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日本&アジア発、欧州でのマルチクラブオーナーシップ。ACAFPが見据えるフットボールビジネスの可能性

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日本&アジア発、欧州でのマルチクラブオーナーシップ。ACAFPが見据えるフットボールビジネスの可能性DAZN
【欧州・海外サッカーニュース】東フランダース地域のデインズ市をホームタウンとするフットボールクラブ、デインズ。MF宮本優太が所属しているクラブの全5回特集、その第1回目は2022年2月にデインズの経営権を買収したACAフットボール・パートナーズ(ACAFP)を率いる小野寛幸CEOを直撃したインタビュー内容をお届けする。「アジア発のマルチクラブ・オーナーシップ(MCO)」を掲げてフットボールクラブ経営に乗り出したACAFPの挑戦に迫る。

取材・文=舩木 渉
写真=青山 知雄, KMSK Deinze, Torremolinos CF

「アジアのファンをヨーロッパにつなぐことができる」

「おそらくフットボールは最も市場規模が大きく、世界中が熱狂するスポーツです。みんなが見たいし、夢を追いかけたい。そうやって人が集まったところにちゃんとビジネスを作れば、投資としてのフットボールは成り立つと思って挑戦しています」

そう語るのは、ACAフットボール・パートナーズ(ACAFP)を率いる小野寛幸CEOだ。世界的な投資ファンドであるACAグループの傘下で、シンガポールを拠点として2021年7月に設立されたACAFPは、2022年2月にベルギー2部リーグのデインズの経営権を買収。本格的に「フットボールビジネス」の世界に参入した。

フットボール界は「赤字垂れ流し」というのが半ば当たり前のようになっており、あのバルセロナですら巨額の赤字を抱えて存続が危ぶまれたほど。世界中で経営難によって解散を余儀なくされたり、経営権を外国資本に買収されたりする例は枚挙にいとまがない。

そんな中、ACAFPは「アジア発のマルチクラブ・オーナーシップ(MCO)」を掲げてフットボールクラブ経営に乗り出した。MCOとは、1つのオーナーが国やリーグなどをまたいで複数のクラブを保有し、それぞれを戦略的に連携させて経営面の効率化や競技面での相乗効果、グローバルなビジネス展開などを狙う仕組みのことだ。

マンチェスター・シティを筆頭に世界中にネットワークを張り巡らせるシティ・フットボール・グループ(CFG)や、ライプツィヒやザルツブルクなど育成面への投資に定評のあるレッドブル・グループなどがMCOの成功例として挙げられることが多い。

小野が率いるACAFPはこれまでの成功事例からいい部分を吸収しつつ、「アジア発」として独自性も出しながらMCOの新たな可能性を切り拓いていこうとしている。その出発点となるのがデインズであり、2023年2月にはスペイン4部リーグ相当のトレモリーノスCFを買収するなど、欧州で着々とMCOの輪を広げつつある。

Torremolinos-CF(C)Torremolinos CF

[トレモリーノスCF (C)Torremolinos CF]

「フットボールクラブ経営は捉え方によってはベンチャー投資に近いと考えています。チーム強化に資金を投じると1、2年目は短期的に赤字が大きく出るので、金銭的に難しくなって放り出してしまう事例もあるかと思います。だからこそ最初にグッと落ちて、数年かけて上がっていくという考え方で我慢ができるか、必要なお金を払い続けられる胆力と計画がないと、クラブを保有することはできません」

「実際に自分たちが関わってみて、『クラブ経営は儲からない』、『赤字垂れ流しだ』と言われがちなのは、早めに判断して辞めてしまうからだということに気づきました。確かに現在の状況だけを切り取ると赤字ですし、キツいし、辞めたくなります。でも、自分たちにコンセプトや長期的な計画があるからこそ、今は痛みを受け入れる時期。将来のために何もしていないわけではありません。まずはちゃんと組織を作って、育てていくことが大事だと思っています」

ACAFPには「アジア発」という強みがある。フットボールクラブ経営は「ローカル」のファン層を厚くするだけでなく、世界に向けて「グローバル」にビジネスチャンスを拡大していけるポテンシャルを持つ。

欧州の大多数のクラブがアジア市場を開拓しきれていない中、小野は「私たちはアジアのファンをヨーロッパにつなぐことができる」と胸を張る。

「私たちはファンの重要性をしっかり理解しようと考えていますし、ローカルのファンだけでなくグローバルのファンにも、もっと注目してもらいたい。我々にはもともと投資事業を展開してきた東南アジアに強みがあって、そこで耳目を集めるためにも、東南アジアで育った若い選手たちが将来的に母国の代表選手として活躍するための場をどんどん用意したいと思っています」

デインズにはすでにアジアの若き才能が集まりつつある。浦和レッズから期限付き移籍で在籍しているMF宮本優太をはじめ、18歳にしてインドネシア代表で10試合以上の出場経験を持つMFマルセリーノ・フェルディナン、そしてシンガポールサッカー界のレジェンドを父に持つ20歳のシンガポール代表FWイルハン・ファンディといった金の卵たちがデインズで欧州サッカー界での第一歩を踏み出している。

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[宮本優太〔左〕、マルセリーノ・フェルディナン〔右〕 (C)KMSK Deinze]

日本人がクラブを経営しているからといって、日本人選手だけの獲得にこだわるつもりはない。「逆にそこにこだわってはダメだと思っています」と小野は言う。

「アジアの力を借りるけど、日本に限らず、東南アジアにもいい選手はいる。僕らはちゃんとスカウティングをして、評価をして、この場にふさわしい選手が来るべきだと考えています。欧州のクラブの多くにはアジア圏での情報網と判断基準がないですが、私たちはアジアを見ているので、そこにいる優秀な才能を認識して、評価できるんです」

