文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
イベリア半島での2連戦目スペインGP
第3戦ポルトガルGPに続き、その翌週に第4戦スペインGPが開催されました。接戦に次ぐ接戦となっている今年のF1ですが、やはりこのスペインGPでもエキサイティングな展開となりましたね。
予選ではメルセデスのルイス・ハミルトンが通算100回目のポールポジションを獲得。しかし、予選2位のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とのタイム差は僅か0.036秒と、僅差の決着でした。またしても優勝争いは、メルセデスvsレッドブルの様相と感じさせるもの。
決勝のスタートは、2番グリッドから飛び出したフェルスタッペンが1コーナーでインを突き、トップに立ちました。しかもそのスピードは立ち上がりから際立ったもので、1周目終了時点で2位ハミルトンとの差を1秒以上に広げるという状況に。これではハミルトンがフェルスタッペン相手にDRSさえ使うこともできません。
DRSは前の車両と1秒差以内になると、指定された場所(スペインGPのコースではメインストレートとターン9~10の2カ所)でリヤウイングのフラップが上がり、空気抵抗を減らすもの。この仕組みが働くことで、マシンのスピードは時速20kmほど上昇します。DRSがあることでマシンの追い抜きが活発化。それだけにライバル間の争いは、DRSをいかに利用するか、そして利用させないかが大きなポイントと言えます。
8周目にはトラブルでコース脇に止まった車両を排除するために、セーティカーが導入されました。これによりフェルスタッペンとハミルトンの差は0.6秒ほどに縮まりました。セーフティーカー明けの11周目、レース再開後もフェルスタッペンがトップを維持。翌12周目には再びフェルスタッペンはハミルトンのとの差を1秒以上に引き離します。
24周目の終わりにフェルスタッペンはピットに入り、タイヤをソフトからミディアムに交換します。タイヤに無理を強いなければゴールまで走り切れる状況でした。
一方、ハミルトンも28周目の終わりにピットに入り、フェルスタッペンと同じミディアムタイヤを選択。これで二人ともゴールまでコース上で戦うことになるものと見られました。
このピットストップ終了後、この時点での順位は1位フェルスタッペン、2位ハミルトンになりました。ですが、ハミルトンはここから巻き返しに向け、予想外の戦略に出たのです。
追い詰めるハミルトン
フェルスタッペンとピットから出たハミルトンの差は5秒ほど。そこからハミルトンは1ラップごとに0.5秒~1秒ほどフェルスタッペンを上回るペースで飛ばしました。これにより35周目にはフェルスタッペンとの差を約1秒までに詰めます。
それでも、カタルーニャサーキットは追い抜きが難しいという特性があるため、まだ先行するフェルスタッペンが有利な状況にありました。
するとハミルトンは42周目の終わり、再びピットストップを行ったのです。ハミルトンは予選で3周だけ使ったほぼ新品のミディアムタイヤに交換し、コースへ戻ることに。
これでハミルトンとフェルスタッペンとの差は約23秒まで開きました。2度目のタイヤ交換により、ハミルトンはゴールまでハイペースのまま走れる状況に。実際、ハミルトンはピットを出た直後の周回から区間タイムベストを叩き出し、続く周回でもベストラップタイムを連発。フェルスタッペンとの差をぐんぐん詰めていきます。
レース戦略としては、ライバルが動いたらそれに合わせることも重要です。フェルスタッペンもハミルトンにすぐ対応して2回目のピットストップをしたかったはずですが、レッドブル陣営&フェルスタッペンは動けなかった。
なぜなら、フェルスタッペンには戦えるタイヤのストックがソフトタイヤしか残っていなかったのです。残りの周回数を考えると、直後にピットストップしてもソフトタイヤでゴールまで走り切るのはかなり難しい状況でした。
また、2度目のピットストップの後にハミルトンがハイペースでプッシュしたことも大きかった。フェルスタッペンとの差をすぐさま22秒以下まで詰めたことにより、フェルスタッペンがピットストップを敢行しても、コース復帰後にはハミルトンにトップの座を奪われる計算に。つまり、フェルスタッペン陣営は柔軟な戦略変更ができず、ミディアムでそのまま走り切るしか選択肢がなかったということです。
終盤、タイヤが厳しいフェルスタッペンとハイペースで飛ばしたハミルトンの差は0.5秒にまで接近。そして、59周目の最終コーナーから60周目のメインストレートでハミルトンは一気にフェルスタッペンを抜き去り、トップに立ちました。これで勝負は決着しハミルトンの大逆転です。
ハミルトンとメルセデスチームは1回目のピットストップから、抜きにくいコースでどうライバルを攻略するか様々なアイデアを熟考していたようです。その結果、トップのフェルスタッペンを徐々に不利な局面へと追い込み「詰ませる」という、まるで将棋やチェスの対戦のような巧妙な戦略を立案、実行していたのでした。
両者は数秒~20秒あまりの差を走行している状況でしたが、実はレース終了時点でトップに立つため、タイム差を睨みながらその間も絶え間ない激しいバトルをしていたのです。
フェルスタッペンはハミルトンにトップを奪われた直後、ピットで新品のソフトタイヤに履き換え、2位を維持しながらファステストラップの1ポイントを奪う戦略に切り替えました。これはチャンピオン獲得を考えると、とにかく1点でも多く稼ぎたいという考え。今季のタイトル争いがいかに僅差の戦いであるかがうかがえました。
イタリア勢の明暗
今回はフェラーリの好調ぶりがはっきり現れました。
予選でチャールズ・ルクレールが4位、カルロス・サインツが6位につけました。決勝でも、ルクレールは4位、サインツが5位でフィニッシュしています。
