文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
最終戦は予選からフェルスタッペン強し
2020年の最終戦は例年と同様、アブダビGPとなりました。
予選は夕暮れから夜の時間帯に行われ、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが今季初のポールポジションとなりました。
メルセデスチームは、バルテリ・ボッタスが2番手、新型コロナウイルス陽性により前戦を欠場したルイス・ハミルトンが3番手でした。ハミルトンは直前の検査で陰性と診断され、なんとか最終戦で復帰しましたが、まだ体調は完璧ではない中での頑張りでした。
2020年の全17戦でメルセデス勢がポールポジションを逃したのは、第14戦トルコGPでのランス・ストロール(レーシングポイント)のポールポジション獲得以来2度目。レーシングポイントもメルセデスのパワーユニットだったので、今回のフェルスタッペンとレッドブル・ホンダの予選結果は、今季のメルセデスパワーユニット以外初のポールポジションにもなりました。
決勝でもフェルスタッペンが他を圧倒
決勝も夕暮れから夜にかけてのレースでした。スタート直後の1コーナーを抜けると、その先の加速でフェルスタッペンはボッタスとハミルトンのメルセデス勢をぐんぐん引き離します。
さらにターン7のヘアピンコーナーを曲がって、最初の長いストレートでも、フェルスタッペンは加速段階で後続を引き離します。
次のターン9からの高速区間でも同様でした。オープニングラップを終えた段階で、フェルスタッペンは2番手のボッタスに1.4秒もの差をつけていました。この差は周回を重ねるたびに広がっていきました。
9周目、パワーユニット交換で最後列スタートから追い上げていたセルジオ・ペレス(レーシングポイント)がコース脇にストップ。原因は2戦前と同様にパワーユニットの中のMGU-Kという部分でした。
このMGU-Kは、市販のハイブリッド車についている電動モーターと同様の機能で、走行中に発電と電動モーターによるパワーアシスト(出力増強)をしています。メルセデス勢では、ウィリアムズのジョージ・ラッセルのマシンでも、金曜日にMGU-Kの問題が起きていました。
そこで、メルセデス勢は全車MGU-Kの機能を落としていたようでした。こうなると電動モーターのパワーアシストが少なくなり、とくに電動モーターが得意とするマシンの加速力が鈍くなってしまいます。
この停まった車両の排除作業のために、ヴァーチャルセーフティカーからセーフティカーとなりました。
10周目、大部分のドライバーはピットに向かい、タイヤをハードに交換します。残りの周回数を考えると、ハードタイヤならなんとか走り切れるという計算でした。
レッドブルとホンダの強さ
14周目にレースが再開になると、フェルスタッペンはまるでスタート直後のデジャヴのように、再びボッタス以下をぐんぐん引き離します。
フェルスタッペンのマシンは、ストレートでの最高速度ではライバル勢に比べて速いものではありませんでした。でも、市街地のような半径の小さな直角コーナーが連続する第3セクターで速かったのです。
この第3セクターでは、車体とタイヤを路面に押し付けるダウンフォースがとても重要な区間となります。ダウンフォースを増やすと空気抵抗が増えて、セクター1と2の高速区間では遅くなります。それは追いつかれやすくなり、不利でもあります。
でも、フェルスタッペンのマシンは、ふたつの高速区間ではコーナー出口からの最初の加速性能の良さで、メルセデス勢以下を引き離していました。「ストレートの前半で優ってしまえば、まず抜かれない」という大昔から言われてきたことは現代にも生きていました。
これを可能にしたのは、ダウンフォースをしっかり稼いで安定した車体に仕上げてきたレッドブルのマシンと、加速性能の良さを実現したホンダのパワーユニットでした。今回はメルセデス勢がMGU-Kをやや抑え気味にしたとはいえ、ホンダのデプロイメント(エンジンとMGU-Kの電動モーターを合わせたパワー)は優れていました。
しかも、今季のホンダは参戦する4自動車メーカーのうち、唯一パワーユニット交換によるペナルティがないという、信頼性の高さも実現していました。結局、フェルスタッペンは2位のボッタスに15.9秒も大差をつけて優勝。まさに圧勝でした。2位のボッタスに次いで3位にはハミルトンが入りました。
激戦のコンストラクターズ3位
シーズン終盤に入って、コンストラクターズ3位争いは激戦でした。トルコGPではレーシングポイント、バーレーンGPではマクラーレン、サクヒールGPではレーシングポイントと、まさにデッドヒート状態でした。
この最終戦でもまた激戦になりそうでしたが、レーシングポイントは序盤にペレスを失い劣勢に。
一方、マクラーレンはランド・ノリスが5位、カルロス・サインツJr.が6位に入り、10点を追う立場から再逆転。これでマクラーレンがコンストラクターズ3位の座を確保しました。
