらチームを上昇気流に乗せた。
堅牢な守備組織が土台にある点は不変だが、例えば本来は中盤のマルコス・ジョレンテをFWに抜擢し、彼のスピードと運動量を活かして攻撃の幅を広げるなど、モチベーターとして知られる闘将は、優れた戦術家としての一面も垣間見せている。
一方、大混戦となったヨーロッパリーグ(EL)の出場権争いを制したのは、円熟のプレーメーカー、サンティ・カソルラやスペイン人得点王のジェラール・モレノら多士済々のタレントが織りなす魅惑のアタックで、再開後に一気に盛り返したビジャレアル、アカデミー出身の逸材たちにマルティン・ウーデゴール、ポルトゥといった新戦力が融合し、前半戦の主役となったレアル・ソシエダ、そして昇格組ながら一大旋風を巻き起こしたグラナダの3チームだ。
コパ・デル・レイ決勝が延期となった影響で、今シーズンは7位のクラブにまでEL出場権が与えられたが、その恩恵に与ったのがグラナダだった。ただ、彼らの躍進は「サプライズ」という言葉で簡単には片付けられない。新進気鋭のディエゴ・マルティネス監督が植え付けた堅守を拠り所に、カルロス・マルティネス、ロベルト・ソルダードらスピード豊かな前線を活かした一撃必殺のカウンターは、上位陣も震え上がらせた。
逆に、十分な戦力がありながら期待を裏切ったのが、バレンシア、ベティス、そして最終節に辛くも残留を決めたセルタだ。とりわけバレンシアは、昨シーズンにチームをコパ・デル・レイ優勝に導いたマルセリーノ・ガルシア・トラル監督を、お家芸とも言える内紛の果てに3節終了時点で更迭したことが、最後まで響いた。
降格3チームはレガネス、マジョルカ、エスパニョール。昇格組の中で唯一残留を逃したマジョルカは、もとより戦力の乏しさが明らかで、加えてようやく調子が上向いてきた矢先の中断期間突入も痛かった。レアル・マドリードからレンタルの久保建英はハイレベルな個人技で違いを生み出したが、それでもラ・リーガ挑戦1年目の若者に、攻撃面で多くを委ねなければならない状況が、すべてを物語ってもいただろう。
そして、クラブ史上初めて最下位に沈んだのが、エスパニョールだ。現場の“温度”を知らない中国人オーナーに振り回され、三度の監督交代劇の末に、27年ぶりの降格。イレギュラーなシーズンにこそ求められる要素を何ひとつ持ち合わせない、象徴的なクラブであっただろう。
文・吉田治良
1967年、京都府生まれ。法政大卒。『サッカーダイジェスト』などの編集者を経て、94年創刊『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーに。2000年から約10年間、同誌の編集長を務めた。その後『サッカーダイジェスト』『ダンクシュート』の編集長を歴任。17年の独立以降はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動する。
2019-2020シーズン ラ・リーガ最終順位
順位 | 点 | 勝 | 分 | 敗 | 差 |
---|---|---|---|---|---|
1 レアル・マドリード | 87 | 26 | 9 | 3 | +45 |
2 バルセロナ | 82 | 25 | 7 | 6 | +48 |
3 アトレティコ・マドリード | 70 | 18 | 16 | 4 | +24 |
4 セビージャ | 70 | 19 | 13 | 6 | +20 |
5 ビジャレアル | 60 | 18 | 6 | 14 | +14 |
6 レアル・ソシエダ | 56 | 16 | 8 | 14 | +8 |
7 グラナダ | 56 | 16 | 8 | 14 | +7 |
8 ヘタフェ | 54 | 14 | 12 | 12 | +6 |
9 バレンシア | 53 | 14 | 11 | 13 | -7 |
10 オサスナ | 52 | 13 | 13 | 12 | -8 |
11 アスレティック・ビルバオ | 51 | 13 | 12 | 13 | +3 |
12 レバンテ | 49 | 14 | 7 | 17 | -6 |
13 バジャドリード | 42 | 9 | 15 | 14 | -11 |
14 エイバル | 42 | 11 | 9 | 18 | -17 |
15 ベティス | 41 | 10 | 11 | 17 | -12 |
16 アラベス | 39 | 10 | 9 | 19 | -25 |
17 セルタ | 37 | 7 | 16 | 15 | -12 |
18 レガネス | 36 | 8 | 12 | 18 | -21 |
19 マジョルカ | 33 | 9 | 6 | 23 | -25 |
20 エスパニョール | 25 | 5 | 10 | 23 | -31 |
※1~4位がチャンピオンズリーグ出場権、5~7位がヨーロッパリーグ出場権を獲得。18~20位は2部降格。
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