勝負師の本能を垣間見た気がした。ペナントレースが終盤に差し掛かっていた2004年の秋。中日vs阪神戦の直前にナゴヤドーム(現バンテリンドーム)のトイレで用を足していると、当時の岡田監督(現野球評論家)が入って来るなり、ぼやき始めた。
「もう、どこで小便しても負けるぞ。今日はここでやるわ」
入念に便器を選びながらチャックを開け始めた。すると、続いて現れたのが平田ヘッドコーチ(現2軍監督)。「監督、僕はここでしますわ!」と言い残し、大便用の個室に入っていった。この年、阪神は鬼門と呼ばれた名古屋で2勝12敗と大きく負け越し、落合中日に優勝をさらわれる引き金となった。
ただ首脳陣も選手も転んだままでは終わらなかった。翌05年は語り草となっている9月7日の頂上決戦を延長11回の激闘の末に制するなど、ナゴヤドームで6勝5敗と開場9年目で初の勝ち越し。2年ぶりにペナントも奪回した。これまで24年間で5度しか勝ち越しのないバンテリンドームでの戦いは、シーズンを戦う上でも一つのポイントとなっている。
開幕から首位を走る阪神は、21日から今季最後の敵地での中日3連戦を迎える。ここまで4勝5敗と負け越しているものの、17年以来、4年ぶりにビジター勝ち越しの可能性を残している。矢野監督は「中日は投手が良いわけだし、まずバッテリーが粘りながら少ないチャンスを物にできるかどうか」としのぎ合いになる覚悟を固めている。
接戦を戦う上で何よりの強みは、ここまでリーグトップの95盗塁を誇る機動力だ。中野(22/以下盗塁数)、近本(21)がタイトルを争っているだけでなく、正捕手の梅野(8)、代走要員の植田(8)、熊谷(7)らが躍動感あふれる走塁を見せている。
試合の終盤に相手チームのセットアッパー、守護神が出てきても、果敢に足で揺さぶり、ホームを陥れてきた。イニング別の得点数を見ても、9回の45は堂々のリーグトップと驚異の粘りを生んでいる。
昨季からコロナ特例で1軍枠が29人から31人、ベンチ入りは25人から26人に拡大された。これに加えて今季は延長戦もない。試合の序盤はサンズ、マルテら空中戦を仕掛けられる助っ人打者らを起用する。その後は質量共に豊富な代走、守備固めを投入し、1点でも競り勝って守り抜く。現状ルールを生かした上で、「2つの顔」を持つ矢野野球が定着してきた。
「うちのチームは誰か1人では勝てない。チーム全員が一丸となって取りに行くような試合をやっていく。そこで成長していけるチームなんでね」
矢野監督は就任以来、一体となり、結束して戦うことを強調してきた。チームの象徴と言える盗塁はシーズン119ペースで、120に届けば、58年以来、63年ぶりの快挙。全力でダイヤモンドを駆け抜けた先に、16年ぶりのリーグ制覇、そして悲願の日本一が待っている。(報知新聞社・表 洋介)
文・表 洋介(スポーツ報知)
1979年10月17日生まれ。41歳。2003年に報知新聞社に入社。04年から阪神、中日と主にセ・リーグを担当。
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