文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
F1初開催のムジェロ
2020年のF1第9戦は、イタリアのムジェロサーキットで「トスカーナ・フェラーリ1000GP」として開催されました。
サーキットは"ルネサンスの都”フィレンツェにほど近い、ムジェロサーキット。F1の公式戦が開催されるのは、今回が初めてでした。
フェラーリの記念すべき1000GP
このムジェロサーキットは、フェラーリが所有するサーキット。フェラーリはここで、参戦1000GP目を迎えました。
今回はフェラーリが会社(法人)になって以降、世界選手権がかかったグランプリの1000戦目ということでした。
その偉大な歴史を記念するように、フェラーリは2台のSF1000を濃い赤にしてきました。えんじ色にも見える濃い赤色は、まさにこの1000GPの始まり、1950年のモナコGPに参戦したときの125F1や、戦前のスクーデリア・フェラーリのマシンに塗られた色を再現していました。
アクシデントに次ぐアクシデント
ムジェロは、高速型でエキサイティングな走りができるコースでしたが、F1にはやや幅が狭いところも難点でした。
スタート直後のオープニングラップで最初のアクシデントが起きました。レッドブルのマックス・フェルスタッペンがパワーユニットの不調で加速が鈍り、それで後続が行き場を失う状態で、多重接触となりました。
この混乱のなかでアルファタウリのピエール・ガスリーも巻き込まれ、フェルスタッペンとともにリタイヤになってしまいました。
これで1回目のセーフティカーが入りますが、その再スタートのメインストレート上でまた多重衝突が発生。
『DAZN』で配信されている「F1ラボ#9」でもお話ししていますが、先頭グループはルール通りの動きをしていました。ですが後続勢が最終コーナーのあたりからフル加速をしてしまったことが多重クラッシュの原因でした。これでレースは赤旗中断となりました。
レースはふたたびスタートしますが、レース終盤に入るところでレーシングポイントのランス・ストロールがリヤタイヤのカット(傷)から発生したパンクで、クラッシュ。これで、ふたたびレースは赤旗中断です。
ハミルトンvsボッタス
2度目の中断後の再スタートで優位に立ったのはハミルトンでした。
ハミルトンにチャンピオン争いを挑むには、そろそろ後がなくなりそうなボッタス。最初のスタートではうまくハミルトンの前に出たのですが、赤旗中断。2度目、3度目のスタートではハミルトンに競り負けてしまいました。
中速、高速のコーナーが多いムジェロは、速く走るのにコーナーでのダウンフォースが欲しいところです。
ところが、追う立場になると、前のマシンの後ろにできる目に見えない航跡のような空気の乱れに入ってしまいます。
すると、追う側の車体はその乱れた空気で翻ろうされ、コーナーで遅くなってしまいます。そればかりか、ダウンフォースが減って車体が滑ることで、タイヤも痛めることに。
これでボッタスはハミルトンを攻略できず、2位に終わりました。それでも今回のボッタスの追撃はすさまじく、ハミルトンもレース後ほっとしたような表情になったほどでした。
新たなスター、アルボン
前回のイタリアGPでは、アルファタウリのガスリーがF1初優勝。レーシングポイントのランス・ストロールも初の3位表彰台に上がりました。
そしてムジェロでも新たな初表彰台ドライバーが誕生しました。それは、3位となったレッドブルのアレックス・アルボンでした。
終盤のスプリント戦の中で、ルノーのダニエル・リカルドを抜いて3位になると、2位のボッタスも脅かすハイペースでした。
昨年中盤のベルギーGPからガスリーと入れ替わり、トロロッソ(現:アルファタウリ)からレッドブルに加入したアルボン。レッドブルのマシンにやや手を焼いていたようでしたが、徐々に持ち前の速さを出して、成績も上げてきていました。
英国育ちながらタイ国籍のドライバーであるアルボンは、F1史上初のタイ人の表彰台を実現しました。F1では、1950年代にタイの王族のプリンス・ビラという選手が活躍していましたが、プリンス・ビラの世界選手権での成績は4位が最上位でした。アルボンはプリンス・ビラ以来となるタイ人のレギュラードライバーです。
アルボンが、2016年のGP3(現:F3)時代にはチャールズ・ルクレールと激しくチャンピオンを争った仲だったことや、2018年のF2時代にはジョージ・ラッセル、ランド・ノリスに続くランキングトップ3にもなっていたのは、DAZNでご覧の皆さんにはご存じのことと思います。
常に積極果敢な走りが得意なアルボンがその力を出してきたことで、今後のF1はより面白くなっていくでしょう。
第10戦の舞台ロシア・ソチへ
さて、F1は1週の休みをおいて、ロシアのソチに向かいます。
ソチのコースは、高速区間と低速区間が同居するセッティングが難しいコース。最適なセッティングを見つけて最適なドライビングしたドライバーが有利となります。
このソチでは2014年の初開催以来、常にメルセデスが勝ち続けていますが、ハミルトンvsボッタスの戦いはどうなるでしょう?
それとも、メルセデスを止めるチームが出てくるのか?
さらに激しさを増した中団グループの戦いは?
次の第10戦ロシアGPも見逃せないところがいっぱいです。
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日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | オーストリアGP | 7月3日(金) ~ 4日(土) | 7月5日(日) |
第2戦 | シュタイアーマルクGP | 7月10日(金) ~11日(土) | 7月12日(日) |
第3戦 | ハンガリーGP | 7月17日(金) ~18日(土) | 7月19日(日) |
第4戦 | イギリスGP | 7月31日(金) ~ 8月1日(土) | 8月2日(日) |
第5戦 | 70周年記念GP | 8月7日(金) ~ 8日(土) | 8月9日(日) |
第6戦 | スペインGP | 8月14日(金) ~15日(土) | 8月16日(日) |
第7戦 | ベルギーGP | 8月28日(金) ~29日(土) | 8月30日(日) |
第8戦 | イタリアGP | 9月4日(金) ~ 5日(土) | 9月6日(日) |
第9戦 | トスカーナ・フェラーリ1000GP | 9月11日(金) ~12日(土) | 9月13日(日) |
第10戦 | ロシアGP | 9月25日(金) ~ 26日(土) | 9月27日(日) |
第11戦 | アイフェルGP | 10月9日(金) ~ 10日(土) | 10月11日(日) |
第12戦 | ポルトガルGP | 10月23日(金) ~24日(土) | 10月25日(日) |
第13戦 | エミリア・ロマーニャGP | 10月31日(土) | 11月1日(日) |
第14戦 | トルコGP | 11月13日(金) ~ 14日(土) | 11月15日(日) |
第15戦 | バーレーンGP | 11月27日(金) ~ 28日(土) | 11月29日(日) |
第16戦 | サクヒールGP | 12月4日(金) ~5日(土) | 12月6日(日) |
第17戦 | アブダビGP | 12月11日(金) ~ 12日(土) | 12月13日(日) |