【小倉茂徳の視点】第10回・大波乱のモンツァ…ガスリーの劇的F1初勝利は「まさにレース！」｜F1

文・小倉茂徳（おぐら・しげのり）

モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。

今年のF1イタリアGPは、とても劇的で歴史として語り継がれるような展開になりました。

不運だったハミルトン－ピット閉鎖で流れが変わる

このイタリアGPから予選と決勝でパワーユニットのモード変更をできなくするルールが導入されました。

これは主に各チームにおける力の差を踏まえ、メルセデスの圧勝を抑えようとする目論見でした。ところが、予選ではルイス・ハミルトンがポールポジションを獲得。さらに決勝でも後続をぐんぐん引き離し、10周目には6秒近い大差をつけていました。結局、やはりメルセデスとハミルトンの強さは変わらないのかと思われました。

ところがハースのケビン・マグヌッセンがピットレーンへの進入路脇に停まりリタイヤ。この車両の排除のためにセーフティカーが入ります。20周から21周目のピットストップに都合の良いタイミングでした。

トップのハミルトンはすぐさまピットに向かい、タイヤ交換を済ませます。ところが、ハミルトンがピットレーンに入るわずか12秒前にピットレーン閉鎖が宣告されていました。

これでハミルトンは、ピットレーン閉鎖を無視したとして10秒間のストップアンドゴーという極めて重いペナルティを受けました。

赤旗がレースの流れをさらに変える

さらに24周目、セーフティーカー明け直後にチャールズ・ルクレールが高速の最終コーナーで激しいクラッシュ。幸いルクレールは無事でした。F1がこの四半世紀の間に成し遂げてきた数々の安全対策の成果でした。

このクラッシュでレースは赤旗中断。レースは27周目から再スタートとなりました。レース再開後トップのハミルトンはピットでペナルティを消化。最後尾へと落ちます。

そして、トップはアルファタウリのピエール・ガスリーとなりました。ガスリーはそこから逃げに入ります。

初優勝をかけた大勝負

トップのまま逃げ切ろうとするガスリーを、2位に上がったカルロス・サインツJr.が猛然と追いかけます。

サインツのマクラーレンは高速のモンツァに合わせてストレートで速いセットにしていました。これでストレートが主成分の第1と第3区間でガスリーとの差をつめてきます。一方、ガスリーはコーナーとその脱出で速いセットにしたマシンで、コーナーが主成分の第2区間で逃げようとします。

ガスリー24歳、サインツJr.26歳。ともに初優勝をかけた一騎打ちとなりました。サインツJr.は残り10周の時点で2.6秒だったガスリーとの差をどんどん縮めてきます。ガスリーもコーナーで必死に逃げます。どちらも全力をかけた走り、些細なエラーも許されない走りで、戦います。

ラスト2周でその差は1秒を切り、さらにサインツJr.が迫ります。しかし、ガスリーが0.4秒差で逃げ切り、初優勝。最後は前週ベルギーGPの際にガスリーが献花した故アントワン・ユベールにあと押しされたような加速と勢いでした。

そして、逃げも逃げたり、攻めも攻めたりの名勝負。まさにレース！という歴史に残るような展開でした。ガスリーは、1996年モナコGPでのオリヴィエ・パニス（リジェ・無限ホンダ）以来のフランス人優勝でした。

アルファタウリチームは、ホンダとパートナーとなって今回が50戦目でしたが、これでホンダとの初優勝。前身のトロロッソ時代を入れると、2008年のイタリアGPでのセバスチャン・ベッテル初優勝以来、チーム2勝目となりました。

表彰台は優勝ガスリー、2位サインツ、3位に21歳のランス・ストロールという、若く、新鮮な顔ぶれになりました。

頑張ったハミルトンとライコネン

ペナルティで最後尾に落ちたハミルトンは、今日のレースはもうダメだと思われました。しかし、そこから鬼神の追い上げを見せ、最後にはトップから17秒遅れの7位でした。もしももっと軽いペナルティだったら、表彰台か優勝争いをしそうな勢いの、心技体が揃った35歳でした。

レース再開後に光った人としてライコネンの頑張りも上げましょう。再スタートで2位だったライコネンは、その後も戦闘力で劣るアルファロメオのマシンで上位に踏みとどまろうとします。

しかし、終盤にタイヤの寿命が近づくと、つぎつぎに順位を落とし、最後は13位でした。それでも、非力なマシンで若い選手たちに戦い続けた最年長40歳の姿は、ファイターとして見事なものでした。

F1初開催のムジェロへ

こうしてF1第8戦イタリアGPは、さまざまな興奮と感動を残しました。でも、その余韻も消えないうちに、F1は今週末にトスカーナGPとなります。

開催地のムジェロサーキットは、F1のレース初開催で大部分のチームとマシンにとって未知のコース。地元のフェラーリはここで1000GP目となる記念のレースを迎えます。

二輪のMotoGPではおなじみの高速型のサーキットで、F1はどんな戦いをするのでしょう？

どうぞお楽しみに。

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