【コラム】スペインがEUROを制覇。「改善と競争をやめない」選手と深い戦術的アプローチに長けた指揮官が成し遂げた全勝優勝 ｜ EURO2024

約1カ月に渡る激闘の幕が閉じた。

開幕してから51試合目。決勝の舞台に立ったのはグループリーグから全勝を継続して決勝までたどり着いたスペインと、「退屈なサッカー」と揶揄されながらも不屈の精神で前回大会に続きファイナルまでやってきたイングランドだった。

試合は戦前予想されたようなスペインペースとはならなかった。イングランドがオランダ戦からシステムを変更。「4-4-2」のブロックを作り中央のスペースを閉めたことでスペインの攻撃を停滞させた。加えて、幅を使った攻撃でチャンスメイク。前半だけを見ればイングランドペースと捉えてもおかしくない展開だった。

だが、スペインは修正力でイングランドを上回る。前半を終え、後に大会MVPに輝くことになるロドリを負傷交代で失うというアクシデントに襲われたが、ここでルイス・デ・ラ・フエンテ監督はマルティン・スビメンディを投入してボランチを2枚にする形に変更。それと同時に両ワイドのポジショニングを外に張るだけでなく、インサイドに立つ回数を増やし、サイドバックを大外に張り出す戦術変更を加えたことでペースを握ることになる。結果、相手の修正が間に合わない状況下で、47分に中寄りで受けたラミン・ヤマルがドリブルからラストパス。これをニコ・ウィリアムズが冷静に沈め、先制点を奪うことになった。

その後、一度はコール・パーマーのゴールで追いつかれたが、最後も指揮官の采配がズバリ的中。86分、大会前に「明らかに実力不足」と元イングランド代表DFガリー・ネヴィル氏に酷評されていたマレク・ククレジャが果敢なオーバーラップを見せると、最後はグラウンダーでのダイレクトクロスを主将のアルバロ・モラタに代わって投入されたミケル・オヤルサバルが決め切って勝ち越し。これが決勝点となり、スペインが2012年以来となる4度目のEURO制覇を成し遂げるに至った。

デ・ラ・フエンテ監督に導かれて

スペインにとっては2022年のFIFAワールドカップカタール後の決断が大きな成功をもたらした。ルイス・エンリケ前監督が率いたカタールW杯では、グループリーグこそ突破したが決勝トーナメント1回戦でモロッコに敗戦。明確な失敗を経て、次にどういった方向性を示していくかが問われていた。

そこでスペインサッカー協会が白羽の矢を立てたのがデ・ラ・フエンテ監督である。クラブレベルでの実績はほとんどない。一方で、U-19やU-21スペイン代表を率いて欧州選手権を制覇し、東京五輪で銀メダルに導いた指揮官を選択したのだ。

就任当初、多くの人から懐疑的に見られていた指揮官は、結果で周囲を黙らせることに成功した。昨年のUEFAネーションズリーグを制すと、今回のEURO2024も制覇。アンダー世代のEUROも合わせ、3つの世代の欧州選手権を制した初の監督となった。

特に指揮官の色が出ていたのは、若い世代の監督を務めていた際に指導していた選手たちをそのままA代表でも起用していること。例えば東京五輪に出ていた選手を見ても、ダニ・オルモやペドリ、スビメンディ、ククレジャなど7人もの選手たちが今回の代表にメンバー入りしていた。

そういった事情もあってか選手たちからの信頼も厚かった。優勝後に胴上げされたことや試合が終わった後の選手たちとのやり取りを見てもいい関係性を保っていることがわかる。加えて、指揮官としての能力も高い。ベテランと若手をうまくモチベートさせながら、昔から指導していた選手が多い中で戦術面での浸透も早期に成し遂げた。ピッチ上にロドリら有能な選手が多いことも確かだが、16歳のラミン・ヤマルを抜擢したり、キャプテンのモラタを状況が難しいと見るやすぐに交代するなど、決断力の高さにも唸らされた。

デ・ラ・フエンテ監督は特別な戦術を発明したわけではない。選手たちの特性を活かし、選手たちに何ができるかを理解した上でチームを構築し、選手たちの能力を最大限に引き出すことに集中した。その結果、最強のチームを作り出すに至った。試合後、指揮官は選手たちの姿勢を称賛した。

「我々は常に競争力があると言ってきました。勝利する準備ができていると。そして、我々はそれを成し遂げました。改善するのは難しいですが、成長し続けることはできます。この選手たちのグループは成長を止めません。彼らは改善と競争をやめないんです。私は彼らを誇りに思います。最初の日から最後の日まで、そして次の日までです。それが私の仕事をずっと簡単にしてくれます。私は本当に幸せです。

私は常に選手たちが私を信じ、我々が言っていることに確信を持ってくれていることが重要だと考えてきました。今、簡単なのは自慢することでしょうが、そうはしません。我々はこの瞬間を楽しむべきです」

選手たちの努力と能力、そして彼らへの深い理解に基づいた指揮官の戦術的アプローチがスペインを優勝に導いたのだ。

文・林遼平

埼玉県出身の1987年生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている。

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