ラ・リーガ開幕節、浅野拓磨はスタメンとしてマジョルカの公式戦デビューを飾ることになる。チームが本拠地ソン・モッシュに迎える相手は、昨季ラ・リーガ&チャンピオンズリーグ王者レアル・マドリー……。"ジャガー”はスペインや日本だけでなく世界中から注目を集める一戦で、キリアン・エンバペとは逆方向に、疾風の如くピッチを駆け抜けるのだ。
■プレシーズンの活躍
今夏のプレシーズン、マジョルカにとって浅野は素晴らしいニュースそのものだった。
正直に言えば、彼の獲得が発表された直後はサポーターの興奮を感じられなかった。浅野はスペインで名の知れた選手ではなかったし、ボーフムで残していた数字も印象的とは言い難かったからだ。しかし獲得から数週間を経ると、彼がジャゴバ・アラサテ率いるチームの大切な存在になることを多くの人が悟っている。
浅野は、マジョルカもそのサポーターも獲得を切に願ってきたタイプの選手だった。クラブの強化部門は彼のように縦に速く、深みを取れるスピードスターを獲得すべく汗水を流していたのである。
プレシーズン中、サポーターが“浅野効果”を深く実感したのは、最後の練習試合ボローニャ戦だった。セルジ・ダルデルが送ったフィードに反応し、浅野は相手CBの背後にあるスペースへと駆け抜けた。日本人FWがボールを胸でトラップし、落ち着き払った左足のフィニッシュでネットを揺らすと、ソン・モッシュの観客は思わず席から立ち上がっている。"ジャガー”の脚力とかぎ爪の鋭さが、この島で明らかになった瞬間だった。
「彼と一緒に写真を撮りたいね。いいプレーをするし、何よりその力を示してやろうっていうガツガツした気持ちを感じる。そういう選手はたまらないね」
試合後、一人のサポーターが興奮気味に、そんなことを語っていた。
■マジョルカに欠けていた選手
浅野はあのボローニャ戦の前、イングランドで行われた複数の練習試合でもゴール&アシストを記録している。だが何よりも重要なのは、彼がマジョルカの期待通りに、新鮮な風をチームに送り込んでいることにほかならない。マジョルカはハビエル・アギーレがチームを率いていた昨季から、DFラインの裏を取れる選手が一人もいなかった。この島の人々は、スピードスターが走り過ぎた後に巻き起こる風を感じたかったのだ。
マジョルカの現陣容で、浅野ほど相手DFを驚かせられるアタッカーはしない。ボールを持っていてもいなくても、あれだけ速く動ける選手はほかに存在しないのだ。器用にドリブルを仕掛けられたり、ミドルレンジからシュートを打てる選手はいても、誰も日本人FWのプレーを真似することはできない。だからこそレアル・マドリー戦のスタメンに、「タクマ・アサノ」の名前が記されるのである。
アラサテは『ディアリオ・マジョルカ』とのインタビューで、浅野に求めていることを次のように説明した。
「彼は相手陣地の深くまで侵入する状況を生み出すためにやって来た。それが私たちに欠けていたことだったんだよ。彼はサイドでもトップ下でもプレーでき、しかも、しっかりと規律を守ってくれる」
またチームの点取り屋ヴェダト・ムリキは、浅野と前線でコンビを組むことを歓迎している。Getty Images
「彼は速いだけでなく、素晴らしいプレービジョンを持っている。分かっているなと感じられるね」
「僕たちはとてもうまくやれると思う。彼はピッチ上でどう動くべきかを知っている。思うに、ストライカーというよりウィングの特徴を持つ選手だ。あっち(サイド)ならスペースがあるし、そのスピードを生かして突破することも1対1を仕掛けることもできる」
今夏の移籍市場でマジョルカが獲得した選手は3人。浅野のほかには左サイドバックのモヒカ、右サイドバックのマテウ・モレイで、サポーターの間では陣容的にまだ不十分との声が漏れる。実際的にクラブはもう一人、均衡を崩せるようなウィングを探しているが、まだ獲得に至っていない。いずれにしろ、たとえ有名なウィングが加わろうとも浅野の存在が議論されることはないだろう。彼がプレシーズンで見せたプレーは、サポーターの不安な気持ちをずいぶんと和らげ、逆に期待を呼び起こすものだった。
■ピッチ外での適応能力
昨季までオサスナを率いていたアラサテはハイプレスを駆使して、トランジションやショートカウンターからゴールを目指す指揮官である。浅野にとって強度の高いフットボールは歓迎すべきもののようだ。「攻守が激しく入れ替わるサッカーは自分にとって初めてじゃありません。ドイツでそうしてきたように、自分の動き出しやスピードからゴールやアシストが生まれればいいと思います」。彼はマジョルカのホテルでメディアに対応し、通訳を介してそう語っていた。
しかし、この日本人の“はやさ”は何もピッチだけで発揮されているわけではない。彼は芝生の上で凄まじく速いが、チームにできる限り早く適応しようという努力も怠っていない。マジョルカの面々は浅野のことを両手を広げて歓迎した。その明るいキャラクターでもって、彼はすぐさまグループに溶け込んだのである。
公の場に立つフットボール選手は嘘でもチームメートを称賛するものだが、マジョルカの大多数の選手はお世辞でもなんでもなく、浅野の姿勢や態度に好感を持っている。ある選手はオフレコで、彼のことをこんな風に評していた。Getty Images
「彼はとても頭が良く、ピッチ上ではしっかり規律を守れる。それだけでじゃなく、はじめから僕たちグループの一員になろうとしていたよ」
浅野はスペイン語をまだ話せず、英語についても……スペイン語ですべてを済まそうとする多くのチームメートと同じく、まだまだ向上の余地がある。それでも彼は仕事の時間外でも、チームメートと昼食やディナーをともにしている。プレシーズンの試合で見せたプレー同様、素晴らしい適応能力だ。
マジョルカはこれまでにも日本人選手を擁してきたが、浅野とも素晴らしい関係を築けそうな予感がある。いずれにしても、大事なのはピッチ上の出来事にほかならない。まずは、レアル・マドリー戦。浅野がスペイン・フットボールで成功を勝ち取りたいならば、これ以上ない初ステージである。"ジャガー”はエンバペ、ヴィニシウス、ロドリゴ、ベリンガムとは反対の方向へ、リュディガーの背後へ駆け抜け、風を起こさなければならない。マジョルカ島の人々は今日、そんな彼の姿を夢見ているのだ。
文=セバスティア・アドロベル(Sebastia Adrover)/マジョルカ地方紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』
企画・翻訳・構成=江間慎一郎
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