レーシングポイントは7点差で4位になりました。しかし、どちらも2年前にはランキング6位(マクラーレン)と7位(旧フォース・インディア/レーシングポイント)にいたチームで、今季ランキングの向上ぶりは目覚ましいものでした。
激動の2020シーズンを終えて
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、開幕戦オーストラリアGPが金曜日に中止となり、シーズン開幕は7月へ延期になりました。しかも7月からは超過密日程のカレンダーに。それでも、なんとか2020シーズンを終えました。残念なことにモナコGPや日本GPなど、いくつかのGPは開催できませんでした。
その反面、ニュルブルクリンク(第11戦アイフェルGP)、イモラ(第13戦エミリア・ロマーニャGP)、イスタンブール(第14戦トルコGP)といった最近F1を開催していなかったコースが復活したり、ムジェロ(第9戦トスカーナ・フェラーリ1000GP)、アウガルヴェ(第12戦ポルトガルGP)という初開催のコースでもレースが行われました。未来に向けて新たな開催地の可能性が探れたという点は、ポジティブだったと言えるかもしれません。
また、各ドライバーの個性がより際立ったレースもありました。たとえば直近2シーズンは下位のウィリアムズで苦戦していたジョージ・ラッセルです。彼は速いマシンに乗ると、とてつもなく速く、強いということもはっきり見えました(※第16戦サクヒールGPでは、ハミルトンの新型コロナウイルス陽性に伴い、ウィリアムズではなくメルセデスからハミルトンの代役として参戦した)。
一方、いきなり3戦だけマシンに乗せられても、うち2戦で入賞して10ポイントも稼ぎ出したニコ・ヒュルケンベルクの非凡さも見事でした(※第4戦イギリスGP、第5戦70周年記念GPでは新型コロナウイルス陽性となったセルジオ・ペレスの代役で、第11戦アイフェルGPでは同じく陽性となったランス・ストロールの代わりにレーシングポイントからスポット参戦した)。そのほかにも光ったドライバーたちもかなりいました。
そして第15戦バーレーンGPではロマン・グロジャンの火災をともなう大クラッシュがありました。が、HALO(ヘイロー:ドライバーの頭部保護装置)を含む現在のF1の安全性の高さを実証する形になり、グロジャンの命に別条はなく、数日で退院可能に。それでもこの事故はF1界にさらなる安全向上が必要というテーマが与えられるものでした。
まさに「禍転じて福となす」、2020年のF1はそんなシーズンでした。
マクラーレン、レーシングポイント、ルノーの好調ぶり。ホンダは2015年のF1復帰からの苦戦を経て、パワーと信頼性をかなり高レベルで両立できるところまで来ました。「終わりよければすべてよし」ともいえるシーズンでした。
この後、わずか3か月ほどでF1は2021シーズンを迎える予定です。2014年の小林可夢偉以来7年ぶりとなる日本人F1ドライバー、角田裕毅もアルファタウリから参戦します。
DAZNは2021年のF1も全戦・全セッションをLIVEで配信します。全23戦のとても楽しみなシーズンはもうすぐ。楽しみに待ちましょう!
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | オーストリアGP | 7月3日(金) ~ 4日(土) | 7月5日(日) |
第2戦 | シュタイアーマルクGP | 7月10日(金) ~11日(土) | 7月12日(日) |
第3戦 | ハンガリーGP | 7月17日(金) ~18日(土) | 7月19日(日) |
第4戦 | イギリスGP | 7月31日(金) ~ 8月1日(土) | 8月2日(日) |
第5戦 | 70周年記念GP | 8月7日(金) ~ 8日(土) | 8月9日(日) |
第6戦 | スペインGP | 8月14日(金) ~15日(土) | 8月16日(日) |
第7戦 | ベルギーGP | 8月28日(金) ~29日(土) | 8月30日(日) |
第8戦 | イタリアGP | 9月4日(金) ~ 5日(土) | 9月6日(日) |
第9戦 | トスカーナ・フェラーリ1000GP | 9月11日(金) ~12日(土) | 9月13日(日) |
第10戦 | ロシアGP | 9月25日(金) ~ 26日(土) | 9月27日(日) |
第11戦 | アイフェルGP | 10月9日(金) ~ 10日(土) | 10月11日(日) |
第12戦 | ポルトガルGP | 10月23日(金) ~24日(土) | 10月25日(日) |
第13戦 | エミリア・ロマーニャGP | 10月31日(土) | 11月1日(日) |
第14戦 | トルコGP | 11月13日(金) ~ 14日(土) | 11月15日(日) |
第15戦 | バーレーンGP | 11月27日(金) ~ 28日(土) | 11月29日(日) |
第16戦 | サクヒールGP | 12月4日(金) ~5日(土) | 12月6日(日) |
第17戦 | アブダビGP | 12月11日(金) ~ 12日(土) | 12月13日(日) |