文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
9年ぶりのイスタンブール
2011年以来のF1開催。イスタンブールパークサーキットでのトルコGPは、9年ぶりという開催だけでも、各チームにとっては未知との戦いでした。
さらにサーキットは、開催の2週間前に路面を全面再舗装していました。新しい路面は、アスファルトに含まれる油がしみ出して、滑りやすくなってしまうのです。
悪いことにタイヤを供給するピレリは再舗装前の段階で、路面の粗さとターン8に代表されるタイヤへの負荷の大きなコーナーを想定して、最も硬い方のタイヤを供給することをすでに決定していたのでした。
悪いことはさらに続きます。実際レースの週末になると、金曜日はドライコンディションでも、気温と路面温度が低い状況に。タイヤがなかなか適正温度にならず、滑りやすい路面でさらに滑りやすい状態になってしまいました。
さらに雨、予選はより面白く
滑りやすい路面に加えて、土曜日は冷たい雨になり、予選も雨と濡れた路面に翻ろうされるドライバーとマシンが続出しました。
でも、そんななかでレーシングポイント勢が好調で、ランス・ストロールが初のポールポジションを獲得。セルジオ・ペレスが3番手につけました。ウェット系の路面を得意とする2人が上位に来た一方、メルセデス勢はルイス・ハミルトンが6位、バルテリ・ボッタスが9位となりました。
また、アルファロメオ勢もキミ・ライコネンが8位、アントニオ・ジョヴィナッツィが10位とトップ10に入ってきました。いつもとは異なる予選結果になりました。
決勝もウェット、ストロールの頑張り
決勝当日もスタート直前まで雨が降り、路面は完全なウェットコンディション。スタートでは大部分のチームが、溝が多く、深くて排水性能の高いウェットタイヤを選択しました。
それでも滑りやすい路面の上に雨水。低い気温と路面温度で、序盤はとても難しいコンディションとなり、オープニングラップからたいへんな状況となりました。
そんななか、ストロールとペレスのレーシングポイント勢が別格の安定感を見せ、後続を大きく引き離しました。とくにストロールは、やはりスタートとオープニングラップで上手く走って、3番手まで上がってきたフェラーリのセバスチャン・ベッテルに対して、2周目で11秒もの大差をつけていました。
インターミディエイトでの戦い
6周目にフェラーリのチャールズ・ルクレールが、インターミディエイトにタイヤを換えると、翌周にはボッタス、その次の8周目にはベッテルやハミルトンなどと相次いでルクレールに倣う動きになります。
マシンが走行する部分の路面は、水が吹き飛ばされて、溝の少ないインターミディエイトタイヤのほうがより速い状態になってきていました。
そして、大部分のピットストップが終わった時には、ふたたびストロールとペレスの1-2体制に戻っていました。
レース中盤の30周目、ルクレールが再び先手を取り、2度目のタイヤ交換をします。ドライタイヤか? インターミディエイトか? 選んだのは後者のインターミディエイトでした。これを見てライバルの大部分も再びルクレールに倣った動きに出ます。
トップだったストロールも36周目に新しいインターミディエイトタイヤに交換します。ですが、ペースが上がりません。実はこのタイヤ交換の前から、ストロールはフロントタイヤの不調に苦しんでいました。
レース後にチームは、ストロールのフロントウイングの下面の整流板が壊れていて、これでフロントのダウンフォースが減ってしまい、結果フロントタイヤの機能性が落ちていたのでした。それでも、ストロールは最後まで頑張り、9位で入賞しました。
手負いのマシンでは、ボッタスも苦労していました。オープニングラップで他車と接触したことからマシンが不調になりペースを上げられなかったのです。
それでも強いハミルトン
マシンに苦しむボッタス。一方、ハミルトンは2度目のタイヤ交換をせず、8周目に装着したインターミディエイトタイヤで快走。37周目にはトップに立ち、45周目にはボッタスを周回遅れにしてしまいます。これでチャンピオン争いを決定的な状況にしました。
レース終盤、路面は走行部分が白く乾き始め、こうなると使い込んで溝がなくなったインターミディエイトタイヤがスリックタイヤのようになって走りやすくなります。タイヤ交換を1度しかしなかったハミルトンとペレスは、この利点を生かします。
ただ、そのタイヤがいつダメになるのかという不安もありました。実際、最終ラップにペレスはタイヤが厳しくなり、ベッテルとルクレールとの激しい争いとなりました。フィニッシュチェッカーを受けた順番はペレスが2位、ベッテル3位、ルクレールが4位となりました。
一方、ハミルトンは、2位ペレスに31秒も引き離してトップでゴール。ミヒャエル・シューマッハ―とならぶF1史上最多タイ、7度目のチャンピオンを獲得しました。ハミルトンは、オールラウンドな強さと巧さを見せつけました。
個人やチームのランキング争いはし烈に
これで今季のチャンピオンは決まりました。でもまだレースはバーレーン、アブダビの中東での3戦があります。
F1はランキングもとても大事です。ドライバーランキングのポイントで競っているところがいくつもあります。そして、コンストラクターズランキングはもっとシビア。ランキングに応じて分配金の量などが変わるからです。
残る中東3連戦も最後まで激しいランキング争いが繰り広げられます。決して消化試合とならないのがF1です。
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | オーストリアGP | 7月3日(金) ~ 4日(土) | 7月5日(日) |
第2戦 | シュタイアーマルクGP | 7月10日(金) ~11日(土) | 7月12日(日) |
第3戦 | ハンガリーGP | 7月17日(金) ~18日(土) | 7月19日(日) |
第4戦 | イギリスGP | 7月31日(金) ~ 8月1日(土) | 8月2日(日) |
第5戦 | 70周年記念GP | 8月7日(金) ~ 8日(土) | 8月9日(日) |
第6戦 | スペインGP | 8月14日(金) ~15日(土) | 8月16日(日) |
第7戦 | ベルギーGP | 8月28日(金) ~29日(土) | 8月30日(日) |
第8戦 | イタリアGP | 9月4日(金) ~ 5日(土) | 9月6日(日) |
第9戦 | トスカーナ・フェラーリ1000GP | 9月11日(金) ~12日(土) | 9月13日(日) |
第10戦 | ロシアGP | 9月25日(金) ~ 26日(土) | 9月27日(日) |
第11戦 | アイフェルGP | 10月9日(金) ~ 10日(土) | 10月11日(日) |
第12戦 | ポルトガルGP | 10月23日(金) ~24日(土) | 10月25日(日) |
第13戦 | エミリア・ロマーニャGP | 10月31日(土) | 11月1日(日) |
第14戦 | トルコGP | 11月13日(金) ~ 14日(土) | 11月15日(日) |
第15戦 | バーレーンGP | 11月27日(金) ~ 28日(土) | 11月29日(日) |
第16戦 | サクヒールGP | 12月4日(金) ~5日(土) | 12月6日(日) |
第17戦 | アブダビGP | 12月11日(金) ~ 12日(土) | 12月13日(日) |