激戦のライト級でスーパー・スター候補が大きな一歩を踏み出した──。アメリカのテキサス州ダラスで開催されたWBCライト級暫定王座決定戦で、デビューから無敗の22歳、同級4位のライアン・ガルシアがロンドン五輪金メダリストの同級3位ルーク・キャンベルに7回1分58秒KO勝ちした。
衝撃的な結末だった。7ラウンド、ガルシアがロングレンジから大きく踏み込んで左ボディブローを一閃。顔面にパンチがくると判断してガードを固めたキャンベルはがら空きのレバーにパンチを食らい、一瞬間を置いてからヒザをついて苦悶の表情。立ち上がれずに10カウントを聞いた。
喜びを爆発させたガルシアはリングにうずくまって涙した。その姿がガルシアの今回の試合にかける思い、キャンベル戦の苦闘を物語っていた。
デビューから連勝街道を突き進むガルシアはSNSを駆使したセルフプロデュースに長け、インスタグラムのフォロワーが789万6000人に上る人気選手。しかし、人気があるがゆえに「人気先行」と揶揄され、真の実力を疑問視されるのがガルシアの悩みの種だった。
今回の試合はそうした疑問の声を一掃するために重要な試合という位置づけ。対戦相手のキャンベルは2012年のロンド五輪金メダリストであり、プロでは世界チャンピオンになれていないもののWBA王者だったホルヘ・リナレス、3冠王者だったワシル・ロマチェンコとフルラウンド戦ったサウスポーの実力者。実力の証明にはうってつけの相手だった。
だからであろう、この日のガルシアは硬くなった。初回から強打を振り回してキャンベルに圧力をかけていったが、2回に一瞬のスキをつかれて左フックをもらい、生涯初のダウンを喫する。アメリカンエアラインズ・センターに悲鳴が上がった。
その後もキャンベルが足を動かしながら左をボディに集め、試合のペースを引き寄せようとしたが、これで崩れないのがスターになる選手というもの。ガルシアはその後も強気に攻め続けながら、攻撃の軸を顔面からボディに巧みにシフトチェンジ。7回のフィニッシュシーンを生み出したのだ。
この勝利によりガルシアはWBCライト級の正規王者、デビン・ヘイニー(米)との対戦が義務づけられる。試合を会場で生観戦したヘイニーは21勝18KOのガルシアと同じ無敗(25勝15KO)の22歳。才能あふれる若者同士の激突は2021年の米国リングを大いに盛り上げるだろう。
文・渋谷淳(しぶや・じゅん)
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大卒。新聞社勤務をへて独立し、現在はボクシングを中心にスポーツ総合誌「Number」などに執筆。著書「慶応ラグビー 魂の復活」(講談社)。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」、会員制有料スポーツサイト「SPOAL(スポール)」の編集にも力を注いでいる。
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