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【コラム】第23回「実は今季がベストシーズンだった、ビノットの4年間」|F1解説者ムッシュ柴田のピットイン

【コラム】第23回「実は今季がベストシーズンだった、ビノットの4年間」|F1解説者ムッシュ柴田のピットインDAZN
【F1 コラム】解説者も務めるモータースポーツジャーナリスト、柴田久仁夫がF1の今に迫る。
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フェラーリのビノット代表が失脚…今季限りで完全離脱

フェラーリはこのほど、マッティア・ビノット代表の辞任を発表しました。フェラーリの今季の惨状を思えば、最高責任者の更迭は妥当な人事なのでしょう。ビノットはなぜ、フェラーリを復活できなかったのか。この4年間を振り返りつつ、その辺りを検証してみようと思います。

ビノットは1995年にフェラーリに新卒で入社以来、ずっとF1エンジンの開発に携わってきた生え抜きのエンジニアです。2014年からはV6ハイブリッドパワーユニット部門の最高責任者、2016年には車体も含めた全開発部門を統括する最高技術責任者に就任。そして2019年3年前にチーム代表に上り詰めました。

現在53歳のビノットはミハエル・シューマッハと同い年で、フェラーリ入りもほぼ同時期。シューマッハがフェラーリで勝ちまくっていた2000~2004年は、エンジン開発者として彼の活躍を支えてきました。

その後のフェラーリは、2007年のキミ・ライコネンによるドライバーズタイトル、そして翌年のコンストラクターズタイトル獲得を最後に、今に至るまで無冠状態です。黄金時代の立役者ジャン・トッド以降、チーム代表はステファノ・ドメニカリ、マルコ・マティアッチ、マウリツィオ・アリバベーネと次々に入れ替わりましたが、いずれも不振の責任を取って退任しています。

こうして2019年からビノットがチーム代表になったわけですが、上に挙げた過去のチーム代表との一番の違いは、ビノットがエンジニア出身だったことです。エンジニアからの信任も厚く、本人も技術に関しては絶対的な自信があったのでしょう。代表就任後も、開発総責任者を長く兼務してきました。今季から導入されたグランドエフェクトカーの開発に際しても、ビノットが陣頭指揮を執ったと言われています。

2022-12-01 2019 Mattia Binotto Leclerc Vettel Ferrari F1 Formula 1Getty Images

就任初年度2019年のフェラーリは、オフテストで群を抜く速さを発揮、チャンピオン大本命と目されました。

ところが蓋を開けるとライバルのメルセデスに開幕8連勝を許し、モナコでのシャルル・ルクレールのQ1落ちに代表されるような戦略ミスも何度かありました。

それでも夏休み明けのベルギーGPから3連勝を果たし、一気に戦闘力を回復したように見えたのですが、相変わらずの戦略ミスに加えて、セバスチャン・ベッテルとルクレールのどちらを重視するのか、どっちつかずのドライバー管理と、振り返れば今季と同じようなことをやっていたことになります。

そしてとどめが「FIAとの極秘和解疑惑」でした。シーズン中盤以降、突如パワーアップしたフェラーリ製PUには規約違反の噂がつきまとい、FIAもそれと知りながら極秘に手打ちをしたという疑いです。フェラーリはもちろん全面否定していましたが、FIAが矢継ぎ早に出した技術指令書によって、結果的に戦闘力を失っています。

2020-09-25 Formula 1 F1 Leclerc FerrariGetty Images

そして翌2020年のマシンは車体の空力効率が最悪で、まさかの未勝利、コンストラクターズ6位に終わりました。続く2021年も未勝利でしたが、それなりに戦闘力を取り戻し、コンストラクターズも3位まで戻しています。

何より注目すべきは、翌2022年からの大規模な車体規約変更を見据え、早くから新車開発に着手していたことです。その目論見が的中し、2022年型のF1-75は少なくともシーズン前半は最速マシンでした。そこはビノットの技術者としての手腕と、先見の明と言うべきでしょう。

しかしその後は、ご存知のように大失速。レッドブルに大差をつけられての選手権2位が精一杯でした。

2022-12-01 Mattia Binotto Leclerc Sainz Ferrari F1 Formula 1Getty Images

こうして見るとビノットの4年間の「治世」は、失敗続きだったことがわかります。そして皮肉なことに、最悪なシーズンに思えた今季が、実は最良の1年だったことです(2019年もコンストラクターズでは2位でしたが、ドライバーランキングはルクレール4位&ベッテル5位)。しかし勝てる実力のあった2022年と2019年は戦略ミス、ドライバー管理の迷走が頻発し、自滅しています。

エンジニアとしてのビノットは、間違いなく優秀でした。しかし残念ながら部下たちをぐいぐい引っ張って行くリーダーシップとかカリスマ性は、致命的に欠けていました。その点で言えば、強烈な個性の持ち主である現アルファロメオ代表のフレデリック・バスールの方が、よほど適任でしょう。

2022-12-01 Mattia Binotto Frederic Vasseur Ferrari F1 Formula 1
しかし後継大本命と言われながら、いまだにバスール就任の正式な発表はありません。どうやら本人から、前向きな返事をもらえてないようです。Getty Images

一方で技術部門の要としてなら今後も十分に活躍が期待できるビノットは、フェラーリから去る決断を下しました。このままではフェラーリは2023年も、茨の道を歩むことになりそうです。

文・柴田久仁夫(しばた・くにお)

1956年静岡県生まれ。1980年代よりフランス・パリを拠点とし、TV番組制作の現場で手腕を振るう。1987年よりF1の世界にも足を踏み入れ、それ以来数々のレースを取材してきた。訪れたサーキットでは素足でトラックの感触を確かめるというライフワークも行っている。2016年より本拠地を東京に移し、現在は『DAZN』のモータースポーツ中継でも解説を務める。

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