文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
ドライの予選で見えたホンダパワー
開幕戦バーレーンGPから3週間のインターバルを経て、F1は第2戦エミリア・ロマーニャGPを迎えました。
初日のフリー走行では、開幕戦で発見したことや、課題に対する答えをマシンに盛り込んだところが多く見られ、さながら第2の開幕戦のようでもあるところ。
第2戦の開催コース「エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリサーキット(イモラ)」は、かつては高速型のサーキットとして知られていました。ですが1995年のコース改修から中速・低速のコーナーが増えた、ややテクニカルなコースに。それから細かなレイアウト変更などもあり、今日へと至っています。
それでもこのイモラは、F1全体のなかではやや高速型の展開となります。現在も1周のうちスロットルを全開(フルパワー)にする率は73~79%と、そのデータは高め。それでありながら中速、低速コーナーを安定して抜けるため、ダウンフォースを増やす工夫も必須のコース特性です。
空気抵抗を増やすことが重要でありながら、一方で高速区間ではスピードも欲しい。そのためには、ダウンフォースをある程度つけて抵抗が増えても、速度とタイムを稼ぐためにはパワーのあるほうがより有利に。こうしたところから、このイモラ・サーキットはパワーユニット出力の優位性が、カギを握るレースと言えるでしょう。
今回の予選では、メルセデスのルイス・ハミルトンがポールポジションを獲得しました。わずか0.035秒の僅差で2位にセルジオ・ペレス。そして0.087秒差の3位にマックス・フェルスタッペンと、2番手&3番手にレッドブル勢が続きました。
昨年のこのコースでの予選ポールポジションはメルセデスのバルテリ・ボッタスで、2位はハミルトン。トップから3位のフェルスタッペンは、このとき0.567秒もの差がついていました。2020年と比べると、メルセデスとホンダのパワーユニットは出力という点で、力が均衡しているようにも見えます。
さらに、アルファタウリのピエール・ガスリーも予選で5番手に。ホンダ勢が持ち前のパワー、速さを示した予選結果と言えるでしょう。
フェルスタッペンvsハミルトンの激しい戦い
決勝は、直前に降った雨で、ウェットコンディションでのスタートになりました。
スタート直後に3番手スタートのフェルスタッペンはハミルトンに並びかけ、ターン2~3でトップに躍り出ました。これには、ドライバーの技はもちろんですが、滑りやすい路面でも、とても良い発進加速を実現させたホンダのパワーユニットのセッティングも大きく貢献していたと言えます。
以後、フェルスタッペンvsハミルトンは一騎討ちの様相になっていきました。
路面は徐々に乾いた部分ができ始めるという難しいコンディションのなか、フェルスタッペンは27周目、ハミルトンは直後の28周目にピットストップをしてドライタイヤに換えます。先にドライへと履き替えたフェルスタッペンが結局トップを維持。ここでもフェルスタッペンの優位性が見えました。
ハミルトンはハイペースでフェルスタッペンを追います。ですがハミルトンはウィリアムズのジョージ・ラッセルを抜こうとして濡れた路面に乗り、トサコーナーでコースアウト。ノーズも壊して再びピットへ向かう事態に。
ところが、その直後にボッタスとラッセルが接触。コース上に破片が散らばったことで、レースは赤旗中断に。これでハミルトンは8位からレース再開できました。それでも、トップのフェルスタッペンははるか先。しかしここからハミルトンは、レース後半を通して数周おきにファステストラップを更新し、どんどん順位を上げていきます。
一方、フェルスタッペンもそれに対抗。互いに見える距離にはいないものの、ファステストラップの1ポイントをめぐって激しいバトルをずっと繰り広げていました。しかも、ちょっとでも走行ラインを外すとまだ濡れている路面で滑るという、極めて難しいコンディション。そんな状況下でありながら、超ハイレベルな戦いが継続している状況です。
ハミルトンは終盤に2位まで上がりましたが、結局トップのフェルスタッペンはハミルトンに22秒もの大差をつけて今季初優勝。ホンダにとっては1991年のアイルトン・セナ(マクラーレン・ホンダ)以来となるイモラでの勝利という、30年ぶりの戴冠となりました。
さまざまな光が見えたレース
今回のレースではフェルスタッペンとハミルトン以外にも輝いたところが多く見られました。まず3位になったランド・ノリス(マクラーレン)です。
終盤にはハミルトンに抜かれてポジションを3位に落としたノリスでしたが、ハミルトンの猛攻を何度もしのいだ頑張りはまさに圧巻でした。マクラーレンは金曜日のフリー走行ではあまり振るいませんでしたが、土曜日のフリー走行3回目では盛り返した感も。セッション後に語っていたように「金曜日の宿題」をやり遂げ、速さを増していたようです。
今回もフェラーリは好調を維持して、チャールズ・ルクレールとカルロス・サインツが4位と5位になり、2台そろっての入賞となりました。
フェラーリ今年のマシンSF21は、昨年よりも大幅に改善されたことが明確になってきました。とくに、このイモラでの結果は、今季のパワーユニット「065/6」が出力で大幅に改善されたことも示しています。
このほかにも決勝では不運な結果に終わったウィリアムズ勢でしたが、予選ではラッセル12位、ニコラス・ラティフィ14位と2台そろってQ2に進出し、最下位に沈んでいた昨季よりも大幅にマシンが速くなっていることがわかりました。
良さが出せなかった角田
