夏本番。覚醒の2023年を歩む若武者の成長速度が、気温の上昇とともにグッと上がっている。巨人・秋広優人内野手（20）が25日から甲子園で行われる首位・阪神3連戦で聖地を沸かせる予感を漂わせる。今や中軸の一角である3番に定着。プロ初スタメン、初安打を飾ったのもつい3カ月前とは思えないほどの台頭ぶりを示している。
何と言っても今は驚異の4戦連発中。同じ高卒の松井秀喜や王貞治をも超える球団史上最年少の記録でもある。16日のヤクルト戦（神宮）で初回に高橋から右中間席へ放り込んだ7号ソロがスタート。翌17日の同戦では薄暮の中で打球が高々と舞い上がり、自身も右翼手も白球を見失うほどの右翼ポール際へのアーチをかけた。内角高めを、長い腕をたたんで放り込んでおり、技術も見せた一発だ。そして球宴ブレイクを挟み、22、23日のDeNA戦（横浜）でも一発をズドン。今季10本塁打にも到達した。節目に到達した喜びはあるが、慢心は一切なかった。
「（本塁打が）ちょっと増えてきて、目標でもあった2ケタホームラン。プロに入ってファームでも達成したことがなかったのでうれしいですけど、これからの試合が残っている。何本を目指すというよりは、一本、一本。ヒットもそうですし、一本、一本積み重ねていければいいなと思います」
4月18日に今季初昇格し、同22日・ヤクルト戦（神宮）に今季初出場を果たすと、球宴前時点では65試合に出場し、打率2割9分9厘、8本塁打、25打点を残した。「自分としては、最初の頃に思っていたイメージから想像以上ではあるんですけど、ずっと出させてもらっている以上はまだまだだなと思います」と前半戦を総括。レギュラーとして試合に出場している身としての自覚も垣間見えた瞬間だった。
一方で「まだ出始めなので」と先の数字を見すぎず、眼前の一打席に全力を注ぐ姿勢を貫くのも、ブレイクしている理由の一端だろう。昇格時から意識するのはセンター方向への打撃。「最初からずっとそれをやってきて、それが自分としてはしっくりきた。ところどころ良くない打席はありましたけど、そこに戻れるところがあるのがすごく自分にとって大きい。悪くなったときは今まで以上に意識しています」。コーチや先輩の存在も大きな力になっていると自己分析する。
「一番最初に（1軍に）来た時に、亀さん（亀井打撃コーチ）に今意識していることを聞かれて伝えました。亀さんと（中田）翔さんが見ていてくれていて、『秋広、今日こうなってるよ』と言ってくれる。自分でも映像とかで確認しますけど、自分では分からないそういうところも伝えてくれるおかげで修正ができています」
自主トレの師匠・中田翔は弟子について、「インサイドの真っすぐをさばけるのは天性」と言う。技術はもちろんだが、そのスター性も生まれ持ったものなのかもしれない。チャンスは限られている中、初スタメンでいきなりプロ初安打＆初打点を刻むと、初めて中軸の「3番」に入った5月25日・DeNA戦（東京ドーム）でも2安打1打点。思い返せば初安打は中田翔の誕生日でもあった。初本塁打を記録した4月29日・広島戦（東京ドーム）では師匠とのアベックアーチでチームもサヨナラ勝ち。ドラマ性もある場面を随所で見せている。
身長202センチ体重107キロの恵まれた体格も「天性」なのかもしれない。02年9月17日。172センチの父・伸也さんと165センチの母・陽子さんの間に3870グラムで産声を上げた。この時は超BIGではなかったが、すくすくと成長し、既に幼稚園時には130センチ以上の体になっていた。
「『牛乳をいっぱい飲んだでしょ』とか、『ずっと手足を引っ張っていたでしょ』とか言われますけど、そんなことないですよね。突然変異だと言われています」とは父・伸也さん。規格外の20歳は、プロとしての将来性も無限大だ。
このまま順調に好結果を積み重ねてシーズンを完走すれば、新人王だって見えてくる。まずは伝統の一戦で、2連勝中のチームをさらに明るく照らしてくれるはずだ。
文・田中哲（スポーツ報知）
1990年6月4日生まれ。33歳。山形県山形市出身。20年に報知新聞社に入社。楽天担当、日本ハム担当を経て23年から巨人担当。
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