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神戸からSTVV、そしてACAFPへ。ローカルとグローバルの両輪でデインズからMCOの成功を目指す

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神戸からSTVV、そしてACAFPへ。ローカルとグローバルの両輪でデインズからMCOの成功を目指すDAZN
【欧州・海外サッカーニュース】東フランダース地域のデインズ市をホームタウンとするフットボールクラブ、KMSKデインズの全5回特集。第5回目はACAFPの最高執行責任者でありKMSKデインズの最高戦略最高戦略責任者(取材当時)を務める飯塚晃央氏のインタビュー内容をお届けする。アジア発の「マルチ・クラブ・オーナーシップ(MCO)」という形で、新境地を開拓しようとするフットボールビジネスに迫る。

取材・文=舩木 渉
写真=KMSK Deinze

フットボールビジネスの新境地開拓へ

シンガポールに拠点を置くACAフットボールパートナーズ(ACAFP)は、欧州で複数のクラブの経営権を取得した。そして、アジア発の「マルチ・クラブ・オーナーシップ(MCO)」という形で、フットボールビジネスの新境地を開拓しようとしている。

そのACAFPが最初に買収したのは、ベルギー2部のKMSKデインズだった。1926年に創設された約100年の歴史を持つクラブがMCOの中核となり、着実にネットワークを広げている。では、なぜデインズが最初のクラブだったのだろうか。

「我々が買収交渉をしていく中で、30クラブほどあった候補の中から最後にデインズを選びました。決め手はベルギーリーグに大きな魅力があったのと、デインズがものすごく大きな野心を持ったクラブであったことでした。

当時のデインズはアマチュアの3部リーグから2020年にプロの2部リーグに昇格したばかりながら、さらに上を目指しており、かつ新スタジアムの建設計画があります。フットボールを通じて、クラブ自体や地域を成長させたいという野心をすごく感じられるクラブだったところが、我々の考える『スポーツの価値を解放してフットボール界に還元していく』というミッションに合致したんです」

そう語るのはACAFPのCOO(最高執行責任者)でありKMSKデインズのCSO(最高戦略最高戦略責任者/取材当時)を務める飯塚晃央だ。楽天グループ株式会社がヴィッセル神戸の運営会社を買収した際に総務経理マネージャーとして出向し、2018年12月からはDMMグループが経営権を取得していたシント=トロイデンVVのCFO(最高財務責任者)に就任。日本と欧州の両方で経営者が変わったばかりのプロクラブでの勤務経験を持っている人物である。

「我々の戦略を導入しやすい環境だった」

Deinze-staff(C)KMSK Deinze

ただ、今回のデインズは過去に勤務したクラブとは事情が違っていたという。

「私自身が買収前からビジネスの方向性や事業計画を策定する段階から関われていて、まずそこが過去の2クラブとは違います。逆に、過去の買収直後のクラブ経験を活かすことができる環境もデインズだったのではないかと思っています。

また、規模が大きすぎたり、すでに組織が出来上がっていたりすると、環境をガラッと変えるためには非常に力が必要ですし、難しいことが多いんですけれども、デインズはある意味まっさらな状態だったんです。要は本格的にプロ化していく段階にあるクラブで、関わっている人の数もそれほど多くなく、我々の戦略を導入しやすい環境でした」

とはいえ新しい経営陣が欧州ではなく日本から突然やってきて、いきなり信頼をつかめるわけではない。既存のスタッフや地元のステークホルダーからは懐疑的な目線を向けられることもあった。それでもクラブを成長させるためには、大胆な改革が必要なのは間違いない。飯塚はすぐに動いた。

まず大事にしたのは「コミュニケーション」だ。それまでクラブに関わってきた人々と膝を突き合わせて1対1で話し合いを行った。その中でACAFPのプロジェクトに対する疑問や不安を解消できるよう丁寧に説明したうえで、各個人の業務フローなども整理していった。

そして、飯塚はクラブ全体の業務改善にも取り組んだ。主要なスタッフが全員参加する定例ミーティングを新たに設け、スポーツ部門やビジネス部門などの垣根を取り払った上で、各分野のタスク進捗状況や情報を一括で整理・共有できるようにした。複数のビジネスツールも導入し、ITを用いたコミュニケーションの活性化も図った。

