2019年のプロ野球で北海道日本ハムファイターズが採用し、議論を生んだ『ショートスターター戦術』。MLBのタンパベイ・レイズが採用した『オープナー戦術』をアレンジしたものだが、両者は似て非なるもの。両戦術の違いやメリット、デメリットとは?
オープナー
オープナー戦術とは、本来中継ぎの投手が先発として起用され、1〜2回の短いイニングを投げたのちに本来の先発投手をロングリリーフとして継投する起用法のこと。2018年シーズンにレイズが初めて本格的に採用し、以降は他のチームにも広まった。
レイズが考案したオープナー
2018年のレイズは、オフに投手、野手共に主力が抜けたことで、低迷が予想されていた。層が薄かった先発陣を支えるために考案されたのが、オープナー戦術。2018年5月19日に行われたロサンゼルス・エンゼルス戦で、クローザーを務めるセルジオ・ロモがメジャー11年目で初めてとなる先発で登場すると、三者連続三振で初回を抑える快投を見せた。2番手には本来の先発であるライアン・ヤーブローが登板し、8回1アウトまでに被安打4失点1に抑え、その後は3人の継投で逃げ切り、レイズが5-3で勝利している。
驚くべきことにロモは、翌日の試合でも先発で登場し1.1回を投げて3つの三振を奪う活躍。その後は3人の継投を行なったレイズだが終盤に失点を重ねると、打線もエンゼルス先発の大谷翔平を打ち崩すことができずに2-5で敗れた。しかしレイズはその後もこの戦術を継続する。苦戦が予想されていたシーズンだったが、最終的には90勝72敗と大きく勝ち越しに成功した。その他にも投手陣にケガが相次いだロサンゼルス・ドジャースやミネソタ・ツインズ、テキサス・レンジャーズなど様々なチームがオープナーを実践した。
2019年に入ると、ニョーヨーク・ヤンキースをはじめ、より多くのチームがオープナーを採用した。同年7月12日にはエンゼルスがオープナーによる継投からノーヒットノーランを達成。また、オープナーを継続したレイズも、6年ぶりにポストシーズン進出を果たすなど、新たな戦術が結果に結びついたシーズンとなった。
ショートスターター
MLBが採用するオープナー戦術をアレンジしたものが、日本ハムが用いるショートスターター戦術。オープナーは中継ぎ投手が初回を投げ、その後を本来先発を務める選手が引き受けて継投していく戦術だが、ショートスターターは、先発が打者と一巡対戦する3回を目処に交代する早めの継投策のこと。日本ハムの他にも横浜DeNAベイスターズも用いた戦術だ。
日本ハムのショートスターター
「一番勝ちやすい形は何なのか。どう考えたら選手が輝くのか」を模索する栗山英樹監督が、編み出したショートスターター戦術。2017年シーズンに先発として17試合に登板した加藤貴之は、5勝8敗の防御率4.53と苦しんだ。しかし加藤は打者と対戦する1巡目の被打率が.221と低く、2巡目は被打率.308、3巡目は被打率.330と高くなる傾向にあった。そこに目をつけた指揮官が、加藤に一巡目を任せ、以降を継投していく戦術を作り上げた。
最初にショートスターターを用いたのは、2019年4月2日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦。先発の加藤は3回、打者10人を相手に被安打1、1奪三振、1四球の無失点と結果を残して、本来は先発である2番手のジョニー・バーベイトへと繋いだ。試合は後続が打たれて1-3で敗戦となったが、加藤は指揮官の思惑通りの結果を残した。
その後も積極的にショートスターターを用いる日本ハムは、同年5月1日の埼玉西武ライオンズ戦で初白星を挙げる。中継ぎだった堀瑞輝がシーズン初先発で登場すると、強打者揃いの西武打線を相手に2.1回を2安打1失点に抑えた。左手人さし指の皮がめくれたため3回途中で降板となったが、2番手の玉井大翔が2アウトをとると、4回からは本来先発のブライアン・ロドリゲスが3イニングを1失点に抑え、公文克彦、石川直也、鍵谷陽平が無失点リレーで繋ぎ7-2で勝利した。
このシーズンは先発完投型の上沢直之、ニック・マルティネスが故障離脱したこともあって、栗山監督は加藤と堀を最後までショートスターターとして起用。加藤は先発した21試合のうち15試合、堀は10試合のうち7試合で初回の失点を抑えるなど、両選手は新戦術の適性を示した。
利点・問題点
オープナーもショートスターターも戦術的な利点は2つある。1つは、不安定な初回の失点を減らすことができる点だ。本来、先発投手は長いイニングを投げることが求められており、ある程度力をセーブして投げるが、打者は1番から3番まで強打者が続くことが多いため、初回に失点する可能性は高い。そこで、先発で投げる投手が本来の力を発揮できるように短いイニングを任せることで、失点を減らす可能性が高まる。
もう1つは打者との対戦回数を減らせる点。加藤の例が示すように、試合中に同じ打者との対戦を繰り返すことで投手の被打率は高まる。しかしショートスターターならば、打者との対戦は1巡だけで終わる。一方のオープナーは強打者との対戦が続く初回をリリーフが担当し、それ以降を先発が引き継ぐため強打者が並ぶ上位打線との対戦回数を減らすことができるのだ。
しかし、これらの利点が問題点にもなる。オープナーの場合はレイズがクローザーのロモを起用したように、初回の失点を抑えるために力のある中継ぎを投入しなければならない。試合展開によっては僅差で試合終盤を迎えることも考えらるため、クローザーをオープナーとして起用してしまうと、後ろを任せる投手が不足してしまうという問題が出てくる。だからといって、実績のない中継ぎをオープナーとして起用することは本末転倒。強力な中継ぎが揃っているチームでないと、結果が出にくい戦術でもある。
ショートスターターについては、短いイニングでの継投を考えた戦術であるがゆえに、1試合で登板する投手が多くなってしまう。先発が3回まで、2番手が6回までを投げ、7回、8回、9回は勝利の方程式を注ぎ込む場合、最低でも5投手による継投が必要になってくる。シーズンを通してショートスターターを実施するのは、中継ぎの酷使につながりかねない。
2020年の日本ハムはショートスターターを継続
2020年の日本ハムは、上沢がケガから復帰を果たし助っ人にドリュー・バーヘイゲンを獲得するなど先発陣が厚みを増したが、ショートスターターは継続予定。昨年結果を残した加藤や堀に加え、2010年ドラフト1位で入団したハンカチ王子こと斎藤佑樹、ケガからの復活が期待される杉浦稔大、5年目を迎える上原健太などショートスターターの適性がありそうな選手が多い。
誰もが不可能と考えた大谷の二刀流を成功させた栗山監督。今度はショートスターターで固定概念を打ち崩せるか。2020年の日本ハムに注目だ。
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