「マルセリーノやイルハンのような東南アジアの代表クラスの選手たちは、もっと欧州に来るべきです。でも、彼らが仮にアジア諸国のリーグでプレーしていたら欧州のクラブは獲得に動かない。逆説的ですが、欧州のトップクラブもスカウトも、彼らがベルギー2部リーグやスペイン4部リーグでちゃんと出場機会を得ていたら、おそらく獲得しにくると思います。人は自分の目に見えるものしか見ないという傾向があるので、私たちは欧州の人々の目が届くところにアジアの有望な選手を送り込もうとしています」

「私たちの挑戦を他人事ではなく、ぜひ自分事として見ていただきたい」

アジアから獲得した選手たちの活躍を欧州にとどまらず母国のファンへと届けるためのプラットフォームも自前で構築した。「Web 3.0」のコンセプトを実装した『Playsia TV』は、DAZNやNetflixなど現在主流になっているサブスクリプション型ではなく、動画の視聴時間や回数などに応じて視聴者が報酬を得られるゲーム的な要素を組み込んでいる。

「大きな挑戦をするためには、自前のプラットフォームを持って、そこに人を集めて収益を安定させることを目指したいと思っています。東南アジアでは、サブスクリプション型のサービスにお金を払う感覚がまだ非常に薄いです。でも、ファン層を厚くしたい。そこで私たちは『Playsia  TV』に動画を見たら仮想通貨を稼げるような仕組みを取り込んで、Web3.0的な考えを実験しています。きっかけは何でもいいから毎日5分間でも動画を見るようになり、そこで自国のスター選手の活躍を見て、盛り上がれるようなメディアを作ろうとしています」

デインズではマルセリーノらアジア出身の若手選手がチャンスをつかみ、知名度を高めつつある。一方でACAFPが目指すMCOのネットワーク構築も、ベルギー、スペインと続いて第3、第4のクラブを迎え入れる準備が着々と進んでいる。デインズとしては将来的なベルギー1部昇格を見据えた新スタジアム建設が困難に直面するなど課題はたくさんあるが、長期的な視点に立って地道にクラブを育てていくつもりだ。

では、デインズを中心としたMCOを今後どのような形で発展させていこうとしているのだろうか。小野は欧州とアジア、欧州と日本をつないでフットボール界に大きなうねりを生み出そうとしている。

「育成ノウハウの共有やアカデミーの連携、選手の情報交換、スカウト網の体系化はもちろん、将来的にはフットボールラボみたいなものも作りたい。私たちは『フットボールクラブ経営』ではなく『フットボールビジネス』と言っている通り、クラブ経営だけに注力するのではなく、クラブオーナーシップを活用してもっと大きな枠組みでフットボールに関わっていきたいと考えています」

「私はみなさんと一緒に日本代表がワールドカップで優勝するところを見たいんです。フットボールに関わるあらゆる観点から日本のレベルを一緒に上げていきたいと思っています。欧州5大リーグに定着している選手たちが多くなって、カタールワールドカップではドイツ代表とスペイン代表に引けを取らなくなったことを示してくれました」

「次の段階に進むには、ファンや指導者、経営人材も日本の外に出て、『違い』を学んで、Jリーグや日本代表を強くすることが必要です。欧州でフットボールビジネスに取り組む私たちのような存在がもっと増えると、世界一になるまでに必要な時間を短縮できるのではないでしょうか」

「なので、私たちの挑戦を他人事ではなく、ぜひ自分事として見ていただきたいです。より多くの人がチャレンジできる場を広げていこうと思っていますし、一緒にチャレンジして欲しい。Jリーグと海外に『優劣』があるわけではなく、そこにあるのは『違い』です。私たちはアジアの選手たちに、その『違い』を知るための機会を提供します」

「日本人選手も、どんどん売り込んできていただいて構いません。ここにはチャンスがあります。そのうえでスペイン4部リーグでもベルギー2部リーグでも、実力を発揮して自分の力を証明できるのであれば、ステップアップの可能性が広がる。ぜひ勇気を持って挑戦しにきてほしいと思っています」

ACAFP-Ono-Hiroyuki-Profile(C)青山知雄

[小野寛幸CEO (C)青山知雄]

小野 寛幸(おの ひろゆき)

ACAフットボール・パートナーズ CEO。慶應義塾大学卒業後、大和証券エスエムビーシー株式会社(現:大和証券株式会社)入社、M&Aや資本調達アドバイザリー業務に従事。米系投資銀行を経て2011年ACA株式会社入社。2013年、アジア投資本格化の際にACA Investments Pte Ltdへ転籍した。2021年、ACAフットボール・パートナーズを起業。

ACA Football Partners について

シンガポールを拠点とし、アジア発のマルチクラブオーナーシップを企図するサッカー事業会社で、投資ファンドの組成・運用を中核事業とするACAグループの一員。「スポーツの潜在価値を引き出す」をミッションに掲げ、2022年よりベルギー2部リーグ所属のデインズをコアクラブに据えて本格的な活動を開始。2023年2月からはスペインセグンダ・ディビジョンRFEF(4部リーグ相当)に所属するトレモリーノスCFも傘下に入った。またWeb3のコンセプトを取り入れた独自の動画ストリーミングサービス「PlaysiaTV」も運用し、関連クラブや世界各国で撮影したドキュメンタリーや対談番組など、オリジナルコンテンツをグローバルに配信中。

ACAFP

https://acafp.com/

PlaysiaTV

https://playsiatv.com/ja

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