文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
特別な一戦モナコ
モナコGPは1929年に第1回が開催され、今年が第78回。モンテカルロの市街地コースは、ヘアピンコーナーを筆頭に、低速できついコーナーが連続します。
最高速度も時速290kmほど。そのため、各チームともマシンを「モナコスペシャル」とも呼ばれる“モナコ専用”の仕様にするのがモナコGPの特徴となります。
それは空気抵抗が増えても構わないのでダウンフォースをできる限り稼ぎ出し、ブレーキングやコーナリングで安定させ、フロントタイヤの向きをより大きく変えられるようにするため。低速でもブレーキやパワーユニットがよく冷えるよう冷却性能を優先する必要もあります。市街地路面特有のバンプに乗っても、車体が跳ねないようにサスペンションを通常よりも柔らかくするなど、さまざまな手を加えることになるのです。
このようにモンテカルロにはいつもと大きく異なる仕様のマシンを持ち込むので、その仕様がうまくコースに合うかどうかで、モナコGPは異なる展開や勢力図になる点が要注目なところと言えるでしょう。
予選から好調なフェラーリ
モナコGPは決勝中の追い抜きが極めて難しいため、予選で上位につけて、少しでも前のポジションからスタートすることが極めて重要となります。そのため、予選はいつも以上に白熱した展開になりました。
その予選で好調だったのはフェラーリ勢。チャールズ・ルクレールがトップタイムを叩き出しました。ですがその予選Q3最後のアタックで、ルクレールがクラッシュしたために予選が中断になってしまう事態に。
その後ろでアタック中だったドライバーには、ルクレールを上回るチャンスを失ってしまったと悔やむ人も。同じフェラーリのカルロス・サインツがそのひとりでした。ですが結果としてルクレールが予選1位、サインツが4位と、フェラーリはモナコとの相性の良さを見せていました。
予選では右フロントをウォールにぶつけ、マシンを壊してしまったルクレールでしたが、日曜の決勝までにはなんとかマシンの修復ができたようです。ところが、ピットからスターティンググリッドへと向かう走行中、マシンが不調となりルクレールはDNS(出走できず)となってしまいました。
左側のドライブシャフト(駆動軸)のトラブルが原因のようです。土曜日のクラッシュで壊れた車体の右側を重点的に修理点検していたのですが、左側の問題を見落とした形になってしまいました。
決勝レースを前に、ルクレールにとっては1931年のルイ・シロン以来、90年ぶりとなるモナコ人によるモナコGP優勝という夢もついえる結果に。ルクレールとフェラーリとモナコのファンにとっては最悪の結果だったかもしれません。ただし、グリッド最終決定後のトラブルだったため、第78回モナコGPのポールポジションは公式記録として残ります。
圧倒的優位のフェルスタッペン&レッドブル
決勝では、結果的に最前列からスタートとなったレッドブルのマックス・フェルスタッペンが、スタート直後の1コーナーからトップの座を守り、メルセデスのバルテリ・ボッタス以下をどんどん引き離す展開に。
フェルスタッペンの駆るレッドブルは加速で優れていました。これはレッドブルが持ち込んだモナコ仕様のマシンが良かったという点が挙げられます。ドライバーのスロットルペダル操作を、パワーの増減として忠実に発揮するという特性が際立っていました。これはまさにホンダが得意とするお家芸であり、操縦性の良さが活きていた部分だと言えるでしょう。
レース序盤にしてフェルスタッペンは圧倒的な主導権を握りました。そして上位勢がピットストップをほぼ終わらせたのを見届けてから、34周目にピットストップ。ここでピット作業の速さで群を抜くレッドブルチームが、フェルスタッペンを2秒02という最速作業時間で送り出し、再び2位に6秒もの大差をつけてコース復帰となりました。
モナコのコース特性もあり、こうなるともはやフェルスタッペンは盤石の状態です。あとは危なげなくファイナルラップまでトップを走り続け、そのまま今季2勝目をマーク。F1キャリアで初となるドライバーズランキングトップに躍り出ています。
苦戦が続いたメルセデス
一方、今回のモナコスペシャルでうまくいかなかったのがメルセデスチームでした。持ちこんだモナコ仕様のマシンはタイヤの温まりが遅いマシンとなり、予選ではボッタスが3番手につけたものの、一方でルイス・ハミルトンはアタック時のミスもあり、予選7位に沈みました。
決勝でもボッタスはスタートから2番手の座をキープしますが、トップのフェルスタッペンにひき離されていきます。
そしてボッタスは30周目、ピットストップ時に右前タイヤのホイールナットをレンチで削ってしまい、ナットとタイヤが外れなくなってしまいました。これでボッタスはまさかのリタイヤを喫してしまいます。
7番グリッドからスタート(実質的には6番手)のハミルトンは、序盤からアルファタウリのピエール・ガスリー後ろに抑え込まる展開となりました。これでハミルトンは巧みに防戦するガスリーの後ろで、やや遅めのペースに付き合わされてしまうことに。
メルセデスチームはハミルトンを29周目にピットストップさせ、これでガスリーの前に出させようと図ります。ところが、次の周にガスリーもピットストップ行い、再びハミルトンの前でコース復帰となりました。