一方でアルファタウリの角田裕毅にとっては、多くのことがうまくいかない週末だったと言えるでしょう。
まず予選のQ1序盤ではクラッシュしてしまいました。角田がクラッシュしたシケインは、下ってきて高速でターン14に進入します。安全に通過するため、速度を落としすぎると、ターン15より先の登りで遅くなり、タイムが落ちる特性のセクション。
そのため、ターン14~15のシケインは、ごく限られたラインに正確かつ高速で飛び込む必要があります。まさに、針の穴に糸を通すようなもので、とても繊細かつ難易度の高いところでした。
予選でのクラッシュにより決勝では最後尾スタートとなった角田でしたが、レース前半は着実に順位を上げ、レース中盤の赤旗中断時には9位まで順位を大きく上げていました。
レース再開直後の2コーナーで果敢にハミルトンを抜いて8位に上がりますが、そこでコースの濡れた部分に足をとられるようにしてスピン。これで角田は15位まで落ちてしまいます。そこからは安定したラップを刻み、最終順位は12位となりました。
結果としてスピンにより順位を大きく落とした角田でしたが、コース上の3つの区間タイムを速さ順で見ると、レース中の角田は第1セクターで5位、第2セクターが6位、第3セクターが7位で、上位勢並みの速さがありました。
角田はレース後にミスを悔やみながら「F1カーで初めてのウェットコンディション」と語っていました。結果的にイモラの週末は上手くいかなかった部分もありましたが、彼はここからきっと大きく改善してくれるはずです。
それは昨年のF2でも証明済みで、序盤はある程度苦戦しながらも学習を重ね、角田はシーズン中に大きく成長を遂げました。今季、初めて臨んでいるF1でもレースを経験するたび、より速さを見せてくれるでしょう。
僅差の戦いで今季の興味がさらに膨らむ
今回はレッドブルのフェルスタッペンが勝ち、メルセデスのハミルトンが2位。これは開幕戦バーレーンGPとは逆の結果になりました。
第2戦終了時点でハミルトンが44ポイントでドライバーズランキングでトップ。2番手は43ポイントのフェルスタッペンと、両者にはわずか1ポイントしか差がありません。これは第2戦でハミルトンがファステストラップを獲得したことにより、その1ポイントによる差となっています。
予選でもレースでもメルセデスとレッドブル・ホンダとの差がほぼなくなってきていて、2021年のレッドブルは昨年までのように、メルセデスの独り勝ちを許さない状況まで力をつけてきました。
今回は不発に終わったアルファタウリ・ホンダも予選やレース中のラップタイムでは、確実にトップ10圏内にいます。マクラーレンとフェラーリも、明らかに速くなっている。ウィリアムズやアルファロメオも、昨季を上回るポジションでの戦いを見せるなど、全体に差が少ない接戦になってきています。
次の第3戦ポルトガルGP以降もまた、熱く激しい戦いとなりそうです。お楽しみに。
過去のアーカイブ
【連載】小倉茂徳の視点
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日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月26日(金) ~27日(土) | 3月28日(日) |
第2戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月16日(金) ~17日(土) | 4月18日(日) |
第3戦 | ポルトガルGP | 4月30日(金) ~5月1日(土) | 5月2日(日) |
第4戦 | スペインGP | 5月7日(金) ~ 8日(土) | 5月9日(日) |
第5戦 | モナコGP | 5月20日(木) ~22日(土) | 5月23日(日) |
第6戦 | アゼルバイジャンGP | 6月4日(金) ~5日(土) | 6月6日(日) |
第7戦 | フランスGP | 6月18日(金) ~ 19日(土) | 6月20日(日) |
第8戦 | シュタイアーマルクGP | 6月25日(金) ~26日(土) | 6月27日(日) |
第9戦 | オーストリアGP | 7月2日(金) ~ 3日(土) | 7月4日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月16日(金) ~ 17日(土) | 7月18日(日) |
第11戦 | ハンガリーGP | 7月30日(金) ~31日(土) | 8月1日(日) |
第12戦 | ベルギーGP | 8月27日(金) ~28日(土) | 8月29日(日) |
第13戦 | オランダGP | 9月3日(金) ~ 4日(土) | 9月5日(日) |
第14戦 | イタリアGP | 9月10日(金) ~ 11日(土) | 9月12日(日) |
第15戦 | ロシアGP | 9月24日(金) ~25日(土) | 9月26日(日) |
第16戦 | トルコGP | 10月8日(金) ~ 9日(土) | 10月10日(日) |
第17戦 | アメリカGP | 10月22日(金) ~ 23日(土) | 10月24日(日) |
第18戦 | メキシコGP | 11月5日(金) ~ 6日(土) | 11月7日(日) |
第19戦 | サンパウロGP | 11月12日(金) ~ 13日(土) | 11月14日(日) |
第20戦 | カタールGP | 11月19日(金) ~ 20日(土) | 11月21日(日) |
第21戦 | サウジアラビアGP | 12月3日(金) ~ 4日(土) | 12月5日(日) |
第22戦 | アブダビGP | 12月10日(金) ~ 11日(土) | 12月12日(日) |