昨年のフェラーリは決定的にパワーが足りず、ストレートでのスピードを上げるために空気抵抗を減らそうとするとダウンフォースが足りなくなってコーナーで不安定になり、どうあがいてもラップタイムが遅くなってしまうというマシンでした。
ですが2021年はしっかりダウンフォースをつけていて、コーナー区間ではかなりの速さを引き出しています。
このカタルーニャサーキットは、1周のなかでのスロットル(アクセル)全開率が59~69パーセントと、パワーが重要になります。今回のフェラーリの結果は、今年パワーが増強されたぶん、多くのダウンフォースを付けられるようになったことや、車体そのものが扱いやすくなったという傾向が如実に現れていたと言えるでしょう。
一方、同じくイタリアを本拠地とするアルファタウリはうまくいかない週末でした。角田裕毅は7周目に燃圧の低下からエンジンが止まり、コース脇にストップ。不本意な形でのリタイヤとなりました。F1マシンの燃料は、燃料タンクからエンジンへポンプで圧送されます。このどこかで燃料の圧力が下がり、エンジンへ燃料がいかなくなったようです。
ピエール・ガスリーはスタートのときに指定されたスタート位置の枠を超えて停車したため、レース中に5秒のタイムペナルティが科されてしまいます。さらにピットストップの作業の遅れもあり、プラス2秒ほどロスしました。この2度の苦難で大きく順位を落としましたが、追い上げた結果10位フィニッシュを果たしています。
第5戦は伝統のモナコへ
さて、次戦は伝統の第78回モナコGPです。1929年から続くモンテカルロの市街地コースは、現代のF1マシンにとってはコース幅がとても狭く、追い抜きが極めて難しいところ。
それだけにいつも以上にスタート位置が重要となり、予選からより白熱したものになります。曲がりくねったコースはスロットルの全開率が低めで、各チームのパワー差を小さくするという傾向も。
また、マシンの動きには俊敏さも必要となります。となると、ポルトガル、スペインでも好調になってきていたアルピーヌにも有利な展開となるかもしれません。
モンテカルロ市街地コースでの一戦は、コース上のいたるところで熱く激しい戦いが繰り広げられるでしょう。各チームの戦いが接戦となっていることもあり、2年ぶりのモナコ決戦は見逃せません。
過去のアーカイブ
【連載】小倉茂徳の視点
- 第24回・2021年の開幕戦は巧みな王者が頂点に…新時代を予感させる名勝負も連発|F1
- 第25回・第2戦イモラは難しいコンディションも、各チームの奮闘ぶりが光る一戦に|F1
- 第26回・2強による激しい戦いが激化…レースの醍醐味が凝縮されたポルトガルGP|F1
関連記事
- 【2021】F1ドライバーズ&コンストラクターズランキングまとめ|F1
- 【2021】 F1カレンダー・日程|放送・配信|視聴方法|DAZN番組表
- 【2021】F1コンストラクターズ&ドライバーズのラインナップは?|F1
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。
● 【番組表】直近の注目コンテンツは?
● 【お得】DAZNの料金・割引プランは?
チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月26日(金) ~27日(土) | 3月28日(日) |
第2戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月16日(金) ~17日(土) | 4月18日(日) |
第3戦 | ポルトガルGP | 4月30日(金) ~5月1日(土) | 5月2日(日) |
第4戦 | スペインGP | 5月7日(金) ~ 8日(土) | 5月9日(日) |
第5戦 | モナコGP | 5月20日(木) ~22日(土) | 5月23日(日) |
第6戦 | アゼルバイジャンGP | 6月4日(金) ~5日(土) | 6月6日(日) |
第7戦 | フランスGP | 6月18日(金) ~ 19日(土) | 6月20日(日) |
第8戦 | シュタイアーマルクGP | 6月25日(金) ~26日(土) | 6月27日(日) |
第9戦 | オーストリアGP | 7月2日(金) ~ 3日(土) | 7月4日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月16日(金) ~ 17日(土) | 7月18日(日) |
第11戦 | ハンガリーGP | 7月30日(金) ~31日(土) | 8月1日(日) |
第12戦 | ベルギーGP | 8月27日(金) ~28日(土) | 8月29日(日) |
第13戦 | オランダGP | 9月3日(金) ~ 4日(土) | 9月5日(日) |
第14戦 | イタリアGP | 9月10日(金) ~ 11日(土) | 9月12日(日) |
第15戦 | ロシアGP | 9月24日(金) ~25日(土) | 9月26日(日) |
第16戦 | トルコGP | 10月8日(金) ~ 9日(土) | 10月10日(日) |
第17戦 | アメリカGP | 10月22日(金) ~ 23日(土) | 10月24日(日) |
第18戦 | メキシコGP | 11月5日(金) ~ 6日(土) | 11月7日(日) |
第19戦 | サンパウロGP | 11月12日(金) ~ 13日(土) | 11月14日(日) |
第20戦 | カタールGP | 11月19日(金) ~ 20日(土) | 11月21日(日) |
第21戦 | サウジアラビアGP | 12月3日(金) ~ 4日(土) | 12月5日(日) |
第22戦 | アブダビGP | 12月10日(金) ~ 11日(土) | 12月12日(日) |