【2021のヒーローになれ】プロフェッショナリズムの象徴。酒井高徳は影に日向にチームを牽引する ｜ ヴィッセル神戸

数多くのポジションをこなす「オールラウンダー」

神戸の強サイドとして広く認知されているのは、MFアンドレス・イニエスタ、FW古橋亨梧、そしてDF酒井高徳のいる左サイドだろう。

彼ら3人で攻撃の作りから突破までを貫徹させることも珍しくなく、警戒されながらも“崩し″を演出してきた最強のストロングポイント。酒井が繰り出す鋭いオーバーラップやワンツーは芸術的だ。

ただ開幕戦から当面は、昨季のAFCチャンピオンズリーグで負傷し、リハビリからの復帰を目指すイニエスタが不在となり、3人の連係を見ることは叶わない。

さらに昨季まで右サイドの軸だったDF西大伍が浦和レッズへと旅立ち、右ウイングが主戦場だったFW小川慶治朗は横浜FCへ、右CBのダンクレーもセレッソ大阪に移籍した。右SBのスペシャリストであるDF櫻内渚をジュビロ磐田から獲得したものの、汎用力の高い酒井や古橋が右サイドで起用されることも可能性として十分ある。

自らを「オールラウンダー」と称する酒井は、数多くのポジションをこなしてきた経験を踏まえ、求められた役割に強い意思で臨むことを口にしている。その上で、自身だけではなく選手それぞれが持つべきメンタリティーの大切さに言及した。

「実力のある選手たちがいなくなったのも事実だけど、『（退団が）ひびいた』、『やっぱりいなくなったから』と言われるようなシーズンには絶対にしたくない。危機感を持ちながらやっていくのは大事なこと。『良い選手が入ってきた、出て行った』ということに関係なく、ピッチに立っている選手がやらないといけない」

チームを確実に前進させている背番号24

酒井の言葉には説得力がある。

一昨年夏、ドイツのハンブルガーSVから神戸に加入して以来、身体を張ったプレーと質の高さで牽引し、若手には力強い言葉と態度で向き合ってきた。その効果は同年度の天皇杯優勝という結果に直結。神戸というクラブが前進を遂げるために不可欠のメンタリティーを運び込んだ。

その姿勢を裏付けるようなパフォーマンスの安定ぶりは、過酷な環境下のシーズンだった昨季も光っていた。本人はコンディション維持に悩んだシーズンだったことを語っているが、そのプレーはもちろん、各選手の個性を引き出すようなバランサーとしての仕事は見ごたえ十分。クラブ初出場ながらベスト4に進んだACLでの貢献も記憶に新しいところだ。

ただ、チームはACLで躍進したものの、リーグ戦は14位に沈んだ。昨季最後の試合だったリーグ最終節・FC東京戦にも敗れ、リーグ戦は6連敗で終了。試合後の囲み会見で酒井は、「率直にふがいないという一言。こればかりは『ACL頑張ったから』、『良いところまで行けたから』という話ではまったくない。リーグでしっかりと結果が出た中でACLというのがあると思ってます」と実直に語っている。

結果から逃げず、正面から受け止め、次なる成長の糧にする。そういう一つひとつの姿勢はプロフェッショナリズムの象徴のようであり、だからこそ彼のプレーには絶えず凄みが備わり、周囲に強く伝播していく。

神戸を確実に前進させている背番号24は、今季も陰に日向にチームを引っ張り、支えることだろう。今シーズンが終わったとき、彼の表情にカタルシスを伴った最高の笑顔が訪れることを願ってやまない。

文・小野慶太

2011年からサッカー専門新聞「エルゴラッソ」でヴィッセル神戸を担当。精力的に現地取材を行い、神戸の今を届けている。