アジア王者は新たな勲章
(C)Getty images
ヴィッセル神戸の中で最もアジア制覇にこだわっているのはMFアンドレス・イニエスタだろう。神戸という新天地にアジア王者という新たな勲章を求めたからだ。
イニエスタはスペインのラ・リーガ制覇9回、UEFAチャンピオンズリーグ優勝4回、そして2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会の決勝戦では自らのゴールでスペイン代表を優勝へと導いたレジェンドである。だがそれは、彼一人の功績ではなく、バルセロナではFWリオネル・メッシ、スペイン代表ではMFダビド・シルバといった多くの優れた盟友たちがそばにいたから成し得た偉業でもある。
彼が加入した2018年以前の神戸は、J1リーグでの最高順位は7位。J2リーグ降格を2度も味わい、毎年のようにJ1残留争いに巻き込まれていた。そんなクラブにとってアジア制覇は夢のまた夢。百戦錬磨のイニエスタにとっても雲をつかむような挑戦であり、これまでの名声に泥を塗るリスクもあった。それでも彼は神戸での冒険を選んだ。それは、アジア制覇への思い入れが誰よりも強かったからだ。
その想いをぶつけたのが初出場の2020年大会。2月のグループステージ初戦(MD1)のジョホール・ダルル ・クジム戦で先発出場したイニエスタは2アシストの活躍で5-1の大勝へと導いている。相手監督が試合後に「我々の選手たちはイニエスタに目を奪われていた。いつものようにプレーしておらず、彼を見てしまっていた」と話すほどの異次元なプレーの数々が神戸にACL制覇という希望を灯し始めた。
この大会への想い入れの強さは先発出場が多いことからも理解できる。初戦に続き、MD2の水原三星(韓国)戦も先発でピッチに立ち、フル出場でウノゼロ勝利に貢献。この後、大会は新型コロナウイルス感染症拡大により中断されてしまうが、11月下旬の再開に向けてコンディションを上げ、再開初戦の広州恒大(中国)戦では1ゴール1アシストの活躍でグループステージ突破へと導いた。
全8試合を戦った2020年大会では、5試合で先発出場を果たしている。残り3試合も中2日の過密日程を考慮した広州恒大との再戦での先発回避や負傷の影響による途中出場と欠場だった。出場できる試合でほぼ先発してきたことは、それだけACLへの思い入れが強い証拠だ。
それを象徴したのが準々決勝の水原三星戦だった。ラウンド16(上海上港戦)で負傷していたイニエスタは、万全ではない中でベンチ入りを志願。延長戦にもつれる死闘となった一戦で、延長後半の113分から出場すると、PK戦では最初のキッカーを務め、しっかりとゴールを決めてキャプテンの重責を果たしている。この気持ちの入ったプレーの甲斐もあって7-6でPK戦を制して準決勝に駒を進めるが、このPK戦で負傷していた右足をさらに悪化させてしまう。
アジア制覇の思いは神戸と共に
(C)J.LEAGUE
後日、故郷のバルセロナに戻って選手生命をかけた大手術を行った。幸いにも手術は無事に成功したが、しばらくは車椅子や松葉杖での生活が続いた。数ヶ月におよぶ地道なリハビリを乗り越え、ようやく復帰したのは2021年5月1日のJ1第12節・サンフレッチェ広島戦。ACL準々決勝の水原三星戦から142日ぶりにピッチへと帰ってきた。
試合後、ミックスゾーンで柔らかい表情を浮かべて囲み取材に応じたイニエスタは、「本当に幸せな気持ちです。またチームメイトとともにピッチでプレーできることがうれしいですし、長い厳しいリハビリをしてこなければいけなかったので、やっとその努力が実ったかなという気持ちです」と復帰への喜びを語っている。
昨シーズンはJ1リーグで躍進を続けてクラブ史上最高の3位フィニッシュ。再びアジアへの挑戦権を得ることになった。直近のJ1リーグ第25節・北海道コンサドーレ札幌戦を欠場しているイニエスタは、ノックアウトステージに出るかどうかはわからない。出場できれば、足掛け5年の思いを再びピッチでぶつけるだろう。もし欠場となっても、彼のアジア制覇への想いは常に神戸とともにある。
文・白井 邦彦
1974年、滋賀県出身。滋賀と神戸を中心にフリーライターとして活動中。2011年からJリーグ公認ファンサイト「J’s Goal」(現Js LINK)にてヴィッセル神戸を担当。クラブ公式HPやサッカーダイジェストなどでも執筆中。
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