文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
レッドブル向きなコースでの戦い
第7戦フランスGPの舞台は南フランスのポール・リカールサーキット。ストレートが3本あり、T10シーニュ、F12ル・ボーセに代表される、高速コーナーが特徴のトラックです。
ストレートでのスピードを稼ぐためには、ウイングを寝かせて空気抵抗を減らしたい。その反面、コーナーではウイングを立て気味にして、空気の力で車体とタイヤを路面に押し付けるダウンフォースが欲しいといったところ。
ここで最適解を見つけたのは、レッドブルでした。レッドブルのマシンは車体の底面と路面との間の気流を使ってダウンフォースを生み出す「グラウンドエフェクト」に長けています。
この方法は、ウイングで同じ量のダウンフォースを稼ぐよりも、空気抵抗が少なくて済むという大きなメリットが。
また、グラウンドエフェクト技術は、路面に凸凹が少なく車体の姿勢変化が少ないコースほど効果を発揮するという特性があります。ポール・リカールの路面は「ビリヤード台のように滑らか」とも言われていることから、レッドブルRB16Bは前後のウイングをやや寝かし、空気抵抗を減らしたセッティングで臨んだようです。
ストレートでのスピードを稼ぎながら、コーナーで必要なダウンフォースをグラウンドエフェクトにより多く稼ぐという、明確な狙いがありました。
対するメルセデスは、ややウイングを立てた仕様にしていました。これにより、ブレーキングやコーナリング時の安定性を出すという目論見です。しかし、これでは空気抵抗がやや大きく、ストレートではレッドブルに対抗できないということが土曜日の段階で見受けられる状況に。
その結果、レッドブルのマックス・フェルスタッペンは、メルセデスのルイス・ハミルトンに対して、予選では約0.25秒という大きな差をつけ、ポールポジションを獲得しました。それと同時にこの速さは、ホンダのパワーユニット性能が王者メルセデスの牙城に迫っていることを、改めて示した結果とも言えるでしょう。
フェルスタッペンvsハミルトンのシーソーゲーム
F1など、レースの晴天用スリックタイヤは、走行を重ねるとゴムが路面に張り付くことで、さらにタイヤが路面をとらえるグリップ力が増します。
ところが、フランスGP決勝当日、日曜日の午前中に雨が降り、金曜、土曜日の走行で路面に載ったタイヤのラバーが流れてしまいました。
F1の決勝時間までに路面はドライコンディションへと戻りましたが、路面の上にあったラバーは完全になくなり、滑りやすい路面に戻っている状況。こうなると、ブレーキングやコーナリングが難しいだけでなく、滑る路面によってタイヤの消耗や劣化も早めてしまいます。そんな難しいコンディションでの決勝スタートとなりました。
ポールポジションのフェルスタッペンはスタートでトップを守りましたが、ターン1~2にかけてオーバーラン。トップをハミルトンに明け渡してしまいます。これでハミルトンーフェルスタッペンという序盤の展開になりました。
レースは15周あたりからピットストップが始まる流れに。やはり路面は滑りやすく、タイヤの消耗を早める状況だった模様です。
フェルスタッペンは18周目にピットへと入り、タイヤをミディアムから硬めのハードへと交換。続く19周目にはハミルトンもタイヤをミディアムからハードへとチェンジしました。メルセデスチームは、2位フェルスタッペンとはピットストップ前に3秒ほどの差をつけていたので、両者がピットストップをしても十分ハミルトンをトップでコースに戻せると計算していたようです。
ところが、ハミルトンがピットから出てみると、フェルスタッペンが僅差で前に出ていました。
ハミルトンのピット作業とピットレーンの通過に要した時間は、フェルスタッペンよりも0.46秒ほど長かったという点はありましたが、それでもハミルトン陣営にとってはまさかひっくり返されるとは思っていなかったでしょう。
十分にトップを守れるとメルセデス側が考えていた差は、フェルスタッペンの超絶プッシュで打ち消されていたのです。
