グループステージ突破に向けた大一番を前に、一人の男に熱視線が注がれる。
ここまで2試合、三笘薫はピッチ上で確かな違いを示してきた。ドイツ戦では途中出場でピッチに立つと、日本代表では初となるWBでプレー。低い位置から長い距離をドリブルで運び、相手を引き寄せては巧みにパスを配球した。1点目につながるプレーなど攻撃面で存在感を見せれば、守備でも中に絞りながら相手の攻撃をカットするようなシーンも。大舞台での驚きの采配となったが、ユニオン・サン=ジロワーズでの経験をしっかりと表現してみせた。
コスタリカ戦は結果につながることはなかったが、鋭い仕掛けから何度もチャンスメイク。この2試合を振り返っても、対峙する相手はドリブル突破を防ぐために縦を切り、時間があれば二人で止めにかかりにくるなど、プレミアリーグで活躍する男に対して明らかに警戒している様子が見てとれる。それほどまでに、今の三笘は対戦相手すら恐れる存在となっているのだ。
ただ、今回の相手はグループで最も強いとされているスペインだ。勝たなければいけない試合だからこそより結果が求められるが、そう簡単に自由を与えてくれるような相手ではない。
「ドイツに勝ちましたけど、コスタリカに負けて、自分たちの現在地がどういうところかを測る上でも絶好の相手だと思う。ここで勝てないと上に行けないのは素直に感じているので、素晴らしい相手と真剣勝負ができることを楽しみにしつつ、ここで勝つことで日本のサッカーのレベルを上げていきたい」
特に三笘が対峙するであろう右サイドバックには、ダニエル・ガルバハルやセサル・アスピリクエタが入る可能性が高い。どちらも「世界的に見てもなかなかいない選手」と警戒を示すように、ハードなバトルが待っていることだろう。
「全てのクオリティが高い選手だなと。だけど、自分の特徴を出せればチャンスはあると思いますし、駆け引きしながら、周りと連携しながら、コスタリカ戦のような形で何回か仕掛けられればとイメージしてます。あとは、そういったところでゴールにつなげれるプレーをしないといけないと思います」
今回もチームのプランとして無失点の状況を長くしたいため、守備的な思考のもとでゲームに入ることが予想される。そうなると、三笘はこれまでと同様にスーパーサブとしての活躍が求められることになる。“戦術・三笘”という称され方をされてしまうところがあるが、今回もそういった立ち位置で試合に臨むことになるはずだ。だからこそ、強い責任を持って試合に挑もうとしている。
「やはり次の試合もボールが持てない分、周りにサポートがいない状況やカウンターで運ぶしかない状況があると思う。そこでキープしてファウルをもらったり、運びきってCKを得たり、そういうずる賢さが必要だと思います。そこはここまでの試合で足りなかったと思ってますし、どんな状況でも失ってはいけない。チームのボールだとしっかり意識してプレーしたいと思います」
まだまだ本当の三笘薫をW杯の舞台では見せることができていない。グループステージ突破がかかるこの状況で、その姿を披露することができるか。日本の最大の武器が輝く瞬間を楽しみにしている。
文・ 林遼平
埼玉県出身の1987年生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている。