文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
突如ホンダのF1活動が終えんへ
ホンダが来年の2021年いっぱいでF1の活動を終了すると、2日夕方に突如発表しました。
17時からWEB上で行われた緊急会見と同時配信されたリリースのなかで、本田技研工業の八郷隆弘社長は、今回の撤退の理由について次のようにコメントしました。
「自動車業界は100年に一度と言われる大転換期を迎えています。Hondaも 将来の新たなモビリティ、そして、新たな価値創造に向けて注力していくことは以前よりお話しさせていただいています。なかでも、環境への取り組みはモビリティメーカーにとって最重要テーマの一つとして捉えています」
そしてそれに向けて「2011年には『自由な移動の喜び』と『豊かで持続可能な社会』の実現をビジョンに掲げ、地球環境に与える負荷をゼロにすることを目指し取り組みを進めてきました。このたび、Hondaはこの取り組みをさらに加速させ持続可能な社会を実現するために『2050年にカーボンニュートラルの実現』を目指すことを決意しました。そして、そのために、2050年までの通過点として現在掲げている『2030年に四輪車販売の3分の2を電動化する』という目標についても、カーボンフリー技術の投入をさらに加速させていきます。この実現に向けて、Hondaは、将来のパワーユニットやエネルギー領域での研究開発を重点的に強化しています」とも説明。
声明では「F1では、優勝という目標を達成でき、一定の成果を得ることができました。その力をこれからは、パワーユニットとエネルギーのカーボンフリー化『カーボンニュートラル実現』という新しいフィールドでの革新に注ぎます」としていました。
つまり電動自動車などの開発により力をそそぐために、F1の活動を終了するというもの。
発表への反響はさまざま
このホンダの発表への反響はさまざまでした。
・「今回は長く続ける」と言っていたのに
・ホンダの変節ぶりがまた繰り返された
・せっかく勝てるところまできたのに
・レッドブル&アルファタウリのことはどう考えているのか
・経営も厳しそうだったから、撤退やむなし
・あらたな動力への移行は多大なリソースが必要で、未来のためにはF1終了は妥当
など多岐にわたりました。
4期にわたったホンダのF1参戦
過去にホンダはF1に4度にわたって参戦してきました。1964-68年の「第1期」、1983-92年の「第2期」、2000-08年の「第3期」、2015年から21年までの「第4期」です。
現行のF1のパワーユニット規定は2014年からはじまり、2015年のホンダは1年遅れの復帰参戦でした。
「日進月歩」どころか「分進日歩」ほどの急テンポで技術発展するF1で、1年の遅れは大きな差でした。このF1復帰では、第2期にともにF1の王座を獲得したマクラーレンをパートナーとしました。が、マクラーレンはマシンもチームも下降期。
そんなマクラーレンの要求に応じて、ホンダ小型な設計のパワーユニットとしましたが、これが改良の余地をきわめて少なくし、苦労してしまいました。
2018年からはパートナーがトロロッソ(現アルファタウリ)となり、昨年の2019年にはレッドブルも加わりました。両チームとホンダは協力的に作業を進め、昨年はオーストリア、ドイツ、ブラジルGPでレッドブルのマックス・フェルスタッペンが3勝を挙げました。
今季も、フェルスタッペンが第5戦のF1 70周年GPで優勝。第8戦イタリアGPではアルファタウリ(元トロロッソ)のピエール・ガスリーもF1初優勝を果たしました。
先日の第10戦ロシアGPでは、昨年のモナコGP以来となるホンダ勢2チーム4台全車が入賞しました。
今まさにこれからというところでした。そして来年、またその後の新車両規定となる、2022年以降のホンダの活躍が期待されていたところでした。
繰り返される姿勢
大敗から勝利へ。技術スタッフたちが苦労と努力を重ねて、技術力で大敗から勝てるところまでもっていくのは、過去の第1期も、大成功に終わった第2期も同じでした。
第3期は独自チームにしたところでふたたび苦戦をしましたが、2シーズンの学習の成果を込めたマシンはとても速いものになりました。でも、そのマシンとチームは「ブラウンGP」(現メルセデス)という名前で2009年のチャンピオンとなりました。
前年、リーマンショックによる業績不振からホンダがチームを売却していたからでした。この早計とも見えるような判断の早さもまたホンダらしく、今回の判断にも2008年の判断を思い起こした人もいました。
今回のF1終了(事実上の撤退)は、市販車のための、あらたな技術確立のためとホンダは説明しています。
1968年、第1期のF1はあと少しでトップへというところで活動休止をしたときも、ホンダは市販車の排出ガス規制への対応に会社の力を注ぐためとしていました。
このときは、1972年に独創的なCVCCというエンジンを実現しました。世界中が排出ガスの浄化の研究に力をいれるなか、ホンダはレースで培った燃焼技術を駆使して排出ガスそのものをクリーンにするエンジン技術を実現していました。
今回のF1終了の発表の通りにいけば、ふたたびホンダはより優れた電気自動車など環境に良いモビリティを実現してくれるのかもしれません。ホンダが目標と掲げた2050年が楽しみではあります。
ホンダのDNA
ホンダにとってモータースポーツはDNAだといいます。でも、創業者の本田宗一郎氏にとってモータースポーツ活動は技術を研鑽するための「走る実験室」でした。
そして、本田氏はその研鑽した技術でより良い製品を創り出すことで、人々の暮らしや社会に貢献したいという思いがありました。モータースポーツはそのための手段だったのです。このことはツインリンクもてぎのなかにあるホンダ・コレクション・ホールの展示をみるとわかります。
ここからみると、今回の発表もまたホンダらしいともいえる部分はあります。
残された時間のなかで
一方で、かつてともにF1を転戦したホンダの技術者たちは、世界に技術を問い、競い、やるからには勝つ、世界一の技術を確立するという思いが強いように感じました。そのホンダの技術者たちの熱い思いは今も変わらないはずです。
彼ら技術者たちに残された時間は、今季の残り7戦と2021シーズンのみ。期限付きとはいえ、レッドブル、アルファタウリとともに頂点に挑む戦いはまだ続きます。
ホンダの技術者たちにとって「待ったなし」な状況ですが、そもそもレースの技術開発は常に「待ったなし」です。
「待ったなし」の状況のなかで、ホンダの技術者たちのさらなる健闘を祈ります。
来年の最終戦で悔いのないラストを迎えられるように……。
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | オーストリアGP | 7月3日(金) ~ 4日(土) | 7月5日(日) |
第2戦 | シュタイアーマルクGP | 7月10日(金) ~11日(土) | 7月12日(日) |
第3戦 | ハンガリーGP | 7月17日(金) ~18日(土) | 7月19日(日) |
第4戦 | イギリスGP | 7月31日(金) ~ 8月1日(土) | 8月2日(日) |
第5戦 | 70周年記念GP | 8月7日(金) ~ 8日(土) | 8月9日(日) |
第6戦 | スペインGP | 8月14日(金) ~15日(土) | 8月16日(日) |
第7戦 | ベルギーGP | 8月28日(金) ~29日(土) | 8月30日(日) |
第8戦 | イタリアGP | 9月4日(金) ~ 5日(土) | 9月6日(日) |
第9戦 | トスカーナ・フェラーリ1000GP | 9月11日(金) ~12日(土) | 9月13日(日) |
第10戦 | ロシアGP | 9月25日(金) ~ 26日(土) | 9月27日(日) |
第11戦 | アイフェルGP | 10月9日(金) ~ 10日(土) | 10月11日(日) |
第12戦 | ポルトガルGP | 10月23日(金) ~24日(土) | 10月25日(日) |
第13戦 | エミリア・ロマーニャGP | 10月31日(土) | 11月1日(日) |
第14戦 | トルコGP | 11月13日(金) ~ 14日(土) | 11月15日(日) |
第15戦 | バーレーンGP | 11月27日(金) ~ 28日(土) | 11月29日(日) |
第16戦 | サクヒールGP | 12月4日(金) ~5日(土) | 12月6日(日) |
第17戦 | アブダビGP | 12月11日(金) ~ 12日(土) | 12月13日(日) |