ピットを出た直後、フェルスタッペンはその周回の後半、かなりのハイペースで走っていました。まさにそこはポール・リカール・サーキットのストレート区間を含み、高速・中速のコーナーが続く、レッドブルのマシンが得意とするところでした。
これで最初のピットストップを終え、トップはフェルスタッペン。2位ハミルトンという展開になりました。
両者ともハードタイヤに履き替え、このままゴールまで走り切るように見えました。ところが32周目、トップ走行中のフェルスタッペンは2回目のピットストップを行い、タイヤをミディアムに戻したのです。
圧倒的な速さ、やられたらやり返す
2回目のピットストップに伴い、フェルスタッペンは順位を4位まで落としてしまいます。トップに浮上したハミルトンとは、18秒あまりの大差がついてしまいました。しかし、レッドブルチームは、フィニッシュチェッカーを受けるまでにフェルスタッペンは挽回できると計算していたようです。
一方、ハミルトンはフェルスタッペンのピットストップに反応して動くようなことはせず、トップを堅持する方針を取りました。ゴールまで走り切る前にタイヤが性能劣化するという懸念材料も少なからずあった中での判断です。
ハミルトンにとっては、全車20台がトラックを走行し続けることで、再びコース路面にタイヤのラバーが載り、路面のグリップが回復&タイヤが長持ちするという展開が望みでした。
そしてハミルトンにとって、2度目のピットストップがしづらくなった決定的な理由もありました。それは3位を走行していたセルジオ・ペレスの存在です。
ハミルトンがもしピットに入っても、ペレスの後ろでコースに出てしまうのです。実際、フェルスタッペンはピットストップ後にペレスの後ろとなりましたが、レッドブルのチームメイトということもあり、楽に抜かせてもらっていました。
しかし、ライバルチームであるメルセデスのハミルトンでは、そうとはいきません。
2回目のピットストップを終えたフェルスタッペンは、驚異的なハイペースを連発して、ハミルトンを追います。そして、32周目のピットストップ直後には18秒あまりあった差を、42周目には5秒以内とし、49周目には2.5秒差まで詰めました。
その間、周回遅れのマシンを抜くため動きが停滞したラップもありましたが、50周目1.6秒差、51周目0.7秒差とフェルスタッペンは確実にハミルトンを追い詰める展開に。
そして残り1周半となった52周目のバックストレートでフェルスタッペンはついにハミルトンを抜き去り、トップのポジションを取り戻します。
リアウイングのフラップを寝かせて、スピードを上げるDRSの効果と相まって、レッドブルが持つ速さの優位性を最大限に活用したオーバーテイクとなりました。スタートから続いた二人の熱いシーソーゲームは、これで決着がつきました。
これはまるでスペインGP決勝でハミルトンがフェルスタッペンにやったことを、そっくりそのままフェルスタッペンがやり返したような構図となります。
路面変化とタイヤ選択の難しさ
ハミルトンが期待していた展開、路面にラバーが載り、グリップが向上する効果は実際に起こっていました。しかし、その路面変化の読みは極めて難しいものだったと言えるでしょう。
こうしたなかで大成功だったのがアストン・マーティン勢でした。セバスティアン・フェテルは12番手スタートから9位フィニッシュ。ランス・ストロールは19番手スタートから、入賞圏内の10位でゴールしています。
他のチームと同じ戦略を取らず、アストン・マーティンはハードタイヤでのスタートを決断。その判断は決勝で有利な展開となり、ダブル入賞でレースを終える結果となりました。
フランスGPでスタート位置からゴール時まで順位を上げたドライバーは8人いました。そのなかでもストロールは最大となる、9つも順位を上げる結果に。
このストロールに次いで、7つ順位を上げたのは、ピットレーンから最後尾スタートとなった角田裕毅(決勝13位)でした。
その一方で決勝では路面が良くなってからも、苦しんだチームも。フェラーリ勢にとっては展開的にかなり厳しい状況だったようです。彼らはフロントウイングを寝かせ、空気抵抗を少なくしてストレートスピードを稼ごうとしていました。
