まず、前提として今回のカナダ代表戦は結果が必要な試合ではなかった。日本代表にとって、FIFAワールドカップ(W杯)カタール2022の幕開けを告げる初戦のドイツ代表戦まで残り6日ということを考えると、自分たちの手札を全て晒すことはできない。ここから大きくシステムや戦い方を変えることもできないため、コンディションの整っていない選手や負傷者の穴埋めとして期待される選手のパフォーマンスを見極めるのが、試合の大きな焦点となった。
結果は、いささか酷な形での敗戦となった。スコアよりも内容が重視される試合だったのは間違いないが、終了間際の失点により印象の悪い終わり方になったことは否めない。セットプレーで失点を喫してしまったことを含めても、本大会に向けてこの敗戦は教訓にしなければいけないだろう。
ただ、当初の目的としてあったコンディションチェックのところでは、プラスな面も多かったと言える。怪我から復帰したばかりのFW浅野拓磨、MF田中碧、DF板倉滉が、自らの特徴を示すようなプレーを披露。FW相馬勇紀やFW上田綺世といった選手たちについても、本大会での起用法をしっかり模索することができた。
そのなかでも、特に存在感を示していたのがMF柴崎岳だ。
脳震盪の復帰プロトコルを行っているMF遠藤航と左足ふくらはぎの違和感を抱えるMF守田英正が、カタール入りした後から別メニューで調整中。最悪の場合、主力ボランチ二人がピッチに立てない可能性もある。そういった状況もあって、カナダ代表戦でピッチに立った柴崎と田中には、その二人の座を脅かすようなパフォーマンスが求められていた。
カナダ代表との試合を振り返ると、試合開始から田中とのバランスを巧みに取り続ける柴崎の姿があった。「(田中は)ある程度、ボールを受ける場所を探して活発に動くタイプなので、そこら辺は自由に動かしてあげて自分は中央に陣取ってバランスを見るようにしていました」とは、柴崎の言葉。自分は後方にどっしりと構え、田中をうまく前に押し出すことで攻守の循環を良くしようと働きかけた。
また、8分に相馬の得点をアシストしたように、柴崎は試合をとおしてパスで違いを示した。ふわりとしたボールで相手の背後を突いたかと思えば、ズバッと鋭い縦パスを配球。終盤にはDF山根視来の絶好機を演出するスルーパスで観ている者を唸らせた。
「自分が出たら、それができないといけないというか、それが求められていること。スタメンで出ても、途中から出ても、攻撃のスタイルで得点を生み出すところは自分自身もっと求めていくべきものだと思います」
もちろん、全てが良かったわけではない。ボールの奪いどころを決める作業や取りきりたいところでのロストは課題として残った。本人も「ポジティブでもネガティブでもないです。改善するところはして、良くなかったところはなぜ良くなかったのか見ていく必要があると思います」と話すように、主力二人を脅かすほどの出来だったかと言われれば疑問が残る。
ただ、遠藤と守田の負傷を考えた時、柴崎が十分戦力としてやれることを示したのはチームにとって大きなプラスだ。ここ最近、もう一つ内容が伴ってこなかったなかで、カナダ代表戦で見せたプレーは確かに前向きなものだった。
非常に重要な初戦のドイツ代表戦まで、もはや残された時間は少ない。ボランチ起用の状況が最後の最後まで分からないからこそ、この日、柴崎が証明したパフォーマンスが価値あるものだったことは間違いない。
文・林遼平
埼玉県出身の1987年生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている。