年齢との戦い
中央で活躍したノンコノユメが荒山厩舎に転厩してきたのはキャリア晩年の7歳時。2019年3月のドバイ遠征でゴドルフィンマイルに出走し、10着に敗れた後だ。
「ネームバリュー、実績ともに十分の馬。預けていただけたのは光栄でしたが、結果を残さなければいけないプレッシャーもありました」
そう荒山師が振り返るように、その後の厩舎にとってノンコノユメは特別な存在となった。
ゴドルフィンマイル前に出走したチャンピオンズカップとフェブラリーSでは、それぞれ7着、13着に敗れていたが、転厩初戦となった2019年の帝王賞で初コンビの真島騎手を背に、8番人気ながら3着に好走。次走のサンタアニタトロフィーで転厩後の初勝利を飾った。
さらに、その年の12月には東京大賞典でオメガパフュームの2着と意地を見せ、7歳でも頂点を争えることを証明。しかし、そこからは年齢の壁を感じさせる結果に。フェブラリーS(8着)、帝王賞(5着)、JBCクラシック(10着)、東京大賞典(11着)と、8歳となった2020年に出走したJpnIでは厳しいレースが続いた。
カギは闘争心
そんな中、今年初出走となった前走は大井2600メートル戦の金盃に挑戦するも、7着に惨敗。敗因について荒山師は、初めて長距離を走った影響ではなく、9歳馬となったノンコノユメ自身のメンタル面だと説く。
「レース後に真島騎手も話していましたが、距離の問題ではなく、良い頃に比べるとノンコ自身の覇気やモチベーションが薄れてきていると感じました。年齢的なものもあると思うし、それは厩舎サイドでもすごく感じていたこと。辻褄が合いました」
真島騎手は昨年8月の骨折による離脱期間があったため、ノンコノユメに騎乗したのは前走が8カ月ぶりに。久々にコンビを組み、やはりメンタル面の変化を感じ取ったという。
「年齢的に少し図太くなって、ハングリーさが薄れてきている印象でした。転厩してきた当初は闘争心が凄かったですし、やはり少し大人しくなってきていると感じました」
3歳時に世代の頂点に立ったノンコノユメは、前走が通算40戦目。むしろ、これほどトップレベルで戦い続けてきたこと自体が称賛に値する。前走後には、「引退」の2文字がよぎり、実際に考慮するところまでいっていたことを荒山師が明かす。
「金盃の後は休養し、いつもどおり山元トレーニングセンターに放牧に出しました。厩舎と真島騎手の意見を伝えると、山元サイドの見解も同じでした。馬の状態面に悪いところはなく、やはり年齢的な衰えと、良い頃の覇気がなくなってきていると」
「そこから関係者にコンタクトを取って、年齢のこともあるし十分に頑張ってくれたから、このままモチベーション面に変化がなければ引退させることを考えよう、というところまでいきました」
それでも、山元トレセンでの調整で変化の兆しが見えたことで、帝王賞への参戦を決めた。
「山元トレセンから『徐々にやる気が見えてきました』という話があり、帝王賞に向けて引き続き様子を見てもらうことに。そこから帰厩し、厩舎サイドでもノンコのやる気がだいぶ出ているのが見て取れたので、帝王賞への出走を決めました」
「やる気を出してもらうために山元トレセンで少しハードにやってきたことを感じさせる馬体でしたので、入厩後はケアしつつ調整してきました。担当厩務員もノンコの覇気が戻ってきていることを感じています。さすがに、一番良い頃に比べると少し落ちるのは確かですが、近走と比べると良い頃に近づけています」(荒山師)
いざ帝王賞へ
今回の帝王賞は、中央のオメガパフュームやチュウワウィザードといった歴戦のJpnIウイナーだけでなく、地方からもカジノフォンテンやミューチャリーなど強敵が参戦。帝王賞史上でも最高クラスのメンバーと言えるだろう。真島騎手が「今回は凄いメンバーが出てくるので、本当に挑戦する立場になります」と口にするように、9歳馬のノンコノユメにとって簡単な戦いではない。
それでも、大井2000メートルはジャパンダートダービー優勝の舞台であり、帝王賞では過去3戦で2着、3着、5着と掲示板を外していない。荒山師が「結果を見れば、大井2000メートルはノンコに最も合っている舞台」と語る中、真島騎手は相手関係が厳しくなることがノンコノユメにとって良い刺激になることを期待する。
「ノンコの最大のセールスポイントは、強い馬が多いほど燃えるタイプということ。メンバーが手薄な中で目標にされると弱いタイプなので、強敵がいたほうがストロングポイントを活かせると思います」
「(好走するためのポイントは)ノンコと僕がうまくコミュニケーションを取ること。僕がノンコをレースに集中させられるかどうかだと思います。コーナーで気を抜くところがあるので、最終コーナーまでの各コーナーをしっかり集中できるように、うまくコミュニケーションを取って乗りたいです」
今回は約4カ月ぶりのレースとなるが、「今までは目標に向けて段階的に仕上げていくイメージでした。ですが、荒山先生や厩務員さんたちとも話して、今回から一回一回しっかりと仕上げていくということで、レースに向かったときの変化が楽しみです」(真島騎手)のとおり、休み明けでも渾身の仕上げでレースに臨む。真島騎手はパートナーへの思いを口にする。
「ノンコとコンビを組ませてもらって僕も勉強になったし、糧にもなりました。時間もないですし、騎乗できる回数も限られていると思うので、一回一回うまく結果につながるようなパフォーマンスを出せるように乗りたいです」
多くのファンがいる名馬を送り出す荒山師の口調も熱を帯びる。
「中央競馬しか見ていなかった競馬ファンの方で、ノンコを見たいということで地方競馬に興味を持ってくださった方がたくさんいることも知っています。ファンの皆さんに、『ノンコ、9歳になっても頑張ってるな!』と思っていただけるように、『9歳でも、これだけできるんだ』というところを何とかお見せしたいです」
9歳馬、ノンコノユメが陣営の熱き思いを乗せて帝王賞のスタートを切る。
取材・構成=音堂泰博