この男が打席に立つと、期待に満ちた空気が球場内に漂う。打撃絶好調の吉川尚輝が19日から広島を本拠・東京ドームに迎えての首位攻防戦でも、攻守においてキーマンとなる。
そのバットはまさに破竹の勢いだ。直近5試合では17打数9安打、打率5割2分9厘を誇り、3月31日のヤクルト戦(神宮)から4月17日の阪神戦(甲子園)まで14試合連続安打を継続中。打率3割7分はリーグ2位であり、得点数は同トップタイの12。1番での出場が続く中、特に初回先頭の打席は19打数8安打1死球、出塁率4割5分と相手先発投手の立ち上がりを難しくしている。「球数を投げさせることや、とにかく出塁することを意識してやっています」という言葉通り、トップバッターとしての役割をこれ以上ないほどに果たしている。
特筆すべきはコンタクト率の高さだ。ここまで吉川の三振数は、規定打席に到達している両リーグの選手の中では最少の3。打席数もセ・リーグでは7位の82打席に立っての数字だから、いかに少ないかが際立つと言える。「早いカウントから打ちにいっていることも多いので、それで少ないんだとは思います」と吉川本人は分析するが、実は追い込まれてからの打席でもここまで33打数12安打、打率3割6分4厘と粘り強い対応を見せている。つまりは続けた言葉が、好調の要因ということだろう。
「三振数は特に意識はしていませんが、しっかりと準備をして打ちにいけているとは思います」。
打撃フォームの調整だけでなく、頭の中をしっかり整理できているからカウントの状況にかかわらず甘く入った球を逃さない打撃ができている。三振では何も状況が変わらないが、転がせば可能性が生まれる。つまり、打順が吉川に回れば“何かが起きる”と思えるのだ。
開幕前には「1番と5番」を打つ打者の選定に頭を悩ませていた原監督も、吉川の活躍には「このところの尚輝はすごい。守備もいいしね。打ってよし、投げてよし、走ってよし」と目を見張る。二塁手として、持ち味の広い守備範囲はチームどころか球界屈指の域。吉川に代わって違う選手が二塁を守っていたあるオープン戦のこと。二遊間の打球に追いつけずに中前安打となったシーンで「記録は安打だけど、尚輝なら捕ってたな」と指揮官がつぶやいたこともある。頭の中で“吉川の残像”と重ね、そこに決定的な差を感じ取る。
やはり巨人打線の核は、2番・坂本、3番・ポランコ、4番・岡本和、5番・丸であるが、その前に吉川が出塁できてこそ、破壊力が段違いに増す。原監督も「吉川は塁に出れば、相手に塁上からプレッシャーを与えてくれるでしょ?」と指摘する。その俊足を警戒したバッテリーが速球中心の配球となるなど傾向も生まれやすく、後続の打者に与える影響は大きい。今季から背番号2を背負う吉川も、かつて同じ番号を背負った元木大介ヘッド兼オフェンスチーフコーチを引き合いに出し「いやらしい選手を目指して頑張ります」と意欲を見せる。
巨人において、1シーズンで100試合以上にスタメン出場した1番打者は、2012年の長野久義(現広島)を最後に9年間現れていない。吉川も過去5年で規定打席に到達できたのは20年の一度のみ。その中には試合中の不運な故障もあったが、本人も「強い体を作って1年間戦えるように」と自覚を持ち、岡本和らと自主トレを行ったオフ、ウェートトレーニングに熱心に取り組んで体も一回り大きくなった。打球の質も変わってきたのは首脳陣も認める所。長年、チームの泣き所となっていた課題に、満点解答が導き出せるシーズンとなるか。吉川にかかる期待は大きい。
文・西村茂展
1980年5月19日生まれ。41歳。2003年に報知新聞社入社。アマ野球、巨人、メジャー担当を経て、今年は巨人担当キャップ4年目。
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