その結果、フロントタイヤが滑りやすくなり、コーナーでの動きが悪くなったうえ、タイヤも消耗しやすくなるという苦境にあったようです。結局、フェラーリ勢は、チャールズ・ルクレール16位、カルロス・サインツ11位とノーポイントに終わり、コンストラクターズランキングでも一つ落として4位となってしまいました。
オーストリア、レッドブルリンクでの2連戦へ
かくしてフランスGPは終わりました。次はオーストリアのレッドブルリンクでの2連戦となります。
フランスGPに続き、通常のサーキットに戻っての2、3戦目です。
レッドブルは地元コースでメルセデスをさらに突き放すのか、それともメルセデスは王者の意地を見せて巻き返すのか。
そしてマクラーレン、フェラーリ、アルファタウリ、アストン・マーティン、アルピーヌら中団グループの戦いも、激化の様相を呈しています。3週連続グランプリ開催の2週目シュタイアーマルクGP&3週目オーストリアGPも、見逃せない展開になることは間違いありません。
過去のアーカイブ
【連載】小倉茂徳の視点
- 第27回・ハミルトンが第4戦大逆転勝ち!ライバルを「詰ませた」王者の巧妙なレース運び|F1
- 第28回・モナコGPはフェルスタッペンが完勝!従来と異なる展開となった伝統の一戦|F1
- 第29回・波乱続きのアゼルバイジャンGP、勝負への強い熱意が明暗を生む結果に|F1
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月26日(金) ~27日(土) | 3月28日(日) |
第2戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月16日(金) ~17日(土) | 4月18日(日) |
第3戦 | ポルトガルGP | 4月30日(金) ~5月1日(土) | 5月2日(日) |
第4戦 | スペインGP | 5月7日(金) ~ 8日(土) | 5月9日(日) |
第5戦 | モナコGP | 5月20日(木) ~22日(土) | 5月23日(日) |
第6戦 | アゼルバイジャンGP | 6月4日(金) ~5日(土) | 6月6日(日) |
第7戦 | フランスGP | 6月18日(金) ~ 19日(土) | 6月20日(日) |
第8戦 | シュタイアーマルクGP | 6月25日(金) ~26日(土) | 6月27日(日) |
第9戦 | オーストリアGP | 7月2日(金) ~ 3日(土) | 7月4日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月16日(金) ~ 17日(土) | 7月18日(日) |
第11戦 | ハンガリーGP | 7月30日(金) ~31日(土) | 8月1日(日) |
第12戦 | ベルギーGP | 8月27日(金) ~28日(土) | 8月29日(日) |
第13戦 | オランダGP | 9月3日(金) ~ 4日(土) | 9月5日(日) |
第14戦 | イタリアGP | 9月10日(金) ~ 11日(土) | 9月12日(日) |
第15戦 | ロシアGP | 9月24日(金) ~25日(土) | 9月26日(日) |
第16戦 | トルコGP | 10月8日(金) ~ 9日(土) | 10月10日(日) |
第17戦 | アメリカGP | 10月22日(金) ~ 23日(土) | 10月24日(日) |
第18戦 | メキシコGP | 11月5日(金) ~ 6日(土) | 11月7日(日) |
第19戦 | サンパウロGP | 11月12日(金) ~ 13日(土) | 11月14日(日) |
第20戦 | カタールGP | 11月19日(金) ~ 20日(土) | 11月21日(日) |
第21戦 | サウジアラビアGP | 12月3日(金) ~ 4日(土) | 12月5日(日) |
第22戦 | アブダビGP | 12月10日(金) ~ 11日(土) | 12月12日(日) |