デインズでは一般企業では当たり前とも言える情報共有の仕組みが整っておらず、クラブ内で各部署の連携が取りきれていなかったのである。プロクラブとはいえ、内部の組織は脆弱だった。飯塚は「一つのプロフェッショナルな企業体として歩み始めたばかりだからこそ足りていなかった部分が多かったので、基本的なものからインストールしていきました」と語る。

「部署ごとのタスクの進捗をしっかりとリストに落とし込んで、それをみんなで見ながら情報を共有していくプロセスを導入していったことが大きかったと思います。我々が経営参画するまではそういったプロセスがなく、みんながバラバラに仕事をしていたので、まずはそれぞれがどういう動きをしているのか、どういうことをやっているのかという情報共有から始めたわけです」

やるべきことをしっかりと説明して、納得した上で動いてもらう。そうした丁寧なコミュニケーションを重ねたことで、新経営陣への信頼は徐々に厚くなっていった。「新しいことが始まり、それについていけないということでクラブを離れてしまった方々もいました。ところが丁寧にコミュニケーションを取って関係性を作っていったら、『透明性の高いコミュニケーションをしてくれるのは非常に素晴らしいことで信頼できる』と、一度離れてしまった人がクラブに戻ってきたこともあります」と飯塚は明かす。

重要なデータマネジメント

Deinze-Fan(C)KMSK Deinze

コミュニケーションの活性化とITツールの導入は、フットボール面にも好影響があった。MCOの根幹とも言える複数クラブのネットワークを最大限に活用するためには、スカウティングや選手データなどを共有することが重要になる。ソフトウェアを用いたデータの集約は、将来に向けてMCOを拡大していくにあたっての貴重な財産となる。

「MCO最大のメリットは、選手の価値を効率よく高められることです。そのために重要なのはデータマネジメントになります。大きく分けるとスカウティングのデータ、選手のフィジカルデータ、そして戦術データの3領域になりますが、その中でも最も重要なのはスカウティングのデータです。

我々のスカウティング部門では、ソフトウェアを用いて各国で得た選手の情報をフィルタリングし、実際に獲得するところまで絞り込むプロセスを統一しています。今後MCOを構成するクラブが増えていくと、ネットワーク内で扱う情報の量も増えていくわけですが、それを集約して的確に整理し、我々のプロジェクトにふさわしい選手を効率よく見つけていく必要があります」

特にMCOの基幹クラブであるデインズが戦うベルギーリーグでは、経営規模を大きくしていくにあたって移籍金収入が重要になる。移籍金収入を最大化できる貴重なリーグであり、広告収入や国際放映権収入、入場料収入よりも相対的な収入額が大きいため、経営が育成した若手選手を高額の移籍金で他国のクラブに売って得られる収入モデルが特徴的だ。

「自分たちのプロファイルに合う選手を効率よく、高いお金を払わず獲ってきて、その選手たちが自分たちの提供するトレーニング環境で成長することで競争力が上がり、競争力が上がることによって成績が向上します。そして、結果が出ることによってさらに移籍金収益や放映権収益が伸びていく。それを一つのクラブだけでやろうとすると時間も労力も要しますが、特徴の異なる複数のクラブを組み合わせることによって選手の移動をスムーズにでき、それぞれに適切な環境を提供したうえで、より効率よく組織全体を成長させられると考えています」

見据える地域の人々との絆を深めるための活動

Deinze-sponser(C)KMSK Deinze

こうしたMCOの利点をフル活用したフットボール面での成長を志すだけでなく、同時に将来を見据えたビジネス面での準備も進んでいる。デインズには地域コミュニティの中心としての価値をより高めていくためにも重要な新スタジアムの建設計画があり、早ければ2024年夏にも着工となる見込みだ。

「地元の象徴であることがクラブの存在意義です。クラブの活躍や地域に根ざした活動が地元の方々の勇気や誇りになっていくと思います。そのうえで新しい現代的なスタジアムがデインズにできるとクラブの収益増加につながりますので、成長をさらに加速させるのみならず、地元でのビジネスの基盤を強化でき、地域に貢献する活動の基点にすることもできます」

