長い、長いトンネルに迷い込んでいた。
試合を重ねるごとに、ゴールから遠ざかる日々が、1日、1日と増えていく。それと同時に周りからの雑音も大きくなった。聞きたくない声も耳に入ってくる。苦しまずにはいられなかった。
それでも、細谷真大は自分自身を信じた。不断の努力を重ねることが結果につながると。焦りがないと言えば嘘になる。ただ、現状をしっかりと受け止め、自分のできることに全力を注いだ。
「高校時代も得点を取れない時期はありましたけど、しっかりチームのために走ることはずっとやり続けていた。試合を重ねるたびに悔しい思いは強くなりましたけど、その中で自分はやり続けるしかないなと思っていました」
勝てばパリ五輪の出場権に王手がかかる準々決勝のカタール戦。2-2で迎えた延長前半11分、ついに細谷の努力が報われることになる。
「周りを見た時にウチ(内野航太郎)が準備してたので(この後に)代わるなというのは感じていた。心の中で、ここで終わったらサッカー人生が終わるなというのはありました」。
途中出場の荒木遼太郎がボールを持つと体が前へと動き出した。スルーパスに反応した細谷は、素晴らしいタッチで前を向き、右足を振るう。視線の先にはゴールへと吸い込まれるボールが見えた。
気持ちが昂らないわけがない。多くのサポーターが集うカタール側のスタンドに向け、細谷は両手を耳に当てるパフォーマンスを披露した。その意図として「チーム全体として(相手のサポーターを)黙らせたいという思いがあった」と説明した上で、周囲からの雑音に対する思いがあったことも否定しなかった。
「いろいろ言われてきているので、もちろん見返したいという気持ちも強くあった。それを含めてのパフォーマンスだったと思います」
(C)2024 Asian Football Confederation
1月のアジアカップ以降、なかなか結果が出ず、苦しみ続けてきた男に生まれた一発。それはカタールを破る貴重な決勝弾となり、エースの復活を宣言する一撃となった。
「今日、決めなかったら本当に自分の価値というところも下がると思いますし、本当にいろいろと苦しいシーズンだったので、自分の価値をまた今回証明できたのかなと。やはり自分の一番の考えは”チームのために”というのがある。その中で得点がついてくるというのは大岩さん(大岩剛監督)も言ってくれていたし、しっかりやり続けてよかったと思います」
このゴールを喜んでいるのは細谷自身だけではない。指揮官もそうだし、チームメイトもそうだ。主将を務める藤田譲瑠チマは、「自分としても嬉しい。やはりこういう大会だといろいろ言われてしまう機会が多い中で、自分は彼ができることを知っていますし、他の選手もできることを知っていた。いつも通りやっていればいつか取れるというのはわかっていたので、そんなに自分自身は心配していなかった。ここからまたどんどん点を取ってくれたらいいかなと思います」と、この瞬間を信じて待っていたと笑顔で明かした。
愚直に努力を続けた結果、待望のゴールが生まれた。得点が取れていない現実から逃げることなく、自分のできることを忠実に取り組んできたからこそ、その時がやってきた。
「自分を信じて、応援してくださる人がたくさんいたので、その人たちの分まで、今日は絶対に決めたいという気持ちもあった。しっかりその気持ちに応えられたかなと思います」
ここ数ヶ月、記者陣の前で難しい表情を浮かべることが多かった男が、ホッとしたような笑みを見せた。それは一歩前に進んだ証でもある。ただ、まだ終わったわけではない。これからより多くのゴールを奪ってチームを優勝に導く。その思いを細谷は胸に秘めている。
「もちろん今日の1点で終わらせることなく、3日間あるのでいい準備をしていきたい。1月のアジアカップで出来なかった優勝を自分たちならできると信じているので、しっかり優勝できるように次も頑張りたいと思います」。そう言って取材エリアを後にする男の背中は、いつもより少し大きく見えた。
文・林 遼平
1987年生まれ、埼玉県出身。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。
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