サッカーにおいて、パスを回し続けるポゼッションスタイルの代名詞的存在であるスペインだが、国内ではそのスタイルからの脱却を求める声が強まっている。
スペインは故ルイス・アラゴネス監督の率いた代表チームがEURO2008で優勝を果たして、パスを回す、ボールをつなぐサッカーを自分たちのスタイルとして確立。チャビ・エルナンエス現バルセロナ監督、アンドレス・イニエスタが中盤でエンジンとなったチームは、ビセンテ・デル・ボスケ監督の指揮下で2010年南アフリカ・ワールドカップ(W杯)、EURO2012でも優勝を達成して、自分たちとそのスタイルの強さを全世界に知らしめた。
しかしながら、世代交代と相手チームに対策を立てられたことによってスペインは失速していく。2014年ブラジルW杯(チームを指揮したのはデル・ボス監督)はグルーステージ敗退、EURR2016(デル・ボスケ監督)はイタリアに敗れてベスト16敗退、2018年ロシアW杯(フェルナンド・イエロ監督)でもロシアに敗れてベスト16で姿を消した。その後ルイス・エンリケ監督が手綱を握ったスペインもポゼッションスタイルを継続し、EURO2020では準決勝まで進出(同ラウンドでイタリアに敗戦)。チームの復権を予感させたものの、2022年カタールW杯では日本戦を1-2で落としてグループ2位通過となり、ベスト16のモロッコ戦にもPK戦の末に敗れて、サポーターに再び失望を味わわせることになってしまった。
近年のスペインは自陣に引きこもる相手にとにかく苦しんでおり、シュートに持ち込めないままパスを回し続ける試合を繰り返している。
『Opta』によれば、スペインはカタール大会で、W杯のパス本数歴代ランキング2〜4位の記録を塗り替えた。日本戦で記録した1058本が歴代2位、コスタリカ戦の1045本が3位、モロッコ戦の1019本が4位にランクイン。そして歴代1位の記録も、ロシア大会決勝トーナメント1回戦スペイン対ロシア(1-1、PK戦3-4でロシア勝利)でスペインが記録した1115本となっており、スペインは1000本以上のパス本数で1〜4位を独占する格好となった。とはいえ、彼らがその4試合で勝利したのはコスタリカ戦(7-0)だけにとどまり、攻めあぐねている状況でパス本数増加が表れているデータ、と言っても差し支えないだろう。
優勝した南アフリカ大会以降のW成績が11試合3勝と、結果を出せず苦しみ続けているスペイン。国民もそうした状況に痺れを切らしたようで、ついにポゼッションスタイルからの脱却を求め始めたようだ。スペイン紙『マルカ』電子版のプレースタイルを問うアンケートでは、投票した約11万人の内70%が「ポゼッションスタイルから脱却すべき」と回答した。
スペインはルイス・エンリケ監督の退任が濃厚で、次にチームを率いる監督次第では伝統のスタイルを捨て去る可能性がある。なお現在、L・エンリケ監督の後任候補とされるのはロベルト・マルティネス前ベルギー代表監督、マルセリーノ・ガルシア・トラル前アスレティック・ビルバオ監督、ラファエル・ベニテス前エヴァートン監督、ルイス・デ・ラ・フエンテ現U-21スペイン代表監督の4人で、『マルカ』のアンケートでは約8万人の内38%がR・マルティネス氏、33%がマルセリーノ氏、18%がベニテス氏、11%がデ・ラ・フエンテ氏に投票している。