現在デインズが使用している本拠地ダコタ・アリーナは座席が850人分しかなく、1部リーグのプロライセンス取得条件を満たすためには5000席まで拡張しなければならない。そうした状況を改善するためにクラブでは仮設バックスタンドの建設を進めていた。しかし、完成間近でベルギー事業家の反対に遭って裁判所から工事差し止め処分を言い渡されてしまい、2022-23シーズン中は使用できず歯がゆい想いもした。このベルギー事業家は現市長との対立が長年噂されており、デインズ中の建設プロジェクトに反対している人物だ。飯塚はプロライセンス更新と新スタジアム完成前に昇格を果たした場合の代替会場を確保するために動き、2022年に破産したロイヤル・エクセル・ムスクロンの元本拠地スタッド・ル・カノンニエの使用許可を取りつけた。

フットボール面ではACAFPのプロジェクト立ち上げ当初から中心メンバーとして関わり、デインズの新監督にもなった白石尚久氏をシーズン前半戦のうちに解任。苦渋の決断ではあったが、マーク・グロジャン新監督のもとで立ち直ったチームは3部リーグ降格の回避に成功したどころか、後半戦の勝ち点はリーグ内で3番目だった。飯塚は序盤のつまずきによって生まれた不信感を払拭するためのクラブ内外とのコミュニケーションにも時間を費やし、丁寧に信頼を取り戻してクラブ運営を再び軌道に乗せていった。

こうしてピッチ内外での問題を一つひとつ解決し、ACAFPの戦略を落とし込みながらデインズを改革してきた飯塚は、今年5月にセルジ・ビーレンス氏からクラブCEOを引き継ぐことに決まった。そして、志新たにこんな青写真を描いている。

「今季からJリーグでいうホームタウン活動のような『コミュニティワーク』というものに組織として積極的に取り組んでいます。選手たちが障害者施設を訪問させていただいたり、地元の学校を回ったりすることで地域の方々に我々の存在を知ってもらいながら、ともに歩んでいこうという機運を作るための活動です。

クラブが地元の皆さんの集う場所になることが大切で、存在自体が地域の誇りになると、ここで過ごす時間が多くの人々の生活を豊かにしていくことにつながっていくと思うんです。地域の皆さんとの絆を深めるための活動はこれからも続けていきたいですし、コミュニティの中心にデインズというクラブがあるような未来を作りたいと思っています。

また、デインズは2026年にクラブ創立100周年を迎えます。そのシーズンを1部リーグで戦い、さらにクラブ史上初めてのトップリーグ参戦を新スタジアムで地元の皆さんと祝えたら歴史的快挙になります。そこに日本人を始めはじめとしたアジア出身の選手たちがいて、彼らの活躍を母国にも伝えられたら素晴らしいことだと思っています。

こういったストーリーが実現できると、アジアにおける我々の認知度向上や市場拡大にもつながります」

そしてACAFPは先日、イングランド・EFLリーグ1に所属するチャールトン・アスレティックへの資本参加を発表。プレミアリーグに在籍したことのある古豪を加え、MCO事業がますます加速する。

「MCO3番目のクラブとしてイングランドの名門に資本参加できることは、私たちにとっても大きな一歩です。グループクラブに所属する選手たち、これから私たちが獲得する選手に向けて新たなキャリアパスを提供できることが一番のポイントではないでしょうか。スカウトのネットワークやコーチング面でのデータ構築、コンテンツ制作など、多岐にわたって連携していく予定です」

いよいよ8月にはベルギー2部リーグの新シーズンがスタートする。

「KSMKデインズとしては、昇格を目指して全力で戦うシーズンとなります。フットボールビジネスには、ローカル(地元)とグローバル(世界)がある。片方だけでは成り立たず、やはりローカルとグローバルの両輪があって初めて成功できるものだと思っています。この両輪をいかに組み合わせて最適なバランスを作っていくのかが非常に難しいところですが、その壁を乗り越えてMCOの新たなロールモデルを作っていくことを目指しているのが、我々ACAFPプロジェクトなんです」

Deinze-pitch1(C)KMSK Deinze

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