6月にパリ五輪予選を兼ねたU-21欧州選手権(23歳以下の大会)を控えているだけに、U-21ドイツ代表も、U-21ベルギー代表も(いずれも23歳以下のチーム)、親善試合らしからぬ真剣モードだった。
大岩剛監督率いるU-22日本代表は昨年3月のチーム立ち上げ以降、前線からのプレッシングと後方からのビルドアップに取り組んできた。今遠征ではその精度を磨きつつ、「あらゆる面でのスピードアップ」(大岩監督)をテーマに掲げていた。
ところが、特に相手がレギュラーメンバーで臨んだ前半は2戦とも、なかなかボールが奪えない上にボールを運ばせてもらえず、手も足も出ない状態だった。
それでもドイツ戦では、デュエルの部分でしっかり食らい付いた。「本質の部分で臆することなくやろうぜ、と送り出した」と指揮官は明かす。そのメンタリティとデュエルが、点差を離されずに一時は逆転に成功した要因の一つだろう。
ベルギー戦では2点のビハインドで迎えた後半、相手に合わせてシステムを変えながら戦う対応力を示した。「後半は自分たちが勢いをもってやれた」と振り返ったのは、横浜F・マリノスのボランチ、藤田譲瑠チマである。最後は突き放されたものの、一時は2点差を追いついてみせた。
結果はドイツと2-2、ベルギーとは2-3。連戦を終えたあと、指揮官は「(やりたいことが出せたのは)半分ぐらい。当然出させてくれないですよね」と振り返ったが、このタイミングで敵地に赴いたからこそ得られた経験だろう。
欧州の地で目立った若き才能
(C)GettyImages
チームとしても個人としても課題を突きつけられた遠征となる中、強豪相手に自身のパフォーマンスを出せた選手も少なくない。
ドイツ戦で魅せたのは、京都サンガF.C.に所属するボランチの川﨑颯太と右ウイングの山田楓喜だ。
2戦続けてアンカーを担った川﨑の球際での強さは、頼もしい限り。「出足が段違いに速くないと、自分が選ばれている意味はない」と本人が語ったように、特にドイツ戦では深いタックルを見舞ったり、鋭いアプローチで相手の自由を奪ったりして持ち味を見せた。
頼もしいと言えば、山田もしかり。かつてはピッチ中央を主戦場とするパサーのイメージがあったが、曺貴裁監督の指導を受けて力強いウインガーへと成長を遂げている。ドイツ戦でも中央へとカットインして自慢の左足を強振。鋭いシュートを見舞ったが、それ以上に手応えを得たものがあるようだ。
「球際やサッカーの本質のところで、自信を持って入った。自分がボールを持ったとき、どれだけ身体をぶつけられてもキープできた。そこは(アカデミーから)トップに上がって3年間で身に付けた部分です」
ガンバ大阪のMF山本理仁もパフォーマンスが光った一人。大岩ジャパンには少ないプレーメーカータイプで、ポジショニングやチームにリズムをもたらす散らしのパス、攻撃を加速させる楔のパスで存在感を発揮した。
スペイン人のダニエル・ポヤトス新監督を迎えたG大阪では途中出場を重ねながら、3月18日の北海道コンサドーレ札幌戦で今季のリーグ戦初先発を飾ったばかり。「自分は代表のように周りと近い距離でプレーするほうがやりやすいんですけど、ガンバでは離れた立ち位置が求められる。その塩梅が今の課題で、探り探りやっているんですけど、慣れればもっとやれる」と、自チームでのポジション奪取を誓う。
センターバックではFC東京のDF木村誠二のプレーが目を引いた。ドイツ戦で屈強なアタッカーと渡り合った身体能力もさることながら、ベルギー戦でボールを持ち運んだ推進力とチャレンジ精神もよかった。
FC東京のセンターバックには元日本代表のDF森重真人、DF木本恭生、DFエンリケ・トレヴィザンと実力者が揃うが、「森重さん、木本さんは上手いですけど、すごく差を感じているわけではないし、身体能力では僕のほうが上。エンリケにだって身体能力で負けていません。J1でもやれるとずっと思いながら、トレーニングを積んでいます」と力強く言い切った。
大岩ジャパンのエース、柏レイソルのFW細谷真大は先発出場したドイツ戦で1ゴールをマークし、期待に応えてみせた。明らかに体が大きくなっており、「体重を増やしました。身長がない分、そういうところで補っていかないとダメだと思って。スピードを落とさないようにやっています」と肉体改造にも余念がない。
今季のJ1リーグでもすでに2ゴールをマーク。ただし、そのゴールがいずれもチームの勝利に繋がっていない。「点を決めても引き分けに終わっているので。まずは勝利のために動くのが大前提ですけど、自分が点を取ってチームを勝たせるところは本当にこだわってやっている」とストライカーとしての矜持を覗かせた。
今遠征でのアピールはならなかったが、個人的に注目したいのが、湘南ベルマーレのMF平岡大陽とサガン鳥栖のFW西川潤だ。
ベルギー戦で左ウイングとして先発起用された平岡は、不慣れなポジションだったこと、チーム全体が低調な出来だったことから“らしさ”を出せなかったが、普段はインサイドハーフとしてプレー。今季はサガン鳥栖戦、川崎フロンターレ戦でゴールをマークしていて、ゴール前への鋭い飛び出しとそこに至るハードワークは必見だろう。
桐光学園高3年次の19年のU-17ワールドカップ、U-20ワールドカップに出場した西川はセレッソ大阪でプロの壁にぶつかったものの、期限付き移籍した鳥栖で今季は先発出場が続いている。攻撃のアイデアや左足のキック精度は世代屈指。今遠征では2試合とも途中出場に終わったが、「鳥栖で足りなかったものを身に付けさせてもらっている」と現状には前向きだ。プレー強度が高まりつつあるレフティの、代表チームでの巻き返しに期待したい。
今遠征中に山田楓喜が「もっともっと自分を出せるなって自信になったし、まだまだいけるやん俺っていう気持ちになっている」と自身の可能性を語ったが、その言葉は同世代の選手の思いを代弁しているはずだ。俺たちのポテンシャルはこんなものじゃない――。インターナショナルマッチウイークが明け、3月31日に再開するJリーグでの彼らのプレーが楽しみだ。
文・飯尾篤史
1975年生まれ。東京都出身。明治大学を卒業後、週刊サッカーダイジェストを経て2012年からフリーランスに。10年、14年、18年W杯、16年リオ五輪などを現地で取材。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』、『残心 中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』などがある。
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