ボクシング界のスーパー・スター、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)が27日(日本時間28日)、米マイアミのハードロック・スタジアムで世界スーパー・ミドル級王座の防衛戦に臨み、WBC指名挑戦者のアヴニ・イリディリム(トルコ)に3回終了TKO勝ち。文句なしのパフォーマンスでWBAスーパーとWBC王座の防衛に成功した。
トルコ初の世界チャンピオンを目指してマイアミに乗り込んだイルディリムは「母国の誇りを胸に戦う」と並々ならぬ意気込みリングに上がったが、パウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングで1位に君臨し、世界最高のボクサーと評されるカネロの前では何もできなかった。
イルディリムは体格差を生かして圧力をかけ続けるか、徹底的に距離を取ってカネロを苛立たせるかの戦略しかなかったはずだ。しかし、スタートから圧力はかけられず、背の低いカネロがパンチを出しやすい距離での戦いに身を投じてしまう。スピードとテクニックで挑戦者を凌駕するカネロは、ガードを固めるイルディリムに対してジャブ、左右のボディブローで逆にプレッシャーをかけた。
カネロは2回に右アッパーを決めると、攻撃の圧力をさらに強める。挑戦者のガードの内側、外側からのパンチで崩していき、さらには顔面とボディに多彩なパンチを打ち分ける姿に早くもノックアウトの予感。迎えた3回、カネロが鋭いワンツーをイルディリムのガードの間に突き刺すと、トルコ人は驚きの表情でキャンバスに転がった。
このラウンドをなんとかしのいだイルディリムだったが、もはや勝負の行方は明らかだった。コーナーに戻ってきたイルディリムに対し、参謀のジョエル・ディアス・トレーナーが必死に語りかけるものの、椅子に座ったトルコ人は茫然自失といった様子でトレーナーの言葉に反応できない。結局、次のラウンドを待たずにイルディリム陣営は棄権を申し出た。
圧巻のKOショー。カネロのド派手な入場、NFLマイアミ・ドルフィンズが本拠地とするスタジアムに詰めかけた観衆、1万5000人の熱気に無名のイルディリムが飲まれてしまったという印象もあった。ただ、戦前の予想通り、やはり実力差があったというのが結果を受けての正直な感想だった。
カネロは試合後のヒーロー・インタビューで次のように語った。
「私は168ポンド(スーパー・ミドル級)で最高の戦いを提供したい。私は歴史を作ろうとしているんだ。168ポンドで王座を統一するために、イルディリムと戦わなければならなかった」
そう、カネロの目標はスーパー・ミドル級で4団体を統一することだ。これまでのキャリアでスーパー・ウェルター級、ミドル級、さらにはライト・ヘビー級王座を獲得し、昨年12月にはスーパー・ミドル級のWBAスーパー王者、無敗のカラム・スミス(英)を下して同級でのメジャー4団体制覇を高らかに宣言した。今回の勝利はそのミッションに向けての2つ目のハードルだったのである。
プロモーターのマッチルームボクシングは用意周到だ。カネロの勝利を予測し、試合後のヒーロー・インタビューで5月8日、WBO王者のビリー・ジョー・サンダース(英)とカネロの3団体統一戦をすかさず発表(試合会場は未定)。あおり映像もきっちり用意された発表に、ハードロック・スタジアムに駆けつけたファンは沸きに沸いた。
ミドル級とスーパー・ミドル級で2階級を制覇しているサンダースはサウスポーの技巧派。長身のスミスや、フィジカルが強いイルディリムとはまったくタイプが違うため、ファンにとっては新たな興味が湧くマッチメークと言えるだろう。
サンダース戦の勝利を見据えて既にIBF王者、カレブ・プラント(米)との4団体統一戦のプランまで盛んに報じられているカネロ。キャリアの旬を迎えつつある31歳の現役最高ボクサーは、歴史に名を残すファイトを一気に積み重ねようとしている。
文・渋谷淳(しぶや・じゅん)
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大卒。新聞社勤務をへて独立し、現在はボクシングを中心にスポーツ総合誌「Number」などに執筆。著書「慶応ラグビー 魂の復活」(講談社)。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」、会員制有料スポーツサイト「SPOAL(スポール)」の編集にも力を注いでいる。
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