文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
通常の開催コースに戻って
第15戦バーレーンGP。F1はふたたび例年の開催コースに戻りました。
コンディションも比較的暖かく、レース戦略に重要なタイヤについても、データを取ることができました。ただ、バーレーンGPが開催されるバーレーン・インターナショナルサーキットは路面が粗く、タイヤにはかなり厳しいものでした。
スタート直後の大クラッシュ
決勝はスタートが日没直後のナイトレースでした。スタート直後、後方から順位を上げようとしたハースのロマン・グロジャンは、進路を変更する際に右後輪で他車の左前輪に乗り上げてしまいました。
これでグロジャンのマシンは、フル加速中に急に右側へと向きを変えます。そして、コース脇のガードレールへ深い角度で突っ込む形に。グロジャンのマシンは車体が前後にちぎれ、コクピットのある前半部分はガードレールに刺さった状態で炎上しました。
炎のなかからグロジャンは脱出。両手の甲の部分に軽い火傷などを負いました。ですが命に別状はありませんでした。
F1の高い安全性の成果
F1は半世紀ほど前から安全性の向上が図られ、30年ほど前から安全性能がさらに強化されてきています。結果、車体の衝撃吸収構造のおかげで、激しい衝突でもグロジャンは意識を失わずにすみました。
大きなヘッドレストとHANS(ハンス)という頭と首を守るドライバー装備で、首の骨と脳神経系を守ることができました。そして、コクピットの上についたHALO(ヘイロー)という装置が、グロジャンの頭をガードレールの直撃から守ったという点も大きかったでしょう。
今年から耐火性能がより強化されたレーシングスーツも、グロジャンを激しい火災から守りました。コース脇に等間隔で配置された、消火器と火災消火担当のファイヤーマーシャルや、医師を乗せてレースのスタートを後方から追うメディカルカーの活躍もあり、致命的な状況に至らずにすみました。
F1を統括するFIA(国際自動車連盟)は、F1をはじめモータースポーツの安全向上について、科学的な研究開発し続けてきました。
今回の事故は、おそらく以前なら即死してしまうか、重篤な状態になってしまうような規模でした。ですが、グロジャンが比較的軽いけがで生還できたのは、こうした安全研究の成果と言えるもの。
そして、こうした安全研究の成果は、F1以外のレースでも効果を出しているだけでなく、衝突安全ボディやヨーロッパで販売される新車評価基準にも応用されるなど、私たちが普段使う自動車の安全性能向上にも多大な貢献をしています。
レース再開、激しい戦い
グロジャンの事故の後処理と、壊れたガードレール部分の修復のため約1時間半にわたる中断をしたのち、レースは再開されました。ポールポジションのルイス・ハミルトン(メルセデス)はトップを快走し、2番手のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)以下を引き離します。
レースの焦点は、どのタイヤがどれだけの周回数もつのか?ということになり、大部分は、いちばん硬くて丈夫なハードタイヤか、中間の硬さと丈夫さのミディアムタイヤを選択していました。
それでもサーキットの粗い路面はタイヤに厳しく、赤旗中断中のタイヤ交換を除くと、大部分がレース中に2回のピットストップ(タイヤ交換)を行うことになりました。この2回のピットストップのおかげで順位は激しく動きました。
さらには新品のタイヤか周回数を重ねたタイヤか、ハードかミディアムかソフトかで、それぞれのマシンのラップタイムや有利さが異なり、コース上では激しいバトルが至るところで繰り返されました。結果、慌ただしいほどに動きのある、熱く激しいレース展開になりました。
そんななか、アルファタウリのピエール・ガスリーはレース中1回のタイヤ交換で、最後まで乗り切ろうとします。これでピットストップのタイムロスを減らして順位を上げる戦略でした。
タイヤの使い方が巧いガスリーはこのギャンブル的な戦略で、9番手の再スタートからレース終盤には5位まで順位を上げました。ところが、終盤にタイヤの性能劣化が来てしまいました。
ペレスの不運、ガスリーの幸運
性能が劣化したタイヤで防戦一方のガスリー。44周目にはランド・ノリスに、51周目にはカルロス・サインツのマクラーレン勢にそれぞれ抜かれ、5位から7位へと順位を落とす形に。さらに、ルノーのダニエル・リカルドも襲い掛かってきます。
ゴールまであと4周を過ぎたところで、3位走行中だったセルジオ・ペレスのマシンから白煙と炎が出てしまいます。原因はMGU-Kというハイブリッド装置のモーター部分のトラブルでした。ペレスはこれでマシンを停め、表彰台に登る権利を失いました。
ペレスのマシンの排除作業を安全に行うためにセーフティカーが導入され、追い抜き禁止の隊列走行に。これで、リカルドの猛攻から防戦中だったガスリーには救いの手となり、リカルドにとっては悔しい展開となりました。
レースはセーフティカー先導のまま最終周の57周目となり、隊列走行を保ちながらのゴールとなりました。ガスリーは6位でした。優勝は終始トップだったハミルトン。2位と3位はマックス・フェルスタッペンとアレックス・アルボンで、レッドブル勢は今季初の二人そろっての表彰台となりました。
