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【コラム】第25回「F1帝国を築いた男、バーニー・エクレストン」|F1解説者ムッシュ柴田のピットイン

【コラム】第25回「F1帝国を築いた男、バーニー・エクレストン」|F1解説者ムッシュ柴田のピットインDAZN
【F1 コラム】解説者も務めるモータースポーツジャーナリスト、柴田久仁夫がF1の今に迫る。
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F1の歴史とともに歩んだ“生き字引き”バーニー

「F1とはどんな世界で、誰が作り上げたのか」今まで見たこともない数々の映像と貴重な証言を交え、その疑問に存分に答えてくれたのが『DAZN』制作のドキュメンタリー「LUCKY!」です。

主人公はバーニー・エクレストン。世界選手権とは名ばかりの欧州ローカルだった自動車レースを、オリンピックやサッカーワールドカップに匹敵する世界的なイベントに育て上げ、自身も4000億円近い資産を築いた男の一代記です。

といっても単なる大金持ちの成功物語ではなく、多くの失敗や挫折、葛藤がバーニー・エクレストン本人のひとり語りで綴られています。

現役時代から毀誉褒貶に満ち、92歳の今も詐欺罪で起訴されたりしているバーニーが、カメラ目線でF1の裏と表、その全てを語る。

各編45分で全8話という長い作品ですが、こちらをじっと見据える彼の眼差しと、虚実取り混ぜたような話術に引き込まれ、あっという間に見終わりました。

かつてはレーサーとしてモナコGPに参戦

2023-01-19 1958 Monaco Bernie Ecclestone F1 Formula 1Getty Images

物語は1950年のイギリスGPから始まります。歴史的なF1初戦の様子は、これまで断片的な写真や動画で見たことはありましたが、これだけの長さのフルカラー映像は初めてでした。イギリス国王夫妻や多くのファンが訪れる様子、アルファロメオのジュゼッペ・ファリーナが優勝するまでのレース展開が、たっぷりと見られます。

第二次大戦終結から、まだ5年余り。空軍の飛行場だったシルバーストンにバーニーは観客として訪れ、前座のF3レースに出場。数年後の1958年にはモナコGPで念願のF1ドライバーになりましたが、あえなく予選落ちでした。

二輪ディーラーや中古車販売で成功したバーニーは、その後F1ドライバーのマネージメントに乗り出します。後のF1王者ヨッヘン・リントとはマネージャーの間柄であり、親友でもありました。

自宅でくつろぐリントが奥さんのニーナに「何がしてほしい?」と訪ねるシーンが出てきます。彼女は微笑みながら「レースをやめて」と答える。しかしリントはレースに出続けます。

それから間もない1970年のイタリアGP予選でリントは大クラッシュを喫し、命を落としました(※リントは後に同年の年間チャンピオンに。死後に王者となった唯一のドライバー)。この事故発生直後、現場のパラボリカへと走って行くバーニーの後ろ姿も映像に収められており「死んでチャンピオンになるより、生きていてほしかった」と被るバーニーの声は、どこまでも哀切です。

ブラバムの幹部からF1の中核に

2023-01-19 1978 Niki Lauda Bernie Ecclestone F1 Formula 1Getty Images

それでもバーニーはF1に関わり続け、1972年にはブラバムを買収。ネルソン・ピケを擁してタイトルを獲得する一方で、F1運営にも携わるようになります。

というのも当時のF1はチーム間の結束も弱く、主な資金源だった各国レース興業者とのギャラ交渉も満足にできていない状況でした。そこでバーニーが交渉を一手に引き受け、実績を上げていったのでした(レース直後、札束をやり取りする光景は必見ですよ)。

すると本来のF1運営組織であったFISA(国際モータースポーツ連盟)が介入してきて、激しい権力闘争を繰り広げます。ちなみにFISA会長のジャン・マリー・バレストルは、1989年の鈴鹿でのあの接触事故で、アイルトン・セナに失格を言い渡した人物です。

その後もフェラーリに代表される自動車メーカー系チームと利害が衝突したり、逆にウィリアムズやマクラーレンと分配金をめぐって対立したり、バーニーのF1人生は戦いの連続でした。

F1を世界的なスポーツイベントに成長させる

2023-01-19 1986 Senna Prost Mansell Piquet Bernie F1 Formula 1Getty Images

早くから「これからはTVの時代だ」と見極めていたバーニーは、レースごとの興行収入ではなく、TV中継で稼ぐシステムを1980年代に導入します。そこでこだわったのが「年間全戦中継」と「無料放送」でした。人気のあるモナコやイギリスだけでなく、全戦抱き合わせで契約させ、多くの視聴者に観てもらう狙いでした。

ヨーロッパのF1ファンが日曜日の午後に家族そろってレースを楽しむ習慣は、こうして定着したわけです。今では当たり前となっている車載カメラ搭載やガレージ内の映像も、バーニーの発案でした。

さらに1987年日本GP予選でナイジェル・マンセルが事故を起こし、同年のタイトルがピケに決まった一件を受けて、予選の生中継も決断します。

その結果、全世界のF1延べ視聴者数は毎年1億人単位で増加を続け、2008年には19億人に。F1の年間収入も約8億ドル(当時のレートで約1000億円)まで膨れ上がりました。

チームへの分配金がそのうちの30%未満だったことから不満が沸き起こりますが、バーニーは「運営に1セントも払ってないくせに」と相手にしませんでした。「F1チームは映画俳優のようなものだ。映画自体がなければ、彼らは存在できない」という彼の言葉からは、自身の仕事への強烈な自負が感じられます。

この頃がバーニーの絶頂期だったと言えるでしょう。その後、持ち株の大半をドイツの投資銀行に売却し、それでもCEOとして絶大な権力を振るい続けました。

現在92歳バーニーは完全に過去の人に

2023-01-19 2018 Putin Bernie Ecclestone F1 Formula 1Getty Images

しかし2016年にリバティメディアが新たなオーナーになると唐突に解任され、表舞台から姿を消したのでした。

「私のF1が終わった。結婚に似ている。始めるのは簡単だが、幕引きは難しい」

バーニーのコメントは、最後まで洒脱でした。

あれから7年が経ち、バーニー・エクレストンはF1界では完全に過去の人となりました。

なので今回のドキュメンタリーにしても“今さら”感は拭えませんでした。ところが実際に観てみると、とんでもなく面白く、示唆にも満ちている。オールドファンには堪らないでしょうし、若い人たちもきっと楽しめる作品です。

文・柴田久仁夫(しばた・くにお)

1956年静岡県生まれ。1980年代よりフランス・パリを拠点とし、TV番組制作の現場で手腕を振るう。1987年よりF1の世界にも足を踏み入れ、それ以来数々のレースを取材してきた。訪れたサーキットでは素足でトラックの感触を確かめるというライフワークも行っている。2016年より本拠地を東京に移し、現在は『DAZN』のモータースポーツ中継でも解説を務める。

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チーム・ドライバー

日程・番組表

 レースフリー走行・予選決勝
第1戦バーレーンGP 3月3日(金) ~4日(土)3月5日(日)
第2戦サウジアラビアGP 3月17日(金) ~18日(土)3月19日(日)
第3戦オーストラリアGP 3月31日(金) ~ 4月1日(土)4月2日(日)
第4戦アゼルバイジャンGP 4月28日(金) ~ 29日(土)4月30日(日)
第5戦マイアミGP 5月5日(金) ~ 6日(土)5月7日(日)
第6戦エミリア・ロマーニャGP 5月19日(金) ~ 20日(土)5月21日(日)
第7戦モナコGP 5月26日(金) ~ 27日(土)5月28日(日)
第8戦スペインGP 6月2日(金) ~ 3日(土)6月4日(日)
第9戦カナダGP 6月16日(金) ~ 17日(土)6月18日(日)
第10戦オーストリアGP 6月30日(金) ~ 7月1日(土)7月2日(日)
第11戦イギリスGP 7月7日(金) ~ 8日(土)7月9日(日)
第12戦ハンガリーGP 7月21日(金) ~ 22日(土)7月23日(日)
第13戦ベルギーGP 7月28日(金) ~ 29日(土)7月30日(日)
第14戦オランダGP 8月25日(金) ~ 26日(土)8月27日(日)
第15戦イタリアGP 9月1日(金) ~ 2日(土)9月3日(日)
第16戦シンガポールGP 9月15日(金) ~ 16日(土)9月17日(日)
第17戦日本GP 9月22日(金) ~ 23日(土)9月24日(日)
第18戦カタールGP 10月6日(金) ~ 7日(土)10月8日(日)
第19戦アメリカGP 10月20日(金) ~ 21日(土)10月22日(日)
第20戦メキシコシティGP 10月27日(金) ~ 28日(土)10月29日(日)
第21戦サンパウロGP 11月3日(金) ~ 4日(土)11月5日(日)
第22戦ラスベガスGP 11月16日(木) ~ 17日(金)11月18日(土)
第23戦アブダビGP 11月24日(金) ~ 25日(土)11月26日(日)