メルセデスチームは残り周回数を考えてハミルトンにハードタイヤを装着させたのですが、今回メルセデスはタイヤの温まりがよくなかったこともあり、ピットからコース復帰後は走り出しからペースが上がらなかったようです。
その結果、ガスリーのみならずセバスティアン・フェテル、セルジオ・ペレスにも先行される展開となりました。抜けないコースになす術がないハミルトンは7位のまま。67周目にソフトタイヤへと交換し、ファステストラップの1点を狙うことがポイントを稼ぐという点で精一杯できることだったと言えるでしょう。
F1の未来が楽しみな表彰台
フェルスタッペンは2位に9秒近い大差をつけての優勝となりました。フェルスタッペンはモナコでの初表彰台と初優勝を同時に達成する形に。
ホンダにとっては1992年以来29年ぶり、無限ホンダを入れても1996年以来のモナコGP優勝となりました。そしてこの勝利は、ホンダにとっては1965年メキシコGPでのF1初優勝から通算80勝目でもあります。
2位は今回好調だったフェラーリのサインツでした。3位はマクラーレンのランド・ノリスが続きます。
フェルスタッペン23歳、サインツ26歳、ノリス21歳と、20代のドライバーが表彰台独占となりました。歴史と伝統のモナコGPにおける若い選手たちの表彰台は、F1の未来と新たな歴史への期待と希望にもつながるものとなりました。
4位は途中驚速なペースで優位な状況を作り出したペレスが入り、5位は今回好調だったアストン・マーティンのフェテルでした。そして6位はハミルトンの猛攻を抑えきる見事な走りをしたガスリーでした。
ガスリーと同チームの角田裕毅は、レース終盤の66周目にソフトタイヤに履き換えたあと、最速のファステストラップを叩き出しました。このあと69周目にハミルトンがファステストラップを更新しますが、角田は決勝で2番目に速いラップタイムを記録することに。スタートと同じ16位フィニッシュとなった角田でしたが、初めてのモナコで良い収穫を得たようです。
次戦は異なる市街地戦
さて、次回も市街地コースのアゼルバイジャンGPです。ここはモナコとは対照的なところです。2016年(※初年度はヨーロッパGPとして開催)からの新しい開催地で、カスピ海沿いには超高速な区間があり、最高速度は時速350キロに達します。超高速区間と低速区間が同居するセッティングが難しいコースでもあります。
フェラーリのようにモナコで好調だったチームが好調を維持できるのか? メルセデスのようにモナコで不調だったチームが復調してくるのか? レッドブルの優位性は? 若い選手の成長は? 経験ある選手たちの反撃は? などなど、この後のシーズンに向け、興味深いレースとなるでしょう。
過去のアーカイブ
【連載】小倉茂徳の視点
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日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月26日(金) ~27日(土) | 3月28日(日) |
第2戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月16日(金) ~17日(土) | 4月18日(日) |
第3戦 | ポルトガルGP | 4月30日(金) ~5月1日(土) | 5月2日(日) |
第4戦 | スペインGP | 5月7日(金) ~ 8日(土) | 5月9日(日) |
第5戦 | モナコGP | 5月20日(木) ~22日(土) | 5月23日(日) |
第6戦 | アゼルバイジャンGP | 6月4日(金) ~5日(土) | 6月6日(日) |
第7戦 | フランスGP | 6月18日(金) ~ 19日(土) | 6月20日(日) |
第8戦 | シュタイアーマルクGP | 6月25日(金) ~26日(土) | 6月27日(日) |
第9戦 | オーストリアGP | 7月2日(金) ~ 3日(土) | 7月4日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月16日(金) ~ 17日(土) | 7月18日(日) |
第11戦 | ハンガリーGP | 7月30日(金) ~31日(土) | 8月1日(日) |
第12戦 | ベルギーGP | 8月27日(金) ~28日(土) | 8月29日(日) |
第13戦 | オランダGP | 9月3日(金) ~ 4日(土) | 9月5日(日) |
第14戦 | イタリアGP | 9月10日(金) ~ 11日(土) | 9月12日(日) |
第15戦 | ロシアGP | 9月24日(金) ~25日(土) | 9月26日(日) |
第16戦 | トルコGP | 10月8日(金) ~ 9日(土) | 10月10日(日) |
第17戦 | アメリカGP | 10月22日(金) ~ 23日(土) | 10月24日(日) |
第18戦 | メキシコGP | 11月5日(金) ~ 6日(土) | 11月7日(日) |
第19戦 | サンパウロGP | 11月12日(金) ~ 13日(土) | 11月14日(日) |
第20戦 | カタールGP | 11月19日(金) ~ 20日(土) | 11月21日(日) |
第21戦 | サウジアラビアGP | 12月3日(金) ~ 4日(土) | 12月5日(日) |
第22戦 | アブダビGP | 12月10日(金) ~ 11日(土) | 12月12日(日) |