アルボンは金曜日のフリー走行2回目で、マシンが大破するクラッシュを喫しました。その日の晩、遅くまで残ってマシンを修復してくれたチームの努力に報いることができました。今季レッドブルのマシンの特性に手を焼いていたアルボンでしたが、最近は次第にマシンを乗りこなせるようになってきています。今季の残り2戦でも、アルボン本来の速さが出せそうなところです。
4位と5位にはノリスとサインツが入り、マクラーレンはこの二人の活躍のおかげで、4チームによる大混戦のコンストラクターズランキング3位争いから、少し抜け出しました。
ふたたびバーレーンで、異なるレイアウトで
F1は今季最後の2週連続開催となります。第16戦はふたたびバーレーン・インターナショナルサーキットで開催ですが、コースレイアウトは、サーキットの外周コース部分をつないだ、よりコーナーが少ないものになります。
シミュレーション結果では1周が1分を切る高速なレースになるとも言われています。
F1はふたたび未知のコースに挑むことになります。そして、残り2戦の大詰めのなか、ドライバーズ、コンストラクターズともに激しいランキング争いを繰り広げます。
関連記事
【連載】小倉茂徳の視点
- 第1回・過酷な開幕レースとなった2020年オーストリアGP|F1
- 第2回・エリートの人生が交錯するレースカテゴリーF2とF3|F2・F3
- 第3回・F1各チームの今季勢力図が露見…ハンガロリンクも熱戦必至|F1
- 第4回・ハンガリーGPは予測不能な展開の連続…際立ったレースの醍醐味とは?|F1
- 第5回・イギリスGPでは誰も予想だにできないドラマが最後に…|F1
- 第6回・F1昇格を目指す日本人ドライバー角田裕毅…F2での確かな成長とは?|F2
- 第7回・絶妙な戦略を見せたレッドブル…フェルスタッペン今季初Vの要因とは?|F1
- 第8回・灼熱のスペインGPはハミルトンが制す…王者の“修正力”にF1の凄みを見た!|F1
- 第9回・ベルギーGPはセーフティーカーで明暗…各チームの創意工夫も明瞭に|F1
- 第10回・大波乱のモンツァ…ガスリーの劇的F1初勝利は「まさにレース!」|F1
- 第11回・フェラーリの1000GP、F1初開催ムジェロは混乱続きの一戦に|F1
- 第12回・ロシアGPで王者ハミルトンが失態&ライバルに巻き返しの兆候?|F1
- 第13回・ホンダのF1活動が2021年で終了…残された時間で期待すること|F1
- 第14回・アイフェルGPも王者が他を圧倒…ライバル勢の奮闘ぶりにも注目|F1
- 第15回・新たな歴史が刻まれたアウガルヴェ…白熱のバトルも見応え十分!|F1
- 第16回・14年ぶりのイモラで浮き彫りになった、現代F1マシンの難しい特性とは?|F1
- 第17回・トルコGPは各チーム苦慮の路面状況も…挽回した王者が7度目の戴冠|F1
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。
● 【番組表】直近の注目コンテンツは?
● 【お得】DAZNの料金・割引プランは?
チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | オーストリアGP | 7月3日(金) ~ 4日(土) | 7月5日(日) |
第2戦 | シュタイアーマルクGP | 7月10日(金) ~11日(土) | 7月12日(日) |
第3戦 | ハンガリーGP | 7月17日(金) ~18日(土) | 7月19日(日) |
第4戦 | イギリスGP | 7月31日(金) ~ 8月1日(土) | 8月2日(日) |
第5戦 | 70周年記念GP | 8月7日(金) ~ 8日(土) | 8月9日(日) |
第6戦 | スペインGP | 8月14日(金) ~15日(土) | 8月16日(日) |
第7戦 | ベルギーGP | 8月28日(金) ~29日(土) | 8月30日(日) |
第8戦 | イタリアGP | 9月4日(金) ~ 5日(土) | 9月6日(日) |
第9戦 | トスカーナ・フェラーリ1000GP | 9月11日(金) ~12日(土) | 9月13日(日) |
第10戦 | ロシアGP | 9月25日(金) ~ 26日(土) | 9月27日(日) |
第11戦 | アイフェルGP | 10月9日(金) ~ 10日(土) | 10月11日(日) |
第12戦 | ポルトガルGP | 10月23日(金) ~24日(土) | 10月25日(日) |
第13戦 | エミリア・ロマーニャGP | 10月31日(土) | 11月1日(日) |
第14戦 | トルコGP | 11月13日(金) ~ 14日(土) | 11月15日(日) |
第15戦 | バーレーンGP | 11月27日(金) ~ 28日(土) | 11月29日(日) |
第16戦 | サクヒールGP | 12月4日(金) ~5日(土) | 12月6日(日) |
第17戦 | アブダビGP | 12月11日(金) ~ 12日(土) | 12月13日(日) |